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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
1章『集え彦星、女神の下に』
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1章7話『わたしのかぞく(前編)』

 シュルバが仲間に加わって早くも2週間が経とうとしていた。

 彼女ははじめは少し引っ込み思案だったが徐々に心を開いて行き、今や転生機のプログラムをタクトに任される様になった。


 転生機はアルタイル達の生命の源。

 どんなに危険な戦いでも転生機があるから臆病にならなくても良いと言う彼らにとってはとても重要な役割を担う機械だった。

 そんな転生機のプログラムをたった一人で受け持つ事が出来る程、シュルバは仲間に溶け込んでいた。


 この日はいつも通り、エントランス前に宅配便が届いていた。

 アテナはいつも通り、重い段ボールを持ってタクトの部屋へと向かう。


 しかし、今日は船の様子が変だ。

 ヒロキはどうやら何処かへ出かけているようだが、シュルバがタクトの部屋に入っていったのを見た後、それ以来2人とも部屋から出てこない。


 荷物を運びに部屋の前まで来ると、部屋の中から声が聞こえた。


「ごめん母さん………ごめん………」


 扉の隙間から覗いてみると、机に座っているタクトが泣きながら誰かに電話をかけている姿があった。


「と言う訳なので、お送りした請求書の方の確認を…………」


 タクトの反対側には孵化厳選をしながらこちらも誰かに電話をかけているシュルバの姿もあった。


 アテナはしばらく様子を見ていた。

 しばらく経って2人はほぼ同時に電話を終了し、ほっとひと息つくと、


「これでしばらくは大丈夫そうだな」


 さっきまでの涙が嘘のようにタクトはいつも通りの口調に戻った。

 それを聞いたシュルバは疲れ果てたかの様にベットに寝転がった。


「えっと…………何をしているんですか?」


 突然扉を開けて現れたアテナに戸惑いつつも、2人は息を合わせて言った。


「え?いや………」


「何って…………」


「「詐欺」」


 アテナは現状を理解できない様だ。

 目をぱちくりさせて口を開けている。


「いや…………何で詐欺なんかしてるんですか?」


 アテナは常識的な言葉を2人にぶつける。


「あぁ予算足りなくなりそうだったからさ〜」


「タクトにちょっと教わったら割と簡単に稼げたから…………」


 2人はあくまで、常識だろと言い張るかの様に答える。


「それにもうすぐアイツも…………」


 船のエントランスの方から音が聞こえた。

 音の主は3人がいるタクトの部屋に向かってくる。


「ただいま、5600万しか盗れなかったけど大丈夫?」


 ヒロキは両手で銀色に光るアタッシュケースをタクトに渡した。


「ありがと。悪いな銀行強盗なんかやらせちゃって」


 ヒロキは苦笑いをしながら気にすることは無いと首を横に振る。

 アテナはまたもや目をぱちくりさせてヒロキの方を見る。






「今回、狙うアルタイルはコイツだ」


 たまたま全員集まったからと言う軽い理由で集まった作戦会議。


 モニターに映っていたのはタクト達より何歳か年上に見える男性だった。

 他の部分は詳細に情報が書かれていると言うのに何故か名前の部分だけ「No Data」と表示されている。


「これは………?」


 シュルバは名前の部分を指差してタクトに聞いた。


「これなんだけど、僕もよくわからないんだ。まぁ特に気にすることでも無い」


 実際シュルバも親に名前をつけて貰えなかった為、自らシュルバと言う名前をつけなければ彼と同じく「No Data」だっただろう。


「ヒロキ、殺害頼んだぞ」


 ヒロキはへいへいと面倒くさそうに最高管理室へと向かった。


 この時間軸はタクト達の時間軸とほぼ1つに重なっている時間軸で、今回のアルタイルの母親が2人の男のどちらと結婚するかで分岐した世界だという。


 タクト達も最高管理室に移動すると、すぐにその時間軸にアクセスし、ヒロキを転生機へ移動させた。

 いつも通りタクトがEnterキーを強く叩くとヒロキの姿は一瞬にして消滅し、同時に右のモニターにヒロキの姿が現れた。


 ヒロキはどうやら今回のアルタイルの家の中にいるらしい。

 洋館の様なイメージの暗い木材の家の中はとてもジメジメしていて、人が住んでいるとは思えない。

 外が曇っているため外からの光も殆ど入ってこず、余計に不気味さを加速させる。


 シュルバが事前に作っておいた大まかな家の間取り図を手にしたタクトは急いでその間取り図をコンピューターに移した。


「よし、そのままアルタイルを探し出せ」


 頭に直接語りかけてくるタクトの声に反応してヒロキは動き始めた。


 1つ1つの扉をゆっくりと開け、慎重に部屋を確認していくヒロキだったが、とある場所で身の毛がよだつ様な経験をした。


「うわぁ………気味悪ぃ………」


 ヒロキは思わず情けない声をもらしてしまった。


 少し広めの中庭に無駄にリアルな等身大人形がいくつかに置いてある。

 大人と思われる男性の人形や、笑顔を浮かべる女性の人形、無表情な幼い子どもの人形………

 多種多様だった。


 その人形に囲まれて一人の男性が空を見上げて立っていた。

 それが今回のアルタイルだ。


 ヒロキはその姿を見て、腰に刺さっている"同田貫・彼岸リリー"に手を掛けた。


 それと同時だった。

 中庭の中に一斉にペルセウスが現れた。

 ペルセウスの隊長と思われる人間はヒロキに向かって、


「アルタイルだ!殺せ!」


 ヒロキはアルタイルなので死んでも転生機で蘇るが、今転生機送りにされたら今回のアルタイルは確実にペルセウスに連れさらわれてしまうだろう。

 それだけは何とか避けたい所だ。


 現場の状況をある程度確認したタクトは特に慌てることもなくヒロキに冷静且つ簡単な指令を出した。


「応戦しろ」


 ペルセウスの軍隊は一斉に拳銃を構え、ヒロキに照準を合わせる。

 ヒロキは自分の頭めがけて飛んでくる銃弾を全て刀で断ち切り、その隙を付いて一気に間合いを詰めていった。


 ペルセウスはそれでも銃を撃ち対抗してくるが、ヒロキがスッとジャンプをするとペルセウスの頭の上を通過してペルセウスの真後ろに着地した。


 振り向きざまに刀を横に振り、ペルセウスの体は上半身と下半身で別れた。


 頭上から銃弾が降ってきた。

 上を見るヒロキの目には比較的大きな銃を持ったペルセウスが数名映った。


 ヒロキは建物の壁をいとも簡単に駆け抜けそのペルセウスも斬り刻んでいった。


 着地した瞬間、剣を持ったペルセウスが一斉にヒロキに飛びついていった。


 ヒロキは刀を持ったまま大きく体を回転させ、ペルセウスを斬った。




 タクトはモニターを切り替えつつペルセウスに応戦するヒロキの様子を見ていた。


 モニターには血の海となっている中庭で交戦しているヒロキとペルセウス達が映っていた。


「確認できるペルセウスは29人。10時の方向から更に8人が太刀を持って接近。ヒロキも消耗が激しい様だがこの人数なら応戦は容易と考えられる」


 シュルバはタクトの隣でキーボードを打って現状の説明をしている。


 一方のタクトは、今回のアルタイルを見つめながら何かを考えている様だ。

 アルタイルはすぐ後ろでヒロキとペルセウスが血で血を洗う戦いを繰り広げているのにも気づかず、ぼーっと空を見上げている。


 タクトが突然、小さく口を開けた。

 タクトは自分の気づいた疑問をシュルバに投げかける。


「なぁシュルバ…………このアルタイル、なんか様子が変じゃないか?」

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