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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
4章『崩れゆく柱』
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4章19話『生きる意志』

「さぁ、絶望を始めよう」


 シュルバは残酷にも、タナトスの死を宣告した。


「貴方達が最近円卓を騒がせている29695835番ね」


 タナトスは槍を前へ突き出した。槍の先は今にもシュルバの首元を掻ききってしまいそうなくらい近かったが彼女は物怖じせず返した。


「えぇ、私達こそが7柱の内3人を殺害した神殺しの極悪人、アルタイルですよ♪」


 タナトスは目を見開いて歯を強く食いしばった。


「貴様のせいで………貴様のせいで私達は仲間を失うことになったのよ!貴様らの自分勝手な欲望の前に3人も仲間が犠牲になったのよ!貴様らだけは絶対に許さない、許せないわ!」


 理性を失った神は槍を大きく引き、もう一度前へ突き出す。その先にシュルバはおらず、彼女は槍から少し横にそれた所に目を細めてニヤニヤと笑っていた。

 それを見たタナトスは更に怒りを増し、今度は槍を持ったまま自分ごとシュルバに突っ込んできた。疾風のごとく一直線にシュルバに向かってくるタナトスは言葉には表せないほど醜い怒りの表情を浮かべていた。

 そのせいか、彼女は頭で考えることを放棄してしまっていた。何の考えもなくシュルバに突っ込んでくる彼女にとってはシュルバの安易な回避ですら予想外な行動だった。

 タナトスは岩の壁に突き刺さった槍を力ずくで抜いて体勢を立て直した。シュルバは先程よりかなり離れた場所に立っており、ギリギリ槍では届かなかった。タナトスは先程と同じように真っ直ぐにシュルバに突っ込んでいった。3秒間だけ。


「うんうん、計算通りだね♪」


 タナトスの左足に噛み付くトラバサミ。傷口から血が止まらなかった。タナトスは左足を立てたまま地面に座り込み、痛みを必死で堪える。


「さぁ、これで終わりだよ♪」


 シュルバはタナトスの頭上にサブマシンガンを構え、トリガーを引いた。乾いた爆裂音と共に一閃の血飛沫が飛んだ。シュルバは自分の脇腹を押さえながら後ろに3歩ほど進んだ。


「危なかったわね。今のをガード出来てなかったら致命傷だったわ」


 タナトスはバリアの貼られた左腕を前に突き出したままニヤリと笑った。


「そうよね、貴様らは今まで3人もの神を殺してきた。本来死なないはずの彼らをいともかんたんに殺してきた。そこには、綿密な作戦や絶対的な知能があったはず。ならば………」


 タナトスは慎重にトラバサミを外しながら言った。


「こちらも冷静になって、貴様らを殺す方法をじっくりと考えなければならない。そうしないと、今の私に勝ち目はないのだから」


 タナトスの足は再生を始め、地に落ちた血液もだんだんと消えてなくなっていった。シュルバはニヤァ〜と笑いながらナイフを持った。

 ただのサバイバルナイフと非常にリーチの長い槍。どちらが不利かは一目瞭然だったが、彼女に有利不利など関係なかった。シュルバは突き出された槍をかかとで蹴り落とす。その直後に背後からアルトとルカがアサルトライフルで加勢。合計26発の銃弾を見事に全て撥ね退けたタナトスだったが、その横からやってくる合計83発の銃弾を避けることは出来なかった。タナトスは体を蜂の巣にされながらもレイナを槍で貫く。レイナは槍の攻撃を心臓にくらい、マスクを紅く染めながらもなんとか立ち上がり姿を消した。それを見たタナトスはレイナの死を確信し、高笑いする。

 次の瞬間、タナトスの左腕は斬り落とされた。姿無き暗殺者レイナはタナトスの左腕と共に大きな音を立てて地面と衝突し、胸から血を流しながらそのまま起き上がらなかった。

 レイナが命懸けで落とした左腕もだんだんと再生を始める。しかし、バリアを使う左腕がタナトスから失われた今、それはアルタイル達にとってまたとないチャンスだった。アルトはそう考え、ポケットからそれを取り出し投げた。


「離れろ!」


 アルトの叫び声はアルタイル達に届いた。アルトの言うとおりタナトスから離れてみれば、その5秒後に大爆発が起きた。そしてだいたい爆風がおさまった頃に、アルトは2発目の手榴弾を投げ込んだ。こちらも約5秒後に起爆し、タナトスに致命傷を与えたかと思われた。

 煙の先にいたのは、槍で体を守るようにして佇むタナトスだった。


「なるほど、ガードが使えるのは左腕だけじゃないってことか」


 アルトは上から見下ろすようにタナトスを見る。タナトスは槍を腰に構えてアルトに突っ込んでいく。アルトもサバイバルナイフを抜き、対抗する。もちろんアルトのナイフの技術ではタナトスに勝つことは不可能。しかし、アルトのナイフの技術なら耐えることくらいならできる。ひたすらに耐え忍んで隙ができるのを待つ。アルトは忍耐強く待つことにした。

 しかし、事は急展開を迎える。アルトと交戦中のタナトスが突然真後ろに飛んだのだ。彼女は槍を引きながら言った。


「どうやら貴様らのリーダー的存在は黒髪ツインテールの女だろう。一見白髪の男もそのように見えるが、実質的に指示を出しているのは奴のようだ」


 槍を突き出したタナトスは続けてこう言った。


「だったら、そいつを殺せば貴様らの士気はだだ下がりになる。つまり、そいつさえ殺してしまえば私にも勝機が見えてくるのよ。つまり何が言いたいかと言うとね………」


 タナトスは生々しい音と共に槍を引き抜くと、不気味に笑いながら言った。


「貴様には死んでもらうわよ。アルタイルの司令官」


 タナトスの視線の先には口から血を垂らし胸元に大きな穴が開いたシュルバの亡骸があった。


「シュルバ!」


 アルトとヒロキが駆けつける。虚ろな目をしたシュルバを2人が支える姿をタナトスは高笑いしながら眺めていた。


「アハハッ!神殺しのリーダーってもんだからもう少し歯ごたえがあるかと思えば、たかがこの程度なのね!」


「チッ…………」


「ったく、やってくれるじゃねぇか」


 2人はタナトスを睨む。シュルバの亡骸をルカに任せて、2人はタナトスに刃を向ける。


「なぁ…………1つだけ聞かせてくれ。お前はなんで俺達を殺そうとする?なぜ俺達をそこまでして滅ぼそうとする?」


「まぁ、言うまでもなく俺達が極悪だからってのはあるんだろうけどさ。それ以外にもあるんじゃないのか?」


 アルトとヒロキがタナトスに問う。


「……………死なないお前らには分からないでしょうね。仲間を失うことの辛さ、笑い合った友が朽ち果てることの苦しさが。私はそれを知っている。もう3回………いや、アイツを入れたら4回かしら。私はもう二度とあんな苦しみを味わいたくないのよ。だから意地でも貴方達を殺す。たとえ感情を消し去られ、理性の赴くままに生きる機械と化してもね」


 タナトスは目に涙を浮かべて話した。


「お前の気持ちは…………非常によく分かる。俺も………前の人生で片思いの相手を失ったからな。でもな、今ではそれを支えてくれる仲間がいる。俺の隣で俺の手を取ってくれる仲間がいる。だから俺は死なない。たとえ生きた屍となったとしても、生きている限りは生き続ける。あいつが…………いてくれる限りな」


「俺も…………アルトと同じ意志だよ。俺は生き続ける。どんなに醜かろうと、この刀が折れない限り、彼女が俺の隣にいてくれる限り俺は生き続ける。そしてこの意志は、あいつも同じだろうよ」


 ヒロキはタナトスを指差した。正確にはタナトスの背後に立つ生きた屍を。


「ちょい〜、誰が生きた屍よ」


「なっ…………お前、なぜ!?」


 タナトスの背後で大きな胸を突き出すように仁王立ちしているのは、紛れもないシュルバ、その人だった。


「後でアリスちゃんにパフェ奢ってあげないとな〜、ほんとに名演技だったよね♪」


 シュルバはタナトスに一歩一歩近づいていく。


「なるほどねぇ〜………貴方は自分の感情を殺すことで私達を倒そうとしているわけね。面白いじゃない。理性を武器に戦う女神とかカッコよすぎでしょ♪」


 シュルバはニタァ〜と笑いながら言った。


「じゃあ、私は理性の方を殺すことにする。感情に身を任せて殺し尽くす生物兵器となってあげる。理性と感情、強いのはどっちだ!的な?」


 シュルバは眼鏡に手をかけた。


「さぁ、絶望の始まりだよ!」


 シュルバは眼鏡をしまい、その鋭くも美しい目をタナトスに見せつけた。

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