4章25話『見方を変えろ』
ガチャガチャとがむしゃらにコントローラーを操作するシュルバを見てゼウスが言った。
「何をしている?早く仕留めろ」
「ごめんなさい……………これだけ大きい機体を操作するとなるとどうしてもすばしっこく動かれるのに弱いんです。それに、天界から地上のMONSTERを操作するとなると、ラグも計り知れません。アルトの行動を予測しても、どうしてもギリギリ当たらないんです。かと言ってもっと先を予想すると軌道が少しずれてこれまたギリギリで避けられてしまう。仕留めるに仕留められないんです」
ゼウスもそれを聞いて黙り込んでしまう。
「あぁ、でももうそろそろ仕留められそうですね」
シュルバは椅子の背もたれに寄りかかり、綺麗な長い脚を組み替えた。
アルトはMONSTERの行動を見て適切な場所に回避する。それを繰り返しながら、タイミングを待っていた。
「アルト凄い…………あのMONSTERの攻撃を完全に避けている」
「……………アルトおにーちゃん、そろそろ限界かも……………………」
「どういうことだ?ルカ」
「さっきまでのアルトおにーちゃんは、MONSTERの攻撃が来る前に避けていたの。でも今はMONSTERの攻撃を見てから動いているの」
「それってつまり……………」
「うん……………体力の限界だよ」
言われてみれば、アルトは先程から酷く息が上がっている。顔色も悪く、汗もダラダラと流れ出ている。
「ハァ…………ハァ……………」
常に死の恐怖に向かい続けながら攻撃を避ける。簡単そうに見えて非常に難しい。とは言ってもやってること自体はアルトの実力なら容易に出来る事だ。しかし、万が一アルトが死んでしまった場合真相を知る者がいなくなるのでよっぽど運が良くないとMONSTERを倒せない。アルト自身がそれを分かっているからこそ、プレッシャーによって思うように動けないのだ。
「シュルバ……………そろそろいけるのではないか?」
「そうですね、殺しちゃいますか」
シュルバはコントローラーを持ってまたガチャガチャと操作した。
「上右下左BABB」
MONSTERの胸の辺りから透明な球体が現れた。これはMONSTERの体内で生成されるもので、空気中の窒素をエネルギーに変換して動くMONSTERの窒素を変換する際に出る不純物を固めたものだ。別に処理しなくても困る物ではないが、せっかく作ったのだから何かに利用したいと考えたシュルバの技術だ。
MONSTERはそれをアルト目掛けて投げつける。アルトはもう避けることも出来ず、無駄だと分かっているのにナイフで身を隠すことしか出来なかった。
「アルトおにーちゃん!」
ルカはそれを見て急いでスナイパーライフルを手に取る。瞬間、ルカの周りの時間が遅くなっているように感じた。ルカは球体の中心をライフルで撃つ。動いている物体の中心を常に捉えて正確に撃ち抜くという高難度な技をルカは実行した。
球体はパリンと音を立てて割れ、破片が飛び散った。破片はアルトにも降り注いだが、腕にかすり傷がつく程度で済んだ。アルトは。
球体の破片は予想以上に遠くまで飛んだ。そう、ルカのもとまで。
ルカはどうする事もできずに飛んでくる破片を前に絶望するしか無かった。破片はルカの脳天を貫き、辺りに血が流れ出た。
「ルカちゃん!」
アリスの必死な叫びも、既にルカには届かない。
「あら、ちょっと予定が狂ってしまいました」
「…………まぁいいだろう、次で仕留めろ」
「はい♪」
シュルバはコントローラーを自分の体に引き寄せて操作した。
「上上下下左右左右BA」
このコマンド。見覚えがあるという人もいるだろう。これもMONSTER開発時にシュルバが導入したコマンドだ。MONSTER内最強の技をコマンドミスで出せない、なんてなってしまっては困る為、シュルバが既存のコマンドを引用してそのコマンドをMONSTER内最強の技にした。
つまり、このコマンドが打たれた今アルトに最強の技、レイナを葬った最悪の技が降り注ぐことになる。
MONSTERはネットリと口を開けた。奥歯にはレイナの血、前歯の隙間にはレイナの髪の毛が挟まっている。アルトは思わず目を背けたくなった。それでもアルトはMONSTERをしっかりと見つめ、ナイフを構えた。
MONSTERの口がアルトの頭を包んだまま閉じる。アリスは目を塞いだ。が、いつまで経っても血が飛び散る音がしない。
「ぐ………………ぎっ…………………」
アルトは何とかギリギリでMONSTERの上顎を抑えていたのだ。
「へへっ……………やっと見せやがったな」
アルトはナイフを口の中に向けた。
「絶対的な強さを誇るPHANTOM:MONSTER……………その弱点を知っているのはシュルバと霧島さんだけだった。でも、今はその中に俺も含まれる!MONSTER!お前の弱点はここだ!」
アルトはMONSTERの舌を切り裂いた。
アルトの言う通り、MONSTERは今までに無いほど咆哮してその痛みを表現する。なぜアルトはMONSTERの弱点を見抜けたのか、それを解説しよう。
まずシュルバの1枚目を手紙を思い出して欲しい。その一文に『下へ向かって進む者に栄光が見える』とある。これは文章の先頭を縦に読むことを意味している。そして文章を実際に縦に読んでみると、『しいちたをまきりいおとすめな』となる。これでもまだ意味を成していない。
そこで登場するのが2枚目の手紙だ。2枚目の手紙の最後に、『1枚目の手紙は捨ててもらって構いません。あれは全部嘘です』とある。これは1枚目の手紙そのものを捨てるのではなく、『い』『ち』『ま』『い』『め』を文章から取り除けという意味である。それを踏まえてもういちど文章を考えてみる。すると、『したをきりおとすな』つまり、『舌を斬り落とすな』となる。
しかし、2枚目の手紙にあるようにこれは全て嘘。つまり正解は『舌を斬り落とせ』。これに気づいたアルトはMONSTERの攻撃を避け続けることで噛みつき攻撃を誘い、見事舌を斬り落とすことに成功した。
しかし、舌を斬り落としたからといって噛みつき攻撃がキャンセルされたわけではない。咆哮に驚いて咄嗟に耳を抑えたアルトはそのまま頭を噛み千切られてしまった。
「アルトの勇姿、無駄にはしねぇ!アリス!アレやるぞ!」
「了解!」
2人は手を合わせた。
「「決意」」
ヒロキは腹に刀を刺す。瞬く間にヒロキは魔人の体に変貌を遂げ、その爪でMONSTERの首を引っ掻いた。そして、MONSTERの首と胴体をそれぞれ片手で掴み、その手を横に広げる。ギチギチと音を立ててこそいるが、なかなかその時は訪れない。所々血管が切れて血が吹き出しているがそれでもまだ繋がっている。
「はぁあああああ!!!」
ヒロキは一気に腕を広げた。その一瞬でMONSTERは首と胴体が離れた。
「そんな!MONSTERが倒されただと!?」
ゼウスは身を乗り出し声を荒げた。
「えっと…………その…………ごめんなさい……………………」
「くそっ!これは計算外だった…………」
頭を掻きむしるゼウスの腕にしがみついたシュルバ。
「お詫びといったらなんですけど…………私と、イイコトしませんか?」
シュルバの豊かな胸がゼウスの腕に食い込む。ゼウスはそれを心地よく感じ、手を振り払おうとしなかった。
「フフ…………フフフッ♪」
シュルバは小さく笑い、そして…………
「バーーーーーーーカ!!!」
狂気的な笑顔を見せた。それと同時にシュルバの腹部から機械音が鳴り響く。
「悪いけど絶望なら結構前に掛けたからね!あなたはいつでも死ねるのよ!」
「そんな!くそっ!離せ!離せ!」
シュルバはゼウスの手をしっかりと掴む。そして狂気的な笑顔のまま、言った。
「私の腰には爆弾が仕掛けてある。そしてその爆弾の起爆条件は、MONSTERの破壊だよ!」
しばらくして鳴り響いた轟音と共に現れた爆風はシュルバごとゼウスを殺害した。
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