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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
4章『崩れゆく柱』
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4章22話『崩れ去り』

 その土地は幻想的な空気を含んでいた。

 赤レンガの屋根がいくつも並ぶ街の向こう側に雪を被った山脈が見える。道路を通る人々は長めのスカートの端を少し持ち上げてコツコツと足を鳴らしどこかへ走っていく。遠くに見える馬車は大きな音を立てて北へと急ぐ。その北にそびえ立つのは息を呑むほどの迫力を放つ大きな城だった。

 まるで絵本の中に入ったかのような雰囲気のあるその街の名はユグドラシル。アルト達5人はその街の中心に佇んでいた。


「アリス、ここがユグドラシルで間違いないな?」


「うん。ここは間違いなくユグドラシルだよ」


 アリスは小高い丘の上にある教会を指差して言った。


「あの教会、たしかオルフェウスを崇めてる宗教が建てた教会だよ。何百年も前からあるのに、見ての通りヒビ1つ入ってないんだ。小さい頃ここに来たとき、それを不思議に思ったのを覚えてるから間違いないよ」


「よし、だとしたら『善は急げ』だ。さっさと聖杯を盗んで帰ろうぜ」


「そうだな。ここに長居する必要もない」


 アルタイル達5人はアルトを中心に北へと歩き始めた。








 時は遡り、18時間前。

 アルトの発言はアルタイル達を困惑させた。


「おい、シュルバが失踪したってどういう事だよ…………ついさっきまで、救護室で寝てたじゃないか」


「あぁ、そのはずなんだ。だけど、俺が救護室に行った時には、既に誰も居なかったんだ…………」


 アルトがうつむきながらいつもより低い声で告げる。


「シュルバ…………一体どこへ…………」


「シュルバっち…………」


 アリスとレイナも頭を抱える。


「シュルバおねーちゃん…………大丈夫なのかな」


「大丈夫では……無いだろうよ。失踪するってぐらいだから、相当な事情があったはずだ」


「えっと、ルカが心配してるのはそうじゃなくて…………」


 ルカはアルトの顔を見上げながら言う。


「シュルバおねーちゃんは何週間か前の戦闘で精神をボロボロにしてまで戦ったの。その疲れが抜けないままどこかへ行っちゃったってことは…………」


「そうか…………どこかで暴走して殺し回ってる可能性もあるのか」


「それか、既に力尽きて倒れてるか………」


 アルトとヒロキはルカの提示した可能性について吟味する。


「どちらにせよ、シュルバがいないことに変わりはない。かといってあいつは置き手紙の1つも置いていかなかったから探そうにも探せない。となると、俺達5人でユグドラシルへ向かわなくてはいけないということになる。これは苦戦が強いられそうだな…………」


「うん。ユグドラシルは警備がしっかりしてるから、そう簡単に突破できるとは思えないね」


「とりあえず、今回は俺が臨時で指揮を取る。なんとかして『イカロスの聖杯』を手に入れるぞ」







 吊橋を渡り城の門までたどり着いたアルタイル達。門番は門の前に長い槍を突き出してアルタイル達の入城を拒む。


「ここから先は関係者以外立入禁止だ」


 門番が低い声でそう言うと、アルタイル達の背後から1人の女性が現れた。


「私だ。魔王イリスだ」


 その女性は門番に対し圧倒的な威圧感を放っていた。門番はすぐにピンと直立し、槍をしまった。


「失礼しました。どうぞ、お通りください」


 魔王イリスとその連れと扱われたアルタイル達はユグドラシル城の門をくぐった。門の中は想像以上に広く、芸術的な石像も多く存在した。中世の城と言われて真っ先に思いつくようなイメージの場所だった。一同はその城の端の方に移動し、女性は服を脱いだ。


「とりあえず、侵入成功だな」


「うぅ〜、いくら寒い場所とはいえこの服は重いし暑いし…………こんなのを毎日来てるなんてイリスも大変だなぁ」


 アリスは手で顔をあおぎながら言った。


「次の目標は宝物庫だ。ただな…………」


「そっか、宝物庫までの道には兵士の訓練場があったね。見つかったら間違いなく戦闘になる」


「あぁ。いくら魔王イリスとはいえ、宝物庫に向かってるとなると怪しまれてもおかしくない。ただ、既に対策は済んでいる」


 アルトはスマホを取り出し、ルカを見る。ルカはアルトを強い眼差しで見返し、2人は同時に頷いた。


 カンカンカンカン。

 剣と剣がぶつかり合う音が響く。いくら訓練とはいえ剣は本物。訓練にも真剣に取り組まないと最悪命を落とす。ユグドラシルの城が市街地から離れた場所に置かれているのも万が一の事を考慮した上での配置だ。

 その訓練場の真ん中の通路を通るアルタイル達は意外なことにも訓練兵に気づかれなかった。たとえ気づかれていたとしても通路は訓練兵から離れているため、アリスを双子のイリスに見間違えた、なんて可能性もある。

 理由はどうあれ、アルタイル達は訓練場を抜けることに成功した。と、思われた。

 アルタイル達の道を塞ぐように立つ1人の男。彼の持つ剣はキラリと光り、彼の目は強くアルタイル達を睨んだ。


「おい、貴様ら。まさかこれから宝物庫へ向かうつもりではあるまいな?」


「通せ。でなければ、殺す」


 訓練場の出口の前で対峙する両者。お互いに睨み合い、敵意を剥き出しにする。


「いいだろう」


 男は壁のボタンを強く押す。訓練場にはジリジリとやかましいベルがなり、訓練兵が一斉に訓練を停止した。男は更にボタンの隣の受話器を掴み、言った。


「侵入者を確認、直ちに裏口前へ集合せよ。繰り返す。侵入者を確認。直ちに裏口前へ集合せよ」


 男は受話器を戻し、剣を前へ突き出した。


「俺はユグドラシル護衛兵第6班班長及び新人兵訓練科長。悪いが貴様らに名乗る名は無い」


「俺達は識別番号29695835番アルタイル。安心しろ、名前なんて名乗る間もなく貴様ら全員を殺してやるからな」


 ルカはノートPCを開き、複雑な英文を流れるように打っていく。文字通り目にも止まらぬスピードで。

 アルトも同様に凄まじい速さでスマホを操作する。ルカの手の動きと連動しているようにスマホを叩いていく。


「アルトおにーちゃん、こっちは大丈夫だよ!」


「よし、あとはこっちの設定を……………」


 アルトはだんだんと近づいてくる無数の足音に焦りを感じていた。苦しい表情をしながらも、アルトはスマホを操作し続けた。

 しかし、時は来てしまった。

 訓練兵は彼らの予想の何倍も早く到着。護衛兵はアルトを指差した。


「かかれ」


 訓練兵は剣を構えて走り出す。アルトに向かって一直線に。やがてアルトにあと少しで手が届く所に来た訓練兵は、既に上半身と下半身が分かれていた。


「刀なら、誰にも負けねぇ」


 ヒロキは血塗られた刀を鞘に納めた。それと同時にアルトの動きも止まる。


「起動」


 その一言と共に、目の前に無数のファントムが現れた。ファントムは到着した訓練兵を余すことなく斬り捨てていく。

 辺りに飛び散る血は、どこか幻想的でそして残酷だった。








 やがて護衛兵含め訓練兵が全員動かなくなった。

 宝物庫へ向かおうとする彼らの前に、老人が現れた。


「私はゼウス。7柱の頂点に君臨する神なり」


「なるほどねぇ…………全知全能のゼウス様が、わざわざ殺されに来たってわけか」


「殺されに来た…………のはどちらだろうな」


 次の瞬間、ファントムが突然崩壊を始めた。バラバラと崩れていくファントムを見て、アルトは全てを察した。


「アルトおにーちゃん、これって……………」


「あぁ。これはファントムの崩壊プログラム。万が一ファントムに異常が発生し、自爆もできない状況になった時の最終手段。そしてこれを使えるのは……………」


 アルトは目を閉じて言った。


「シュルバだけだ」

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