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おばあちゃん、腰が痛い

「先生も、この地にいらした最初はご苦労なさったとあります」

「王国に仕える身として是非、お手伝い尽力して参ります」

 何なりとお申し付けください、とハマーは腰を上げ手綱を持ち乗馬を促す。さっきとは打って変わって丁寧に、王都に招待すると言う。

 おばあちゃんは鎧を着けた馬を前に、どどど、と驚き、若い頃に農作業で牛を引いたことしかない、と呟く。

「あたしは足が悪いから馬になんて乗れないよ」


 ヨヒシコも乗馬の経験などない。何よりおばあちゃんが落馬でもしたら大変だ。自分達は歩いて行く、と言うと、では、と兵士達が先導し、馬を引くハマーとガミルズに挟まれる形で歩き出す。隊列はおばあちゃんが、腰が痛い、と言う度に慌てて動きを止める。


「リウマチが痛い」

「もう少しだよ、おばあちゃん」


 ハマー達も手を貸そうとするのだが、自力で歩くと言って聞かないのだ。

 如何ほどこの遣り取りをしただろうか。壁のように並ぶ王国軍の陣地に着いた。鉄色の鎧兜や革の防具がじりじりと陽を受けながら、多少の動揺はあるが列は崩さずにいた。


 大凡だが、歩兵を中央に弓兵が左右に分かれ両翼に騎兵が並ぶ。旗を掲げている中央奥の一部隊が大隊長であるハマーの居た所だろうと歩きながら考えていた。

 そして移動中に、福沢諭吉先生はまだ貧しい群小国家だったこのイヴシュ王国に普通教育を創り、政治の在り方を説き、王家に助言を与え続け大陸の列強に発展させた事。没後も大賢者として語り継がれている事。いかなる爵位をも断った故に先生と呼ばれ、この国では諭吉のみを先生と呼ぶ、と言った話が聞けた。

 おばあちゃんは頻りに、あたしには難しいことは分からん、と言い陣地の前まで辿り着くと腰を下ろして背中を丸める。

「あたしはもう草臥れた」

「もう着いたよ、おばあちゃん」

「ここは何処ね」

「何処だろうね」

「どどど、人がいっぱいじゃ。お迎えが来たかねえ」

「まだ大丈夫だよ、おばあちゃん」


 この方達は諭吉先生と同じく彼の地より来られた大賢者である、とガミルズが声を限りにすると陣中は怒涛の如くおお、と響き、兵士たちはやはり、まさか、と口々に唱えだす。鳴り止まない驚嘆の渦を静めたのは馬に乗った小太りの男の登場だった。


 ええい、と不機嫌そうに腕を払いながら装飾具に包まれた馬で闊歩する王子に、ハマーとガミルズは右の掌を胸に付ける。簡易の敬礼みたいなものだろう。


「説明しろ、一体何なんだ大賢者とは」

 声を荒げる王子にハマーは、先程のガミルズが述べた言葉を丁寧にした。

 王子は顎に手を遣り黒目が宙を巡ると頬の白い肉がにやっと歪む。

「つまりは戦に完勝し大賢者とやらも見つけたと」

 左様です、と待たずに笑窪が口吻を漏らす。

「さては父上に献上するつもりだったな。でも指揮官は僕だからな」

 は、とハマーは小首を傾げるが指揮官は自分に頷きながら続ける。

「指揮官の僕が責任を持って王都に連れて帰る。ところで大賢者様が諭吉伝説とやらを受け継ぐとして。褒美は如何ほどだと考えていたのかな」

 ガミルズは目を閉じ呆れて溜息を漏らすが、ハマーは意味が分からず王子の問いを頭の中で反芻する。


「いやいや、僕は独り占めしないよハマー大隊長、ガミルズ導士」


 ハマーは思い浮かんだ事をもしも、と口を開く。

「お二人が諭吉先生の後継であるならば、褒美と言いますか王国に今後百年の発展が約束されると見受けます」

 それにはガミルズも頷く。王子は目を細め口元を覆った右手で勢いよく宙を薙ぎ払った。

「よし、大賢者様をお連れする」


「あたしはもう、腰が痛いので動けません」

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