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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
4章『崩れゆく柱』
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4章13話『チェックメイトの予告』

 ドリルの高い音が部屋に響く。火花は辺り一面に飛び散りその淡い光を消していく。ルカは目を細めながら手のひらサイズの鉄鋼を丁寧に削っていった。先端を鋭利に、根本は丸く、それでいて頑丈に。それがシュルバからの依頼だった。

 かつては趣味程度でやっていたただの人形技師だったルカが今では専門家でも難しい作業を楽々とこなしてしまう程になった。ルカはアルタイルにおける重要な戦力である。


「おっつ〜、調子はどう?」


 シュルバがクッキーとオレンジジュースを持ってルカの部屋に入ってきた。彼女が扉の後ろから見たときには既にだいたいの作業が片付き、ドリルによる精密な最終調整が行われているころだった。


「これ、アリスちゃんがルカちゃんにあげてって」


「やったー!ありがとー!」


 ルカは大喜びでクッキーを受け取り、1つ食べる。

 その間にシュルバは防護用の新聞紙の上の鉄の塊を見て目を輝かせた。


「すごい………私が想像した通りだ」


 シュルバはメガネを直し、しゃがみこんでルカに目線を合わせた。


「ルカちゃん凄いよ、ここまで完璧に作ってくれるとは思わなかったもん♪」


「えへへー、すごいでしょ」


 ルカはシュルバに頭を撫でられながら笑った。


「あ、そうだ!()()()も完成したよ!」


「あっち?他になんか頼んでたっけ?」


「頼まれてはいないけど…………これ」


 そういってルカがシュルバに手渡したのは、白いゲーム用コントローラーのようなものだった。


「これ、もしかして…………!」


「うん!アルトおにーちゃん大変そうだったから作っといたよ!」


 シュルバはその完成度の高さに言葉が出なかった。こちらからは何も指定していないにも関わらず、こちら側が求めるもの、いやそれ以上のものを提供してくれたルカに驚きを隠せない。


「次の作戦で使うかも知れなかったからちょうど良かったよ♪ありがとう!」


「えへへっ、どういたしましてー!」












「さて、みんな揃ったね♪」


 作戦会議が始まった。今回は夜も遅かったのでいつもの最高管理室ではなく食堂でそれぞれ夕飯を食べながらの作戦会議となる。


「今回向かうのはペリーの浦賀への来航の時間軸よ」


 ペリー来航。

 長く鎖国を続けてきた日本が開国するきっかけとなった事件だ。来航直後は不平等条約などのせいで決して良い状況とは言えなかったが、他国との交流や貿易をほとんどしてこなかった日本にとってはペリーの来航は大いなる1歩だった。

 全ての始まりはカルフォルニアで起きた。もとはメキシコの領地であったカルフォルニアだが、1853年、アメリカがそれを獲得した。これにより、西へ西へと進み続けてきたアメリカはいよいよその西の果て、西海岸へと辿り着いたのだ。

 しかしアメリカは止まらない。今度は太平洋の先にある中国、当時の清との交易を視野に入れ始める。他にも、アメリカは捕鯨にも目をつけていた。鯨は油脂分を多く含んでいるのでアメリカはそれを求めて捕鯨も行う。そのため捕鯨船団の寄港地が必要になってくる。そんなときに見つけたのが太平洋に浮かぶ島国・日本だった。なのでペリーの本来の目的は日本との貿易ではなく、捕鯨や清との貿易。日本は寄港地に過ぎなかった。

 その後、1853年に東京湾の入り口"浦賀"にペリー率いる四隻の軍艦が来航した。黒船と呼ばれる、当時の人から見れば実に巨大な船艦だ。

 ペリーはフィルモア大統領の国書を日本の将軍に渡すよう命じられていた。国書は受け取った時点で渡した側の要求をのんだことになってしまうのでそう簡単に受け取っていい代物ではないが、日本人が国際的な慣習に疎かったこともあり、ペリーのあまりの威圧感から日本人はこの国書を受け取ってしまう。


 これをきっかけに幕府の体制はどんどん崩れ、最後には大政奉還が実現してしまうが、それはまた別の話。


「で、ペリーの来航の時間軸に行くっつったって、俺らは何をするんだ?」


 アルトは銀色のスプーンでカレーを口に運びながらシュルバに問う。


「それももちろん、考えてあるよ♪」


 シュルバは牛丼の隅のほうを箸で持ち上げ、一口食べる。


「あの時代の江戸で戦うのか……………?帯刀が許されてるあの時代、町中で目立った行為はできないと思うが…………」


 レイナがハンバーグをナイフで切り、その一欠片をフォークで刺しながら言った。


「うん、だから1つ作戦を考えてあるんだ♪」


 シュルバは立ち上がり、世界地図を広げた。


「日本は太平洋にある国よね?だからペリーはアメリカ大陸から太平洋を横断して日本にやってきたと思われがちだけど、実はペリーは大西洋の方を通っているのよ。理由としては、西海岸のカルフォルニアは少し前までメキシコ領だったでしょ?だからアメリカはその頃まだカルフォルニアに大きな船艦を構えていなかったの。そのへんはいいとして、とにかくペリーの艦隊は大西洋を通って日本に来たの。で、もちろんダイレクトに日本に来たわけじゃなく、何日かかけていろんなところに周ってから日本に来たの。で、その途中ケープタウンからインド洋のモーリシャスへ向かう海路を通っているの」


 シュルバはポケットからポーンの駒を取り出した。


「ここを攻める」


 ダンッと強い音を立てて駒が地図の海路の上に置かれる。


「ぶっちゃけどこの航路でも良かったけど、ここの間はペリーの航路の中でも一番長い。艦隊がモーリシャスに着く直前に私達が攻めれば、ペリー艦隊は燃料を切らし始めてる頃だから勝機はあるんじゃないか、と思ってさ」


「ん?待って、てことはさ」


 ラーメンを啜っていたアリスが手を上げた。


「アリス達は次の戦闘、海の上で戦わなくちゃいけないの?」


「うん、まぁそうなるけど…………大丈夫、ブースターでずっと空中にいるとかそういうことは無いから」


 そういった次の瞬間、シュルバの隣に現れたのは霧島だった。


「はい、今回は我々ペルセウスの船艦をお貸しいたします。この船ほど豪華なものではありませんが、海上の戦闘に特化した船艦ですので不自由することはないと思います」


「結構手配に時間掛かっちゃったけど、なんとか霧島さんに船を借りれたからね、これで少しはペリーの艦隊に対抗できると思うよ♪」


「海の上での戦闘か……………心躍るなぁ!」


 ヒロキはマグロの寿司を手で掴み、醤油をつける。


「今まで海の上で戦ったことなかったからね、面白い試合になるよきっと♪」


 シュルバも牛丼を食べながら楽しそうに笑っている。


「でも相手は4隻だぞ?敵の人員もかなり居るはずだ。俺達7人だけでなんとかなるとは思えないが」


「安心して♪そのためにルカちゃんがすごいの作ってくれたから♪」


 アルトは隣で唐揚げを食べているルカをちらっと見て、すぐ視線を戻す。


「まずはみんなにこれ」


 シュルバは先端が刃物のように尖ったフックにワイヤーがついたものを1人に2つずつ渡す。


「見ての通り改造型ワイヤー。特殊な割合の合金で作ってあるから、質量はかなり軽いけど耐久性はすごい。生半可な重さじゃ壊れないよ♪」


「そんでアルトにはこれ」


 シュルバはアルトに先程の白いコントローラーを手渡した。


「これってもしかして…………」


「うん♪今回の作戦で使おうか迷ってたけど、ルカちゃんがそれ作ってくれたからいけるでしょ?」


「……………あぁ。やってやるさ。何百だろうと何千だろうとかかってこい」


「じゃあ、遠慮なくいかせてもらうわよ♪」


 シュルバとアルトは拳でタッチをした。

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