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5章18話『復讐』

 少女は心底驚いたような顔でアルトを見る。


「あなたは……確か、アルトといったかしら」


「…………は?」


「あら、違った?」


「そっちじゃない。なんで、俺のこと知ってんだ?」


「そりゃだって……弟が世話になってる相手だもん、名前を覚えるのは当然でしょ?」


「……いや、そうじゃなくて…………」


「あぁ、もしかして刀の中からじゃ外が見えないって思ってる?もしそうなら、目つぶってみて」


 とりあえず、ここが刀の中ということは確定した。

 拒否する理由もないので、アルトはまぶたを閉じることにした。


「…………これは」


 アルトのまぶたの裏に写ったのは、レイナが霧島と格闘する映像。ヒラリヒラリとサブマシンガンを避ける霧島と、光の刀をナイフで受け止めるレイナの姿。それがしっかりと、音までついて流れ出した。


「こんな簡単に外が見えるものなのか」


 ヒロキの姉は頷いた。


「私はユリカ。ヒロキの姉よ」


「ユリカ、さんか……はじめましての所悪いが…………1つ頼みがある」


 アルトは右手をユリカに伸ばした。


「見ての通り、俺達はこのままでは負ける。主力がバタバタと殺されてってるからな。そこでだ」


 ユリカは不思議そうに首を傾げた。


「あなたの力を借りたい」


 鋭い眼差しのアルトに対し、ユリカはふうっとため息をついた。


「残念だけど、それはできないの。あの血の力は、ゴブリン族の次期魔王候補に与えられる呪いの力。ゴブリン族のヒロキですら、魔王の力を制御できないのに、ただの人間であるあなたが使ったら……体は力に呑み込まれる。死ぬ、で済めば、あなたはかなり運がいいと言えるわ」


 アルトは奥歯を噛み締め、悔しさを顕にする。

 ユリカはそれを見て彼を可哀想に思うが、すぐに表情が変わった。


「……いや、ちょっと待って」


 ユリカはアルトに近寄り、じーっと彼を観察した。外見からではわからないが、言われてみれば確かにその"血"が流れていそうにも見える。


「前言撤回」


 ユリカはそう言った。


「もしかしたら、少しだけならあなたはこの力を制御できるかも知れない」


 ただし、と続ける。


「その後どうなっても、私は責任を取れない」


「そうか……」


 アルトは気だるげに言った。


「まぁいい、協力してくれるなら。事は一刻を争うんだ。頼む」


 ユリカはアルトの反応に疑問が湧いた。


「忠告してもなお、力を借りようとするなんて…………確かに、私にはあなたに力を貸さない理由はない。でもあなたには、私に力を借りない理由はあるはずでしょ?」


 アルトは黙り込んで、考えた。


「……………………ない、な」


「あなた、私の話を聞いてたの?」


「当たり前だ」


「なのに…………」


「全く……何度も言わせるな。俺にはあなたから力を借りない理由なんてない。これが結論だ」


「どうして?」


 ユリカは不安を超えた何かに蝕まれた。


「この力を使えば、あなたは一生……いいえ、これから先何度死んでも動けないままになるかも知れない。その可能性だってあるわ」


 アルトは至って真顔で、


「だからなんだ?」


「だからなんだって…………」


 ユリカは恐ろしさのあまり、言葉も出なかった。


「もしかして…………俺が反動を恐れて力を借りるのをやめるとでも思っていたのか?」


 ユリカはオドオドしながら首を縦に振る。


「俺は…………強くならなくちゃいけない」


「どうして?」


「アイツを…………ゴーストを殺すためだ」


「どうして、ゴーストを殺さなければいけないの?」


「タクトを復活させるためだ」


「どうして彼を蘇らせる必要があるの?」


「シュルバ曰く、タクトは世界の再構築に必要な存在なんだとよ。俺にはそうは思えねぇけどな」


「どうして……?」


「別に今の俺達だけでも、世界を作り直すことはできると思うんだ。確かにタクトがいた方が楽なのは間違いないが……」


「そっちじゃない」


 ユリカはアルトに詰め寄った。


「なんで……世界を作り直そうとするの?」


 アルトは一瞬回答を躊躇った。


「…………復讐だ」


 ユリカは耳を疑った。


「復讐って…………誰に?」


「俺は、詐欺師なんだ。結構前から」


 なんで、詐欺なんてしてると思う?

 アルトはユリカに問いかけた。


「お金が…………稼げるから?」


 アルトは首を横に降った。


「これも……復讐なんだ」


 ユリカは目を細めた。


「俺が昔恋をしていた女は……超がつく大金持ちだった。もちろん、庶民の俺にも優しく接してくれたし、だからこそ好きになったわけなんだが」


 そこまで言って、アルトの表情が暗くなった。


「その女は…………俺の目の前で殺された。もう思い出したくもねぇな。その日からだ。俺が詐欺にガチになったのは」


 それ以前からアルトは詐欺を行っていた。想い人への贈り物の為に。しかしまだ、天才詐欺師と呼ばれるほどの腕はなかった。


「その頃の復讐はまだ小さなものだった。人間の人生を1つ1つ丁寧に狂わせていく作業だからな」


 ユリカは、ついにそれを聞いた。


「ねぇ…………結局の所、あなたは誰に復讐しようとしているの?」


 想い人を殺した犯人への復讐なら、詐欺師になんてなるはずがない。そう思ったユリカなりの質問だ。

 アルトは右手でピースを作る。


「……俺が復讐したい相手は、2人だ」


 ピースの中指をしまい、人差し指だけになる。


「1人目は、あんなに近くにいたのにあいつを守ってやれなかった俺自身への、ビビって想いを伝えられないまま、2度と会えなくなってしまった俺自身への復讐」


 詐欺師になって捕まれば、それが自分への復讐になると考えていた。と語る。

 彼の指は、再びピースに戻った。


「2人目…………これが俺が世界の再構築を目指す理由だ」


 アルトはいつにも増して決意に満ちあふれた顔になった。


「俺はあいつと決別した。あいつはもういないと割り切って、次へ進むことにした。だがな……あいつは『将来、もっと夢に溢れた世の中を作り出したい』って言ってた。その夢をいとも簡単に壊したのは、現実」


 アルトは手を降ろした。


「これは…………()()()()()()だ」


 ユリカはその言葉を聞いて、決心した。


「…………あなたの覚悟、受け取ったわ」


 その言葉を聞くと同時に、アルトの魂は本体に戻った。












「う……………………」


 目覚めた肉体は激しい頭痛を伴いながら、立ち上がった。


「そうだ、レイナは!?」


 アルトが顔を上げると、そこにはレイナが天使の猛攻をひたすら防いでいる姿があった。

 アルトは彼女に駆け寄り、言った。


「待たせて悪いな、レイナ」


「アルト…………刀に憑依したんじゃ」


「まぁ、見てろ」


 アルトは目を閉じ、全身に力を入れ、深呼吸した。


「はぁぁぁあああああ…………」


 彼の腕と背中に、血が集まる。


「うぅぉおおおらあああアアアア!!!」


 アルトが叫ぶと同時に、アルトの背中に赤黒い翼が、アルトの腕に禍々しい鱗と爪がついた。


「これは……………………」


 度肝を抜かれるレイナ。


「霧島さん……あなたのその姿が天使だと言うのなら…………俺のこの姿は」


 魔人だ。


 アルトは背中の翼で羽ばたき、霧島の下まで飛んだ。


「くっ…………!」


 霧島は光の壁を発生させ、魔人の襲来に備える。


 それと同時に魔人は右手の爪で壁を引っ掻く。爪は壁に引っかかり、止まる。

 しかし彼は攻撃をやめなかった。より一層爪に力を加え、光を破らんとしていた。

 もちろん、霧島だって諦めない。光の力を集中させ、壁を強化する。無限に供給される太陽光はほぼ全て壁の素材となった。


「…………そんな!」


 霧島は光の壁にヒビが入っている事に気がついた。



 パリン!


 無残にもなったその音は霧島の敗北を示していた。

















「アルト、大丈夫?」


 Replica解除後、魔人化が切れたアルトはアリスやシュルバに支えられながらなんとか立っていた。


「大丈夫……じゃあねぇな」


 彼の足は、まるで雷を受けたように痺れて動かなかった。


「でも、俺は霧島さんに勝てたんだろ?だとしたら……確実に強くはなったはずだ」


 アルトの前向きな発言に、一同は頷いた。


「おかえり、団長」


「ただいま戻りました。矢野さん」


 霧島と矢野はお互いに笑顔を見せた。


「さて、戻ってきたばっかで悪いんだけど……」


 矢野は真剣な顔になった。


「あの件、もう少し詳しく調べた方が良さそうだ。団長、協力してくれるか?」


 霧島は強く頷いた。

 その数秒後、2人はペルセウス本部に転送された。


「あれ、葵ちゃんたち帰っちゃった。お礼言おうと思ってたのに」


 シュルバは残念そうな顔を浮かべた。


「とりあえず、アルトが心配だ。俺達も早く帰ろう」


 ヒロキの発言はもっともだが、どうやらそうもいかないらしい。



「やっと見つけたぞ…………アルタイル!」


 ロストチルドレン。

 シュルバ達はこの後その単語を知ることになる。

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