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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
4章『崩れゆく柱』
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4章8話『紅色の跳ね橋』

 バスティーユ牢獄。

 およそ30mにも及ぶ垂直の壁の所々に円柱形の塔が合計8基。周りは堀で囲まれており、進入経路は2つの跳ね橋だけである。

 シュルバは塔の1つの上に仁王立ちする。爽やかな風がシュルバの黒髪をなびかせる。彼女はにやりと笑い、宣言した。


「作戦開始」


 その声を聞いたアルトはシュルバの方を見てコクリと頷き、シュルバとは反対側の跳ね橋へと向かった。

 アルトは跳ね橋の真ん中でしゃがみ込み、アタッシュケースを開く。ライフルを包む箱を投げ捨て両脇に銃を抱え、そのままアタッシュケースを閉じて跳ね橋の内側に走った。

 アルトが銃弾の装填を終了させた辺りで、遠くの方から怒号が聞こえてきた。どうやら民衆が到着したようだ。

 民衆が跳ね橋に差し掛かった頃、アルトは姿勢を低くしライフルを構えていた。

 トリガーに人差し指を掛けゆっくりと内側に近づける。ライフルの先から、破裂音と閃光が漏れる。

 銃口の先にいる民衆達は体中から鮮血を流しバタバタと倒れ込む。アルトは手の内に残る『人を殺めた温かさ』に興奮しながら、次の銃弾を取り出した。


 それでも民衆の流れは止まらない。それどころか増える一方だ。

 これではキリがない、そう考えたアルトはライフルを下に向けた。その僅か10秒の隙をついて民衆は跳ね橋を渡りだす。

 アルトは不敵な笑みを浮かべた。彼はもう一度しゃがみ込み、銀色の箱を開く。その中の、手のひら大のプラスチックの塊を取り出し、その先端の輪っかに八重歯を掛けてそれを持つ手を引く。

 そして手に持ったそれを跳ね橋に向かって投げた。が、人間はその程度のプラスチックが体に当たっただけではなんともない。


 ではなぜアルトはそれを投げたのか。答えは至って単純だ。

 跳ね橋の真ん中に落ちたそれは、その場で小さな爆発を起こした。跳ね橋の真ん中には小さな穴が開いたが、避けることも容易く民衆から見ても気にするに値しない。

 しかしその爆発を中心に、今度は嫌でも気になってしまう大規模な爆発が起きた。それも一度や二度ではない。アルトは爆風を浴びながら、ボソリと独り言をこぼす。


「シュルバのやつ、ダイナマイトあるならあるって言えよな」


 アルトの本来の目的は、跳ね橋の真ん中に立ちライフルで向かってくる民衆を射殺すること。しかし、アルトはライフルを包む箱の裏側に大量のダイナマイトが仕組まれていることに気がつく。シュルバがなんの目的でそれを仕掛けたかはわからないが、アルトはこれをチャンスだと踏んだ。


 大規模な爆発はだいぶ勢力を弱めた。

 跳ね橋の真ん中には5mはあろう大穴が開いており、既に橋は2つに分かれていた。

 それ故に、両方の橋は中心近くにいた民衆達の重さでバキバキ、メキメキと音を立てて傾き始める。なんとか戻ろうとするがもう手遅れで、大勢の民衆は悲鳴を上げながら黒く濁った堀の中に沈んでいった。


 アルトはスマホを取り出し、声を出した。


「俺だ。こっち側の跳ね橋は破壊した。民衆がどう足掻こうが、ここから侵入するのは不可能と判断できる」


「了解。私のサプライズプレゼント気に入ってくれた?♪」


「全く、誤爆してたらどうすんだよアホ」










「アルトって賢いし頼りになるんだけど口悪いんだよねぇ」


 シュルバはスマホを仕舞いながらそうつぶやいた。


「まっ、進入経路が1つに絞れたのはかなりの収益ね。あとは一気に畳み掛けるわよ♪」


 シュルバはそう言ってAMRライフルを構え、スコープを覗いた。民衆はもう少しで到着するだろう。そして前衛の数十名は他と比べてもかなりの重装備をしている事を確認できた。

 シュルバは嬉しそうに、ニタァ〜っと笑いスマホを取り出した。


「レイナちゃん、そろそろお願い♪」


「分かった………すぐに向かう………」


 電話を受けたレイナは自分のいる場所の2つ左の塔へと入っていく。長い螺旋階段を駆け上がった先には、ライフルの弾をカチャカチャと装填しているルカの姿があった。

 レイナは困り果てているルカの肩をぽんぽんと叩き、優しい笑顔を見せてからライフルの弾を詰めて上げた。


「ここに弾をはめて………下をギュッと押すんだ…………」


「うん!ありがとうレイナおねーちゃん!」


 レイナはマスクの下で優しく微笑んだ後、ルカと手を合わせて目を閉じた。民衆が橋を渡ろうとしている様子が目に浮かぶ。それを強くイメージしたまま、2人は叫んだ。


「「矛盾(パラドックス)氷結(Freezing)』」」






 跳ね橋の方では武装した民衆達が木製の橋を猛ダッシュで渡っていた。そんな中、前線の民衆達の足元に凍るような冷たさが走った。次に足元を見た頃には、民衆の足元には硬い氷が張り付いており両足ともビクとも動かなかった。

 民衆はなんとか氷を剥がそうと藻掻くが、それでも氷は全く変化がない。焦りと恐怖が身を蝕むこの状況下で、彼らの目の前にあったものはもはや救いにすら見えたかも知れない。


 視界の先にいたのは、血塗られた刀を持った少年。見ず知らずの少年だったが、彼は自分たちの最大の望みである『このまま動けないくらいならいっそ死んでしまいたい』。冗談じみたこの望みを彼は次々と叶えて回った。一人残らず、慈悲も容赦もなくひたすらに。まるで何かに取り憑かれたようにがむしゃらに。


「……………ダメだな。動けなくなった敵ですら綺麗に斬れなくなってる。もっと鍛えないとな」


 ヒロキは斬られている民衆側の意志を完全に無視し、まるで人形相手に独り言をぶつけているような冷めた口調でそう呟いた。自分の手にはそれとは対照的な温かい血が掛かっているのにも気づかずに。







「おっとあれは……………」


 シュルバが次に見つけたのは大きな盾を持って直進してくる民衆。どうやら盾は石か何かで作られている簡素な物らしい。


「そのためのAMRでしょっ♪」


 シュルバはライフルを構え、民衆めがけて放った。

 銃弾は民衆の脳を貫き、そこ以外に一切の傷をつけなかった。シュルバは獲物が即死してしまったのでは苦しむ顔を見れないじゃないか、と不満そうな顔をした。

 民衆は突然の出来事に戸惑いつつも、銃弾の飛んできた方向に向けて盾を構えそれに隠れるように体を縮こまらせた。そのままの状態で進むのは効率が悪いが、背に腹は替えられぬとゆっくりと盾を引きずりながら進んでいく。

 シュルバは無慈悲にも、その民衆を盾ごと貫いた。


 シュルバが持っているのはアンチマテリアルライフル。いわゆる対物狙撃銃だ。

 一般的には敵の要塞の壁に向けて放ち突破口を開いたり、壁の裏に隠れて銃弾を凌ぐ敵の背後からその壁を破壊して銃弾を叩き込むような使い方をする。

 しかしもちろん、石の盾くらいなら容易く破壊できる。それがAMRライフルの強みだ。

 ただし欠点として、重量があることや目立ちすぎる事が挙げられる。そのため、所持しているのはシュルバだけなのだ。


 ルカもシュルバとは別の砦から、民衆の横をアサルトライフルで撃ち抜いていく。そのため跳ね橋は民衆達の血の色に染まり、地獄のような光景を生み出した。

 そこに天界からの使者が現れたのはその16秒後の話だ。


 跳ね橋の終着点に、大きな十字架が突き刺さった。十字架の先には月の形をした大きな飾りがつけられている。


「そこまでだアルタイル。私が来たからには、これ以上の悪事は許さん」


 その様子を目を細めて眺めるシュルバのスマホがなった。


「はい、シュルバです」


「そろそろ、そちらに7柱が来ている頃では?」


「あ〜はい。それっぽいのは居ますね。アイツなんですか?」


「彼は月の神・セレネですよ」


「月の神…………かぁ」


 シュルバは満面の笑みでいった。


「月が直接お仕置きしに来たって訳ね♪まぁせいぜい英雄が美しく散れるように悪役頑張っちゃおっかな♪」

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