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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
4章『崩れゆく柱』
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4章14話『空飛ぶ疾風』

 海面に浮かぶ満月が波に揺られキラキラと輝く。空に広がる星は手を伸ばしたら届きそうなほど大きい。船のテラスでコーヒーを飲むシュルバは潮風の先に見える黒色の塊を見て、微笑んだ。


「さぁ、始めようか♪」


 シュルバは天に向かって空砲を撃つ。

 その音は辺り一帯に響き渡り、船内にいたアルタイル達に開戦を告げた。音を聞いたアルタイル達はお互いに顔を見合わせ頷く。そしてそれぞれのアタッシュケースを持ち、定位置へと向かった。


 その頃、空砲を聞いたペリー艦隊の隊員は司令官室の前に立っていた。


「失礼します」


 荒々しいノックの後に勢いよく扉が開かれた。司令官であるペリーは地図を見ながら航路の確認をしていた。


「おや?どうしたんだ、そんなに急いで」


「空砲です。進行方向から空砲が聞こえました」


「空砲?おかしいな、モーリシャスまではまだ少し距離があるから空砲なんて聞こえてくるはずは無い」


「音の大きさから察するに、おそらく我々とは別の船です。味方の艦隊なら内線を使って連絡してくるはずなので」


「そうか…………すぐに確認を、私も向かう」


 ペリーは黒い椅子から立ち上がり、隊員と共に屋上へ出た。

 既に他の隊員が望遠鏡で音の方向を確認している。ペリーはその隊員の横に立ち、腕を後ろで組んだ。


「ペリー司令官」


「話は聞かせてもらった。船の特徴は?」


「そこまで大規模な戦艦ではありません。白色の中型船です」


「なるほど。密漁船というわけではなさそうか。距離は?」


「かなり離れています。カノン砲が届くかどうかです」


「なるほど」


「どうなさいますか、ペリー司令官」


「気にするに値しない。おそらくあちら側も、この規模の船が4隻もあれば、迂闊に攻撃できないはずだ。予定通り、このままモーリシャスへと向かう」


 ペリーはそう言い、進行方向に背を向けた。

 その直後に、後ろから断末魔が聞こえる。ペリーがもう一度振り向くと同時に、ペリーの額に血が飛び散る。彼の足元で、先程まで会話をしていた隊員が血を流しながらビクビクと動いていた。


「なっ…………!」


 腰を抜かして驚愕しているペリー。その先の殺人犯は何事もないように会話をしていた。


「ちょっとアルト、AIMガバガバすぎでしょ」


「うるせぇ。むしろこの距離から当たる方がおかしいだろ。隊員1人殺せただけ感謝しろ」


「はいはい、わかりましたよ」


 シュルバは呆れたように笑い、手を広げる。


「くそっ…………!」


 ペリーは床に伏せながら、奥歯を噛みしめる。


「前方の船は間違いなく敵だ!臨戦態勢に移れ!」


 ペリーは少し体を起こし隊員に指示を出す。そのペリーの帽子に穴が空いたのはその3秒後の話だ。


「うわ〜惜しい!あとちょっと下だったかぁ」


「シュルバ上手ぇな。お前銃の方が向いてんじゃね?」


「かもね〜、まぁナイフの方が好きだからスタンスを変えるつもりはないけど♪」


 シュルバはライフルをしまい、すぐに次の準備に取り掛かる。


「じゃあアルト、そっちは頼むよ♪」


「全く………もっと正しい使い方してやればいいのに」


 シュルバはアタッシュケースを片手に船内へと入っていった。


「ヒロキ、そろそろ大丈夫?」


「おっ、俺の出番か!頼むぜシュルバ」


 ヒロキは刀を鞘に納め、屋上へ向かう階段を登った。ヒロキは特別視力が良いわけではないが、ペリー艦隊が混乱に陥っていることは松明の光の動きを見ればわかった。


「おまたせ♪」


「よし、行くか!」


 シュルバはヒロキに手を合わせ、目を閉じる。


「「矛盾(パラドックス)疾風(gale)』」」


 そう叫ぶと同時に、前方に5人の人間が現れた。それも、船上にでも海上にでも無い。その5人は足元から炎を噴き出し空中に浮いて留まっている。

 それを見てシュルバは船の端まで行き、下のテラスに居るアルトに手を振った。アルトはすぐに気づき、面倒くさそうに手を振り返す。


「じゃあ、ちょっくら行ってくる」


 ヒロキは腰のベルトを押す。彼のベルトからはまっすぐにワイヤーが伸び、黒船へと向かっていく。その様子を見ていたペリー艦隊の監視兵がざわつく。


「なんだあれは?」


「糸…………の先に鉤爪のようなものがついている。武器かなにかなのは間違いないが…………」


「それにさっき現れた人間、空中に留まったまま何も仕掛けて来ないぞ?」


「一体どうしたと言うのだ…………」


 その全ては一気に解決した。

 ヒロキの腰から伸びるワイヤーの鉤爪は空を飛ぶ一人の人間に向かっていく。そしてそのまま、鋭利な鉤爪の先端が人間の胴に突き刺さる。それを見たヒロキが1つ下のボタンを押すと鉤爪はガシャガシャと音を立てて釘のように変形した。

 そして1つ上のボタンを押すとワイヤーが巻きとられ始め、そのままヒロキは空へと飛び込んでいった。


「おーいシュルバ、これでいいのか?」


「最高♪」


「これ、5体同時に操作すんの大変なんだからな」


「わかってるわかってる。お疲れ♪」


 アルトはふぅと一息つくと、白いコントローラー、ファントム操作用のコントローラーをテーブルに置いた。


 一方のヒロキは、ワイヤーを使ってファントムまでたどり着くとすぐに鉤爪を外し今度はペリーの艦隊に鉤爪を刺した。


「あ、あいつ!こっちに来るぞ!」


 隊員は大慌てで腰に装備した銃に弾を詰める。海上で戦闘が起きるとは思っていなかったし、起きたとしてもカノン砲や榴弾砲で応戦するため、安全も考えて銃に弾は詰めていなかったのだ。

 そのため、隊員が焦って銃に弾を詰める頃にはヒロキは船上に到着していた。

 隊員は無我夢中で銃を撃つ。さながらマシンガンのような銃声が海一帯に響く。

 ヒロキは目を閉じた。目を閉じて、神経を研ぎ澄まし、刀を抜いた。と、同時に果てしない速さで刀を振ったと思えば銃弾は全てヒロキの足元で真っ二つになっていた。


 疾風(gale)

 疾風の如き速さで動くことができるタイムパラドックス。

 彼はこの力で自分に飛んできた銃弾を全て刀で斬り割って見せたのだ。

 ヒロキは監視兵を無視して船内へと入る。彼を見た者は全員彼に向けて発砲するが、その銃弾が彼に当たることはなかった。


 司令官室。そう書かれた扉は横に割れ無残にも崩れ落ちた。


「君が、この船を騒がせている侵入者か」


 ヒロキは両足から流れる血を手で抑える。


「こんな簡単なトラバサミに引っかかるなんて、知能が欠けてるんじゃないか?」


 ペリーは椅子から立ち上がり、窓の外を見た。


「たった一人でここまで辿りつく侵入者がいた事には驚きだけど、君の人生もここで終わり…………」


 銃声が響き、窓が紅く染められた。

 ペリーは頭から血を流し、その人生を終えた。ヒロキのハンドガンによるヘッドショットで。

 ヒロキは窓に発砲し、ガラスを砕く。そしてトラバサミを無理矢理外しワイヤーで外に飛び出した。行きと同じ方法でアルタイル達のもとに戻ってきたヒロキにアリスが駆け寄り、足に傷薬と包帯を巻く。

 その間にアルトは白いコントローラーを操作する。5体の内1体は鉤爪の傷の影響で操作不能に陥り海に沈んでしまったが、残りの4体を操作し、一体ずつ船の近くに配置すると、アルトはいくつかのボタンを同時に押す。


「ペリー司令官の意思は我々が継ぐ!我々だけで、なんとしてでも航海を成功させるぞ!」


 そう士気を高めていた隊員。

 その下でファントムの自爆プログラムが起動。船の底に大きな穴を開けた。


「沈没するのも、時間の問題ね♪」


 シュルバはそう言って空を見上げる。

 見上げた満月の先には、派手な服を纏った一人の男性が浮かんでいる。

 それを見た霧島が、コツコツと階段を上がって屋上へとやってきた。


「霧島さん?」


 シュルバの呼びかけを無視して、霧島は男に言い放った。


「お久しぶりですね、裏切り者のオルフェウス様」


 霧島はかつての主を強く睨んだ。

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