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5章5話『瓦礫の上の狼』

「えっ!?もう見つかったんですか!?」


 シュルバは驚きのあまり大声を出してしまった。それにハッとなる彼女を見て矢野はクスクスと笑う。


「アタシはペルセウスの副団長。全世界全時間軸、警察含め合計25億人いる団体のNo.2なんだよ?これくらい、簡単なもんさ」


 矢野は腕を組んでそう言った。


「それで、その吸血鬼被害のあった場所だけど…………」


 矢野はシュルバに画像を見せた。PCに映る都市はビルの建ち並ぶ大都会。活気に満ち溢れている経済の中心…………のはずなのだが、どこか寂しげで物足りなかった。


「30年後の東京だよ……………荒廃した、ね」


 シュルバは息を呑んだ。













 そこはとても静かだった。

 辺りを見渡せば必ず視界にコンクリートが入ってくる。近代的な建物が空に向かって高くそびえ立っている。

 なのに、静かだった。

 街灯はチカチカと点滅を繰り返す。

 重い空気がシュルバ達を嫌う。

 灰色の空が今にも泣き出しそうになっている。


 そこが、自分たちの知る東京ではないことは明確であった。


「…………こんなんじゃ、吸血鬼どころか人っ子一人見つけられそうにねぇな」


 ヒロキが周辺をキョロキョロと確認しながらつぶやいた。


「そうだね…………探せば一人ぐらいいるかもしれないけど…………この広い東京の中を探すとなると…………」


 シュルバは頭を抱えた。


「…………仕方ない、手分けして探すか」


「そうした方が良さそうだね。でも、手分けしようにもこの広さじゃろくに分かれることも出来なさそうじゃないかな?」


「…………いや、もしかしたらあるかも知れない。俺達全員が遠くにバラける方法が」


 アルトはスマホを取り出し、スクリーンを連続で叩いた。


「やっぱりな。この時代は既に電車の無人運転が実現されてる。となると、ある程度なら電車で移動できるかも知れない」


 アルトの提案に賛成した一行は静寂に包まれる東京の中を、駅を目指して歩を進めるのであった。


「…………なに、これ」


「…………おいおい、ここ30年の間に何があったってんだ」


 駅に掲示されていた路線図、2人はそれを見て絶句した。


「……………聞いたことねぇ地名ばっかだな」


「そう、なの?」


「あ、そっか。日本で生まれたのは今の所私とアルトぐらいだったね」


「あぁ。電車自体は俺がいた世界にもあったんだけど、さすがにこっちの世界の地名までは知らないんだ。で、どんくらい違うんだ?」


「どんくらいって言われても……………ねぇ?」


 シュルバはアルトのほうをチラッと見る。


「あぁ…………強いて言うなら、『100%』だ。まるっきり、何もかもが違う」


「でも、電車を使わないとなるとかなり効率が落ちる。なんとか、地名を覚えて電車に乗るしかないわね」


「とすると、やっぱり考えなきゃいけないのは方角か。だとしたら北の『金馬』駅、東の『佐倉』駅、南の『織葉』駅、西の『白名』駅、あとはど真ん中の『中央佐倉』駅辺りが、ちょうど東西南北に分かれているしいいんじゃないか?」


「そうね。じゃあ私は佐倉駅、ヒロキが金馬駅、アリスちゃんが白名駅、アルトが織葉駅、レイナちゃんとルカちゃんが中央佐倉駅。みたいな割り振りでどう?」


 シュルバに問いかけられたメンバー達は困惑しつつもうんうんと頷いていた。


「じゃあそれぞれの駅に行って周辺調査。なにか吸血鬼の手がかりになりそうな物を見つけたらすぐにグループチャットに報告すること!じゃあ解散っ!」


 シュルバの掛け声とともに全員改札を通り、ホームに向かった。


「えっと俺は金馬駅だから…………1番ホームか」


 ヒロキが頭上の看板を見ながらホームを探している後ろから、彼女は彼の肩をポンポンと叩いた。


「やっほ」


「あぁ、アリス」


「ヒロキも1番ホームだよね?一緒に行ってもいい?」


「もちろん」


 やがて2人はホームに辿りつくが、人がほとんどいないからなのか、電車の間隔はとても長かった。2人は仕方なく自動販売機で飲み物を買って電車を待つことにした。


「ほら」


 ヒロキはアリスにサイダーを差し出す。


「ありがとっ」


 アリスはそれを受け取ってニコッと笑ってみせた。


「ねぇねぇ〜」


「ん?」


「こうして2人っきりで駅のホームにいるとさ、なんかデートみたいでドキドキしない?」


「まぁ……な。ってか、アリスの世界にも電車はあったのか」


「電車っていうか、電車に近いものがね。アリスは一度も乗ったことないけど」


 影武者っていう立場上、乗りたくても乗れないのか。なんてことは言わなかった。ヒロキはただ静かに頷いて、冷たいコーヒーを喉に流した。


「だから、気になってたんだ。好きな人の隣で電車を待つのってどれくらいドキドキするんだろう、って。それがやっとわかった気がする」


 アリスは横に傾いて、ヒロキの肩に寄りかかった。


「こういう気持ちなんだね…………」


 言葉に言い表せない気持ち。

 すごく嬉しくて、すごく緊張して、すごくじれったい。

 初めて体験する不思議な気持ちに、アリスは戸惑いつつも心が温かくなった。


「ばーか。こんなとこで経験してんじゃねーよ」


 ヒロキはアリスの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「ぜってー連れてってやるから、その気持ちは初デートの時までとっておけ」


「……………………ぅん。約束」


 アリスは真っ赤になりながら頷いた。

 ちなみにアリスは少し先の未来でこの気持ちを改めて体験するが、それはまた別のお話。








 その後、途中の駅でアリスとヒロキは分かれ、それぞれヒロキは金馬駅、アリスは白名駅に到着した。少し離れたところに来たものの、やはり人の気配はほとんど無く、不気味な程に静かだった。


「ここ、ほんとに東京なのか?こんなにも人がいないなんて……………」


 名前とどのような街かはある程度知っていたが、そのある程度の知識と一致するものが何一つない。

 とは言っても、ヒロキの背後にはボロボロになったスカイツリーが圧倒的な存在感を放って立っている。


「仕方ない、とりあえず吸血鬼を探さないと」


 ヒロキは今にも崩れそうなビルとビルの間をただ1人歩いていった。






 一方、佐倉駅周辺を捜索しているシュルバ。彼女もまた、ありえない程の静けさに恐怖しながら街を見回していた。


「こっちの道、行ってみようかな」


 シュルバはそう言うとビル同士の僅かな隙間に入っていった。薄暗くホコリっぽい路地裏を抜けた先にあったのは、鉄とコンクリートの山だった。


「なに…………これ……………………」


 シュルバの眼前にあったのはビルの瓦礫、そしてその頂点に立つ見覚えのある姿だった。


「久しぶりね」


 狼の仮面はシュルバの方を向き、山から飛び降りた。


「確かあなた、『ゴースト』って言ったっけ?」


「…………先に、忠告しておく」


 ゴーストは長い剣を腰から引き抜き、シュルバの目の前に突きつけた。


「貴様らは黒田拓人を復活させようとしているのだろう?」


「……………それがどうしたの?」


「今すぐに、その作戦を中止しろ」


「断る、と言ったら?」


「貴様ら全員を斬り捨てる」


「…………なるほどねぇ」


 シュルバは3歩後ろに下がった。


「断る」


「そうか………」


 ゴーストは剣を鞘に納めた。


「斬り捨てるんじゃ、なかったの?」


「あぁ…………斬り捨てる。が、お前からではない」


 ゴーストはそのまま姿を消した。











「あれ…………人だよな?」


 ヒロキは道路の先に、狼の仮面とフードを被った人間を見つけた。

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