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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
4章『崩れゆく柱』
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4章9話『正義と対を成す正義』

 シュルバはサバイバルナイフを持った右手を真っ直ぐと月の神・セレネに向ける。その鋭い目の中には決意と意思、そして両端が少し持ち上がった口元は希望と絶望をぐちゃぐちゃに混ぜた灰色の感情が浮かべられている。

 誰が見ても分かる。シュルバはセレネを殺す気だと。


 セレネはゴミ虫を見るような目つきで、見下したようにシュルバを睨み付ける。


「7柱である私を殺すとでも言いたいのか?たかが人間如きが思い上がるな」


「そっちこそ、自分は人間なんかには殺されないとでも言いたいのですか?たかが7柱如きが思い上がらないでください」


 両者は殺意を剥き出しにし、相手を睨む。

 殺さなければ殺される、死を超越したはずなのにそんな気がする。相手は世界を作り出した神の1人。こちら側の転生を無効化することは造作もないだろう。

 だからこそ、目の前の神を殺さなければいけない。シュルバはナイフをグッと強く握った。


「さぁ、絶望を始めよう」


 シュルバは目を見開いて笑った。


「さてと…………」


 シュルバは肩の力をスッと抜き、斜め上を見上げ目を閉じる。開戦を告げるかのように強風が流れ込む。シュルバは漆黒に染まった髪をなびかせながら呟いた。


「面倒くさいから、一気に決めさせてもらうわ」


 シュルバは目を開き、セレネ目掛けて走り出す。そしてナイフを持った手を大きく後ろに引き、体を回した。

 さながら竜巻の如く回り続けるシュルバは、その勢いでセレネの頬に傷をつけた。シュルバも今まで数々の戦闘をこなしてきただけあり、このような難しい技術でも実践に持ち込めるほどに戦闘に慣れてきたようだ。

 もちろん、シュルバは船でも積極的に戦闘訓練を行っている。基本は遠距離武器なのにも関わらず、ナイフをしっかりと握る。

 このナイフが表すシュルバの心については後ほど解説しよう。


 シュルバは重心を低くし、2発目のために体勢を整える。少し閉じたシュルバの目には、今度は狩人のような強い力が篭っていた。彼女のツインテールが、慣性の法則で大きく前へ流れる。土煙が彼女のシルエットにもやを掛ける。

 あたかも女王のような風格を放つシュルバに、セレネも若干気圧されていた。


 しかしそれでも若干気圧される程度で済むのは、今のままなら間違いなく自分が勝つと確信しているからである。


 シュルバは地面を強く蹴り、前へ飛び出した。今度は腕をより長く伸ばし、全体重を右手に集中させる。シュルバ本人の力と力学的エネルギー、それと遠心力が掛け合わさり、ちっぽけなサバイバルナイフは重い一撃となる。

 はずだった。


 セレネは腕を伸ばした。腕はまっすぐとシュルバの方向を指しており、シュルバもその行動を不思議に思った。

 次の瞬間、飛び出したのは予想外の物だった。

 セレネの腕の先に白く光る弾が生み出されたのを確認する猶予は無かった。その光景を見たものは総じて、セレネの手から光線が飛び出したと説明するだろう。


 ゴォォオオオオオオン!!!!!


 辺りに爆音が鳴り響く。それと同時にその一帯は光に包まれ、風に吹き飛ばされ、煙に隠された。


 視界が晴れた頃には、シュルバは半透明な光の膜の中にいた。閃光にやられた両目をゆっくりと開き、顔に覆い被さる両手を少しずつ退かしていく。

 シュルバは目を見開き、言葉を失った。

 足元を見る限り地形にはさほどダメージが入っていないようだが、あの光と音から察するに対人についての威力は凄まじいだろう。

 もしアリスとルカが結界(barrier)を発動するのが少しでも遅れていたら、と思うと血の気が引いた。


「なるほどねぇ………さすが7柱と言ったところかな」


「かろうじて凌いだか…………さすがアルタイルと言ったところだな」


 シュルバとセレネはお互いを冷酷に睨み合う。絶対的な緊張感に包まれたバスティーユ牢獄は襲撃戦の時とはまた違う、暗く静かな風景を作り出していた。


「時に人間…………ひとつ問いがある」


 セレネの意外な一言に、シュルバは首を傾げた。


「貴様の目から見れば、私は悪として写っているか?自分達こそ正義であり、それを邪魔する私達7柱は悪である。貴様はそう思っているのか?」


 シュルバは黙ったまま答えない。


「図星なのか」


 それでも彼女は苦い顔をしてうつむいている。


「そうさ、争いというのはいつもそうだ。お互いに譲れない正義があって、その正義を突き通す為に相手の正義を打ち砕く。正義というのは時に勇ましく、時に忌々しい言葉なのだ」


 シュルバは歯を食いしばり、手をきつく握り締める。


「私は7柱だから、貴様を殺さないとは言えない。それが、私の正義だからな。だから貴様も、自分の意志を私にぶつけてみろ。貴様の中にある正義を私に見せつけてみろ。そうすれば、私に勝てはせずとも最期を美しく彩ることくらいなら出来るだろう」


 セレネのその発言の後に流れる沈黙の時間。双方の殺意が水に溶けたように消えた空白の時間。正義とは何か、そんな哲学に頭を悩ませる虚空の時間。

 その末に、シュルバはナイフを地面に置いてセレネから大きく距離をとった。


「これが…………私の正義。これが…………私の出した答えです」


 シュルバはうつむいてそう言った。

 セレネはアルタイルの呆気ない最期に心底驚きながらも、彼女の正義を受け取り、大地に置かれたナイフを手に取る。

 その背後に、フードを被った銀髪の女性がナイフを大きく振りかぶっていることにも気づかないまま。


 レイナはナイフをセレネの背中に突き刺した。セレネは声にならない苦痛の声を小さく漏らし、背中からダラダラと血を流した。シュルバもすかさず、ライフルを手にする。


「キャハハハハハハッ♪まんまと嵌められちゃったねセレネ様ァ!」


 ライフルを撃つシュルバは依然として狂気的に笑う。セレネの体は崩壊と再生を繰り返し、壮大な発砲音と血の飛び散る痛々しい音が静寂を切り裂いた。


 やがてシュルバの銃撃が一段落すると、セレネは強い眼差しでシュルバに改めて問う。


「これが……………そうなのか……………………。これがッ!貴様にとっての正義なのか!?」


 シュルバは尖らせた唇に人差し指を当てて目を泳がせる。


「うーんとね、まず貴方は根本的な勘違いをしている」


「勘違い……………だと?」


「この戦いは、正義と正義のぶつかり合いなんかじゃない。私は貴方に正義をぶつける気でナイフを構えた訳じゃない。そもそも最初から、私達に正義なんて存在しない」


 シュルバはにやりと笑い、こう放った。


「私達は目的の為なら、誰だろうと殺してみせる。何人だろうと殺してみせる。そんな自分の利益しか考えない私達は、一点の光も無い『悪』。としか考えられないんじゃない?」


 セレネは歯ぎしりをした。


「なるほど…………貴様に正義を問うた私が間違っていたのか」


 セレネは倒れたまま、右手を突き出した。


「ならば、正義の下に散れ」


 セレネの腕から飛び出した光線。それがシュルバに触れる寸前に、背後からルカが現れる。


「「矛盾(パラドックス)奪取(seizure)』」」


 2人に向かって一直線に飛んでくる光は、シュルバの偽りの左手に集まった。


「あ〜………やっぱりそういうことだったのね」


 シュルバはニヤニヤしながら小刻みに頷く。


「この光線の正体は水素。貴方は空気中の水素を一箇所に集めて濃縮し、それを対象に向けて放つと同時に水素に火をつけていた、みたいな感じかしら?」


 シュルバの義手が、ガチャガチャと音を立てながら機械的に動き出す。


「まっ、そんなのもう関係ないですけどね♪」


 次第に義手は砲台のような形へと変わり果てた。

 シュルバは砲台をセレネの方に突き出し、叫んだ。


「セレネ様の技、いただきましたー♪」


 セレネはあまりに困惑して物も言えなかった。


「あぁ~!水素の音~~!」


 シュルバの義手から、一閃の光が飛び出した。

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