23歳の誕生日
12時の鐘の音が鳴り響く…
「23歳の誕生日を職場で迎えてしまった」
マーガレットがぼーぜんとつぶやく。
今日は家には誰もいない。
妹のリラの出産のため、母と義父はリラの結婚相手の実家の領地に旅行中。
まあ義父は、リラが心配というよりも機関車に乗ってみたかっただけだと思う
「若い娘さんが、誰もいない家に帰るなんて危ない。城の仮眠室使っていいよ」
と、夕方、上司にいい笑顔で押し付けられた書類がまだ半分残っている
「ま、いっか。今日も明日も一緒だし、寝よ寝よ」
どうせ、朝、8時30分には仕事を始めなくてはいけないのだ。
城の仮眠室は確保済み、まだ風呂は使える時間。
風呂に入って、せめて6時間は寝たい。
疲れていた事と、夜中に風呂に入る人も居ないだろうとマーガレットはウッカリしていた。
ガラっと風呂の扉を開けると「キャッ」という低い声が風呂に響いた。
低いのにきゃって、低いのにきゃって・・
人間本当に驚いた時には、声が出ないのね。とマーガレットは実感した。
風呂の扉が開いて、顔見知りの騎士が出てきた。
「悪かったわ」
「裸を見られちゃって…お嫁にいけない。責任取ってよ」
「嫁って!あんた男でしょ!」
脱力するような会話の後に、ようやくマーガレットは風呂を堪能する事が出来た。
マーガレットはまだ知らない。
風呂から出た途端に、先ほどの騎士に拉致されて、食堂でむさい男達との酒飲みに付き合わされることを…
仮眠室がやたらと飾り立てられていて、誕生日を祝おうと待ち構えていた15歳の妹が寝落ちしている事を。
朝っぱらから二日酔いの胃袋に、生クリームたっぷりのケーキを詰め込む羽目になる事を。