4章18話『外れた星』
「冥王星…………?」
アルトの言葉を繰り返すように、霧島が言った。
「あぁ、こいつの記憶の中に映っていたのは神が透明な水晶みたいなのを宇宙に生み出してその周りに岩かなにか…………いや、氷か?その辺りをくっつけている様子だった。一瞬だけ太陽が見えたんだが、映ってる場所から太陽までの間にだいたい8つくらい大きめの星が見えた。だから、見間違いとかじゃない限り、運命のクリスタルは冥王星にある…………ってのがこいつの記憶から読み取れたことだ」
アルトはニュクスの生首をぽんぽんと軽く叩いた。シュルバはそれを聞いて、両手を頭に置いて椅子をPCに向けた。
「冥王星かぁ…………」
冥王星。
1930年にクライド・トンボー氏に発見され、以降2006年まで太陽系の第9惑星とされていた。直径は2370kmで月の2/3ほどだ。
前述した通り、2006年までは冥王星は太陽系の惑星とされていた。しかし、その質量や直径から小さな星の集合体ではないかという説が多く挙がった。また、冥王星の衛星であるカロンは冥王星の半分以上の直径を持つため、冥王星は二重惑星ではないかとの説もある。
極めつけは、太陽系の他の惑星とは大きく異なった軌道だ。冥王星の軌道は他の惑星の軌道に比べて斜めになっている。
以上の根拠から、冥王星は惑星ではなく準惑星だと可決されたのだ。
「さーてどうしよっかな〜」
シュルバは白く細長い足を組み替える。霧島とアルトはその隣に座ってシュルバの方に体を向けた。
「どうするも何も………冥王星に行ってクリスタルを叩けばいいだけの話じゃないのか?」
「それはそうなんだけどさ、問題は行き方なのよ」
「でも皆さん、一度月に行ったことがあるんですよね?」
霧島が言っているのは、歯車集めの時にかぐや姫の故郷に行った時の話だ。
「あの時はアリスちゃん1人だったし、行きは月の使いに連れてってもらったから帰りだけだったじゃない?だから転送できると信じてやってみたんだけど、今回は7人全員でしかも2回なのよ。仮に転生機より転送装置の方が安定するとしても確率はだいたい90%くらい。それが7人で2回となると、全員無事に帰ってこれる確率は0.9の14乗。約22%まで下がるわ。これはレート戦で一撃必殺を当てる確率より低い。だから下手に転送装置を使えないってのが一番大変ね」
「そうか…………となると、他の方法を探さなくちゃいけなくなるな」
「いえ、そうとも限りませんよ?」
「葵ちゃん、どゆこと?」
「確かにここにある転送装置はまだ不安定かも知れません。でも、転送装置はここにしか無いわけではありませんよ?」
「そっか!ペルセウスも大規模な転送装置を持ってるんだったね!」
「はい。残念ながらここに持ってくることは出来ませんが…………アップグレードパーツくらいなら、作れるかも知れません」
「最悪、霧島さんが作れなかったとしても俺達が作り方さえ教えてもらえばできなくは無いわけか」
「よしっ!そうと決まればパパッと作っちゃおっか!」
「できたー!」
シュルバとアルトと霧島が作り出したのは非常に小さなチップ。こんなものの為に3人が汗水垂らしたのかと馬鹿にする人はいないだろう。なぜならこれは、神の遺産を科学の力で強化するための道具。いわば人類の英知の象徴だからだ。
シュルバには完成した達成感や何時間も精密な作業を繰り返していた疲れが襲い掛かってくる。缶の炭酸飲料をイッキ飲みしてそれを撥ねのけると、シュルバはすぐに準備に掛かった。
数時間後、アルタイル達7人は冥王星に降り立っていた。アップグレードパーツのおかげか、誰一人かけることなく冥王星にたどり着く事ができた。シュルバはすぐに地面に爆弾を埋めて地下へと進む穴を作る。爆弾の威力は意外と高く、爆風と共にかなり地表の破片が飛び散った。そこから先はヒロキが先頭を進み、どんどんと地下へ掘り進めていった。
だいたい2時間くらい掘った辺りで、地下の泉に当たった。そしてその泉の中心に、美しい空色の光を放つ大きな水晶の塊が浮かんでいた。これが運命のクリスタルだと言うことは誰が見てもすぐにわかった。
「冥王星という忌々しい名前の星の中心に、こんな綺麗なクリスタルが埋まっているとはな」
アルトがしみじみと語る。
そしてヒロキとアリスは手を取り合った。
「「決意」」
ヒロキは刀を自分の腹に突き刺す。噴き出した血は瞬く間にヒロキの体を包み込み、ヒロキは血の鎧を身にまとい、血の兜の内側から鋭い目を覗かせ、獣が狩りの前にするように血の爪を舐めてみせた。
「悪いが一気に決めるぜ!」
ヒロキは紅く染まった翼でクリスタルへ一直線に向かっていく。鋭利な爪で引っ掻かれたクリスタルは叫び声のような音を出す。しかしクリスタルには一切の傷がついておらず、それどころか攻撃したヒロキの方が逆にダメージを受けているようだった。
「………チッ!」
砕けた爪は血液に戻り、足元の泉を染める。
ヒロキは一度下に降りて、今度はルカと手を合わせた。
「「断罪」」
ヒロキの持つ血塗られた刀、その先から垂れ出した血液がだんだんと刀を包む。そして刀は一瞬にして大剣になり、ヒロキは自信に満ち溢れた顔でそれを構えた。
「オラァァアアア!!!」
ヒロキは強く剣を振り落とす。手応えとしては十分すぎるほどだった。その証拠に、それはガシャンと大きな音を立てて崩れ去った。散りばめられた破片が泉に落ち、また泉の紅色を濃くしていった。
「おい、嘘だろ………」
大破したのは剣の方。ヒロキの持っていた大剣は大きな音を立ててバラバラに割れ、気づけばいつもの刀に戻っていた。
その直後、ヒロキも落ちてきた。あの状態になるとヒロキに肉体的にも精神的にも負担が掛かってしまう。今までの戦闘でこれをあまり使ってこなかったのはそういう理由があるからだ。
「ヒロキ!大丈夫?」
アリスが横たわるヒロキに声をかける。疲れきってまともに体が動かないが、死んではいない。ヒロキはゆっくりと頷き、微笑んだ。
「ダメだな…………アレは生半可な攻撃じゃ傷1つつけられない。むしろこっちが痛めつけられるくらいだ。あれを物理的に壊そうとするのはほぼ不可能だろうな」
ヒロキは酷い頭痛に襲われつつも、仲間にそう伝える。
「なるほどねぇ…………」
シュルバは口元を隠すように手を置く。
「あっちは世界のバランスを保つ柱、何億年も前から世界を支えるクリスタルだ。そう簡単に壊れるとは思えないな」
アルトがシュルバに助言すると、シュルバは何かに気づいたように突然口を開ける。そしてそれはだんだんと笑顔に変わっていった。
「そうだよ、何もクリスタルを壊す必要は無かったんだよ!みんな、一回帰るよ!」
「それで………どういうことなんだ…………?クリスタルを壊さなくてもいいって…………」
レイナが不思議そうにシュルバに問うと、彼女はPCの画面を見せた。
「これは転送装置の設定画面。今これは、2018年の冥王星にたどり着くように設定されている。でもクリスタルは予想以上に頑丈で壊せそうにない。じゃあ、どうすればいいと思う?」
その説明を受けて、アリスがすぐに答えた。
「そっか、クリスタルが置かれる前の冥王星に飛んでクリスタルの設置を阻止すればいいんだ!」
「そういうこと♪じゃあ行こっか!」
たどり着いた冥王星。
シュルバはたどり着くと同時にナイフを胸元に突き出した。ナイフの刃の側面は長い槍からシュルバを守っていた。
「先手必勝ってやつですか?手荒な自己紹介ですね、タナトス様♪」
タナトスは槍を構え直し、鋭くシュルバを睨んだ。
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