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5章9話『予測可能』

 扉が開く音と共にカツカツと足音を立てながら降り立った彼女は腰に手を置いて辺りを見渡すなり、楽しそうに笑った。


「とりあえず間に合ったかな!みんなよく持ちこたえてくれたねー!」


 シュルバはその場にいた全員に明るく言った。


 しかし、アルトだけはその明るさをも跳ね返すほどの戦慄を感じていた。


「…………最ッ悪のタイミングで来やがったな」


 奥歯をギリッと鳴らしたアルトはそれとは対象的に輝かしいほどの笑顔を見せているシュルバに歩み寄る。


「そもそも、なぜこの場所だと分かった」


 眩しかった笑みはそこで無へと還り、シュルバは真面目な表情になった。


「わからない。わからないけど、ここに来ないといけないと思った。『織葉駅で何かが起きる』、頭の中でその言葉が何回も響いて…………」


「…………それも、『推理』なのか?」


「断言は出来ないけど、違う。推理とは感覚が全く別だから」


「そうか…………まぁいい」


 アルトは体の向きを変え、シュルバの隣に立った。


「シュルバ…………アイツの目的は、アポカリプスの中止。つまり、タクト復活の阻止だ」


「…………待って、タクト復活の阻止…………?」


「あぁ。アイツは俺を見るなり、俺の首に剣を当てて『シュルバを出せ』と、一言だ。聞いてみたらアイツは『シュルバには黒田拓人復活計画を中止してもらわなくてはならない』って言ってたぜ」


「黒田拓人…………あの時、なんで気が付かなかったんだろう……………………」


 シュルバは眉間にシワを寄せた。


「シュルバ?」


「あぁ、ごめん。ちょっと色々考えててさ」


 シュルバはゴーストに向けてナイフを突き出し、アルトに言った。


「まぁとりあえずアイツは敵だ。私が言いたいことはわかるね?」


 アルトはため息をついた。


「殺せ、だろ?」


 アルトとシュルバはほぼ同時に飛び出した。

 2人は眼前に佇む仮面に、これまた同時に刃を叩きつけた。鋭く重く、力強い攻撃だった。


 しかしゴーストはそれをいとも簡単にはねのねた。2人の力とゴーストの力が相殺し合ったにも関わらず、2人は床どころか天井に叩きつけられ、そのまま約3mを落ちていった。


「かはっ…………」


 アルトは痛む体を無理やり起こし、ナイフをもう一度構えた。

 そのまま攻撃しようとするアルトを遮るようにシュルバは右腕を横に出した。


「無茶だよ」


「んだと?」


「私達がナイフを使っている理由、それは小回りとスピードにあるの。確かに剣や刀と比べると多少威力は劣る。でもその代わり、戦闘に慣れていない私達にも簡単に扱えて、且つある程度の身体能力さえあれば相手よりも断然早く動ける。だからタクトや私は武器としてナイフを採用した」


「そのスピードや小回りが完全に封じられた今、俺達はアイツの剣に単純な威力の差で負けてるってわけか…………」


「うん。だから今の私達は勝ち筋がかなり限られてる」


 アルトはその発言の中から、底の無い絶望と僅かな希望を見出した。


「逆に言えば…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 シュルバは微笑み、コクリと頷いた。


「剣の唯一の弱点、それはリーチに限界があること。つまり、遠距離武器にとことん弱いわけ。だからたとえ殺せなくても、遠距離から攻撃を仕掛けて体勢を崩させることさえできれば…………」


「あとはスピードと小回りで俺達が勝つ……!」


 シュルバは奥にいるルカとレイナにアイコンタクトを送った。それを受け取った2人は頷き、各々銃弾を詰め込んだ。


「さぁ、絶望を始めよう!」


 シュルバは指を前に突き出し、宣言した。


「アルト、初手は任せたよ」


「あぁ。初手、任されてやるよ!」


 満を持して、アルトはナイフ片手に走り出した。ゴーストの目には彼が悪魔のような表情で自分を殺さんと走ってくる映像が鮮明に映った。

 しかし、それを避けることは容易だった。


「なめるな」


 ゴーストはナイフが当たるスレスレの所でアルトの腹を蹴り、大きく後ろに突き飛ばした。

 そしてすぐに後ろを振り返ったゴースト。そこにはサブマシンガンを構えるレイナがいた。

 彼女の人差し指が握られると同時に無数の破裂音と共に鉛の塊がゴーストへ飛び出した。


「見飽きた」


 ゴーストは剣を無造作に振り回す。

 その足元には真っ二つに割れた銃弾達が転がっていた。


「剣相手なら飛び道具が有効だと考えたのか?…………だとしたら浅はかだ」


 ゴーストは剣を顔の前に立てた。


「近接か遠距離かなんて関係ない。貴様らの攻撃は全て予測可能だ」


 シュルバはそのセリフを聞いて「ふーん?」と頬を膨らませた。


「全て予測可能……ねぇ?」


 シュルバはにやりと笑った。


「じゃあ、これはどうかな?」


 シュルバはナイフを手に持った。そのナイフはシャキンと音を出すと影に隠れていた他のナイフ3本の姿を披露し、1本ずつシュルバの指と指の間に挟まった。


 シュルバはゴーストの背後に立ち、そのナイフを一気に投げた。


「私が飛び道具を持っていないとでも思ったの?ざんねーん!シュルバちゃんは投げナイフを携帯しているのでした!」


 ゴーストの耳に入る風を切るナイフの音が少しずつ大きくなっていく。ゴーストは目を閉じた。


「…………いや〜、マジかぁ」


「言っただろう?」


 ナイフを4本まとめて蹴り飛ばし攻撃を回避したゴーストが言った。


「貴様らの攻撃は全て予測可能だ。お前がナイフを投げることも、ナイフに毒が塗られていることも全て、な」


 シュルバは額に流れる冷や汗を拭う。


「次はこちらの番だ」


 名前の通り亡霊の如くシュルバの目の前に現われたゴースト。


「きゃっ!」


 シュルバは驚きのあまり小さく悲鳴を上げた。そのタイミングで条件反射的にゴーストから距離を取れていたら、どんなに良かった事だろうか。


 ゴーストはシュルバの腹に強烈なパンチを繰り出した。その勢いのまま後ろに大きく飛ばされた彼女は背後の壁に強く衝突した。


「ぐっ…………げほっげほっ」


 シュルバは壁に寄りかかったままの姿勢で、口から血を吐いた。

 それを見て一番驚いていたのは、アルトだった。


「この状況…………」


 彼の頭にフラッシュバックしたのはゴーストの記憶。口から血を吐き出し、グロテスクな姿で骸と化していたシュルバの姿。


「シュルバ!」


 アルトは立ち上がり、シュルバの方へ走る。


 ゴーストは動かないシュルバの目の前に立ち、足を大きく振りかぶった。


「死ね」


 振り下ろされた足がシュルバに当たる直前だった。


「させるかよぉ!」


 アルトはシュルバを庇う形でゴーストの前に立ちふさがった。

 ゴーストの足はアルトの右足に命中する。


「がぁああああっっ!!」


 アルトの右足は本来曲がるべき所ではない所で曲がっている。もう彼が立ち上がることは不可能だった。


「「アルト!」」


 シュルバと同時にレイナも名前を呼んだ。


「俺は……大丈夫だ」


「全然大丈夫じゃないでしょ!レイナちゃん、アルトをお願い!」


 レイナは迅速にアルトをおぶってその場から離れた。


「悪いな……レイナ」


「構わない…………それより、大丈夫…………?」


「大丈夫…………って言っておくよ」





 お互いに緊張した状態の中、ゴーストが口を開いた。


「…………そろそろ時間か」


 ゴーストは突然、シュルバの前から姿を消した。


「そろそろって…………まさか!」







「これでよし、と」


 一方ルカは、地下鉄の改札口の壁で時限爆弾の設置をしていた。かなり大量の爆弾を設置するため、どうしても時間はかかってしまう。

 それがやっと終わり、ルカが手元のスイッチを押した瞬間、爆弾のタイマーが1分に設定、起動した。

 細かい作業だったがなんとか乗り越えたルカはシュルバに合流しようと後ろを向いて走り出す。


 その時、彼にぶつかった。


「ぇ………………」


 ゴーストは自分の身長の半分近いルカの胸ぐらを掴み、片手で軽々と持ち上げた。


「…………く…………くるし……」


 ゴーストはそのまま爆弾の方にルカを投げ飛ばし、ルカは壁にぶつかって倒れた。

 颯爽と逃げるゴーストを目にしながらも、背後に大量の時限爆弾がありながらも、ルカは動かなかった。


 理由は簡単だ。

 背中の骨が折れて動くに動けなかったからだ。








 唐突に鳴り響く爆発音と突然吹き込む熱風に驚きながらも、地下にいたシュルバ達はすぐに爆発した点へと向かった。

 ルカが天井を破壊してその穴から地下鉄を出て広い場所で戦闘を行う。アドリブにしてはうまく行ったと思った。7割型は。

 まさか、ゴーストがそれすらをも予測しているとは思わなかった。全て予測可能、その全てという単語には単純な攻撃だけでなく綿密に練った作戦ですら含まれている。

 この戦闘は、まるで勝ち目がない戦いだった。


 3人は穴から地上に出た。

 肌に触れる冷たい雨がこの先の結末を予告しているようで妙に切なく、そして腹立たしかった。


 3人に追いついたゴーストは言った。


「決着だ。この戦いに、決着をつけよう」


 シュルバは笑いながらこう返した。


「えぇ。決着をつけよう。()()()()()()()


 シュルバは勢い良くメガネを投げ捨てた。

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