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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
4章『崩れゆく柱』
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4章16話『黒色の光』

「クロノスの護り手になる………だと?」


「えぇ。あ、でも書類にも書いた通り時間軸保護の役割は放棄するのでシュルバさん達の目的に影響は出ません」


 霧島は至って冷静に、あたかも何もおかしな事はないかのように振る舞う。もちろん、オルフェウスはそんな霧島の態度が気にいらなかった。

 歯を強く噛み締め、霧島を睨むオルフェウス。彼の右手は血が滲むほど握りしめられる。誰がどう見ても『怒り』、そんな佇まいで彼は月の光を浴びる。


「では、霧島さん。これから、護り手となった貴女に主として私クロノスが直々に力を与えます」


 クロノスは蒼く長い髪をたなびかせながら霧島に近づいた。そして両手を広げた。


「でも貴女は非常に興味深い」


 すがすがしそうに笑うクロノスの言ってることは、霧島には理解できなかった。


「私が………興味深い?」


 霧島は目を細めて首を傾げる。

 クロノスはそんな霧島に頷き、なんとも楽しそうに、それでいて嬉しそうに語り始めた。


「貴女は神によって作られた護り手・ペルセウス。にも関わらず、主であるオルフェウスを斬り捨て私の護り手となった。護り手は本来心のない生き物、神に従い神のために戦う生き物。でも貴女はその強い意志で自分の信じた正義を貫こうとしている。例え主を裏切ったとしても未来の光を手に入れようとしている」


 とても柔らかく、やわい光が溢れるようなクロノスの笑顔を霧島は微笑みながら見ていた。


「では、そんな貴女に選択肢を与えます。どちらを選ぼうと私は貴女との契約を破棄したりはしません。自分の信じた方を選んでください」


 クロノスの広げた両手、その右手の上に白い球体が現れた。その球体は温かい光を出し続け、あたかも宝玉のように丸かった。クロノスはそれを霧島の目の前に出し、こう言った。


「こちらの力は、今まで貴女が信じてきた正義や愛の詰まった、いわば"希望の力"。世界に光をもたらす太陽とも表せるでしょう」


 霧島は球体をまじまじと覗き込み、目を輝かせた。

 クロノスはタイミングを見て球体を引き、今度は左手に別の球体を生み出した。この球体はさっきとは打って変わって、黒く濁りドロドロと溶けている。ダークマターなんて表現が適切だろうか。

 クロノスは今度はこれを霧島の目の前に出し、言った。


「こちらの力は、今まで私たちが信じてきた悪や憎悪を具現化した、いわば"絶望の力"。世界を黒く染め上げる暗夜とも言い換えられます」


 霧島は先程と同じく球体を覗き込むが、どうも距離が空いている。時折霧島は青ざめた顔になりながら表情を濁らせた。

 そしてクロノスはこの2つを同時に出し、霧島に選択肢を出す。


「先程言った通り、どちらを選んでも構いません。貴女が好きな方を選んでください」


 もはや霧島の分岐点とも思えるこの一言。対となる2つの力を目の当たりにした霧島は、葛藤する間もなく手を伸ばした。


「確かに私たちがやろうとしている事は私たちにとっての正義。でも、私たちの正義のせいで他の誰かが傷つくかも知れない。私たちの知らないところで私たちを悪とする人もいるかも知れない」


 霧島は黒い球体に手を伸ばし、目を閉じた。


「ですので私は決めました。そんな偽りの正義を貫く事を、そして………」


 霧島は黒い球体を手で払い落し、目を勢い良く開いた。


「偽りの正義を本当の正義に変えることを、先を征く絶望のために希望の光となることを、自分の希望と仲間の絶望を信じて正義を掴む事を諦めないことを」


 霧島は叩きつけるように白い球体に手を置く。クロノスは深く頷きながら、右手の指を伸ばした。白い球体は光の粒となり霧島に吸い込まれていく。


「貴女の選んだ道が正しかったか、それは私にもわかりません。ですが、一度選んだからにはこの道を後戻りしないように。払い落とした黒い球体をもう一度拾うことがないように。それさえ守ってくだされば、きっとその道は貴女にとっての正解となるでしょう」


 そう言うと、クロノスはフッと消えた。


「どう?葵ちゃん。なんか変化みたいなのは?」


「これは………うまく言葉では言い表せませんが、なんだかとても体が軽いです。これが、希望の力なのですね」


 霧島はオルフェウスの方を見て、ニヤリと笑った。


「おいおい、まさか俺を殺すとか言わないよな?希望の力、なんだろ?」


 霧島は余裕の表情でオルフェウスを見つめる。まるで踏みつぶされた蟻の骸を見るような、そんな慈悲と軽蔑の混ざった目でオルフェウスを哀しそうに見つめていた。


「私は希望の力を手に入れました。何にも負けない、強い光の力です。ですが、それが正義を意味するとは限らないんですよ」


 霧島は地面に転がるダイヤモンドを拾い、見せつけた。


「貴方がこのダイヤモンドを使った時のように、光は時に人を傷つける武器となる。そしてそれは、私のこの力も例外ではありません」


 霧島は手のひらを上にして腕を伸ばす。手はまっすぐとオルフェウスの方を向いていた。

 次の瞬間、霧島の手の先に優しい光が集まった。それはだんだんと大きな光となり、夜の暗闇を消し去る美しい星となった。

 そして星は彗星のごとくオルフェウスに突き刺さりオルフェウスは船の上に落ちてきた。

 彗星は爆発を起こし、大きな光に包まれる。その光が消えた頃には、霧島はオルフェウスの目の前に立っていた。


「私の得た力は、どうやら光を操る能力。そしてその操るという言葉には、()()()()()()()()という意味も含まれています」


 オルフェウスは貫かれた腹を抑えつつ、何やら満足そうな顔で立ち上がった。


「やっと完成したな、霧島」


「……………何を、言っているんですか?」


「俺は、お前が光を手に入れることを信じていた。お前なら、きっと俺を倒すくらいに強くなると信じていた。そのためなら、たとえお前を傷つけてでも自分の意志を削ごう。そう思っていた」


 霧島は葛藤の表情を浮かべた。


「でも、もうその必要は無くなった。お前は自分のあるべき道を見つけ、それに向かって突き進む光を手に入れた。だから今度は、俺がお前に光を突きつける番だ。お前に見せてしまった闇の分、俺はお前に光を与えたい。だから…………図々しい話だとは承知している。だけど…………お願いだ……………」


 オルフェウスの腕は霧島を包みこんだ。


「もう一度だけ、俺を信じてくれないか………」


 霧島はオルフェウスの温かさを感じた。彼の気持ちをしっかりと受け止めた。同時に、この人なら信じられる。この人となら自分たちの目的が果たせる。この人となら同じ方向を向いて歩いていける。そう、思った。もしこれが以前の霧島だとしたら。


「ぐほぁっ…………」


 オルフェウスは大量に吐血した。刃物で刺されたような痛みが彼の背中に走る。

 目の前の色が暗くなったり明るくなったりを繰り返し、脳も活動が遅くなっていく。それを実感しつつ、彼は霧島に見捨てられその場に倒れた。


「霧島…………俺は、そこまでお前を怒らせたのか?俺はお前に許してもらえないまま死んでいくのか?」


 霧島からの返事はない………。


「おい、どうなんだ………?答えてくれよ………」


 それでも霧島はずっと黙ったままだ。


「霧島!!」


「全く…………これが7柱の最期の姿とは、情けないですね」


 霧島の声が聞こえた。ただし、それは後ろからだ。


「は……………?」


 オルフェウスは焦りながら前方の霧島を見る。


「そんな………いつの間に………!!!」


 死にゆくオルフェウスが最期に目撃したのは、笑いながら彼を見下すアリスの姿だった。

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