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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
1章『集え彦星、女神の下に』
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1章6話『偽りの街角(後編)』

「いや〜、流石アルタイル。難解な事件を赤子の手をひねる様に解決していってくれるね」


 タクトはフライドポテトを片手にモニターを見ながら偉そうにシュルバの活躍を眺めていた。

 最低限の料理しか出来ないタクトだったが、ある人から教わりフライドポテトだけは神的な技術を持っていた。





 あれから1週間近く経った。


 タクトのプログラムの中のシュルバはジョブ"探偵"として剣と魔法の世界で助手のヴァイと共に仕事を続け、次々と難事件を解き明かし続けている。

 そのお陰でタクトの定めたボーダーラインは難なく突破してきている。


 それどころか……………


「いくらギルドから許可が降りてるからって犯人をあんなにも残酷に殺すもんかね…………」


 横から見ていたヒロキがシュルバの成すことに引いている様な声でタクトに語りかける。


「まぁ肉体的にも精神的にも強くはなってるから結果的には問題ないだろ」


 何気ない顔でそんな事を言ってしまうタクトに対してもヒロキは引いている。

 絶対サイコパスだろコイツと心の中で全力で思っていた。

 勇者を圧死させた事のある自分のことは棚に上げて。


「さて、そろそろこっちに来ても大丈夫そうかな………」


 モニターに映るのは、犯人となった助手の肉を喰らうシュルバだった。

 それを見てタクトは満を持して動き出した。


 タクトはニタァと笑ってパソコンを動かし出した。

 目にも止まらぬ速さでキーボードを叩くタクトの姿はもはや神業だった。

 タクトは終始ニヤニヤとしながら部屋を後にした。


 その圧倒的な気迫と負のエネルギーを放つ後ろ姿を見て恐怖しない者は恐らく存在しないだろう。





「よし、準備OK」


 タクトはシュルバの時間軸に作り出した小さな部屋にいた。

 その部屋はタクトがプログラムを管理するときにエラーが発生しないかを確かめる目的で作った、いわゆる"デバッグルーム"だ。


 タクトは先端から電撃が放たれる杖と緑色の鎧を身に纏い、エメラルド色に輝く部屋の中で白い手袋をつけた右手を空中を撫でるかの様にスッと右に動かし出した。

 そこに現れたタッチパネルの『OK』の文字をタップすると、すぐ下に『Now loading…』と表示された。


 しばらくしてタクトはシュルバ達の世界へと辿り着いた。

 つま先は電波塔の頂上についており、その位置からならいくつか先の街まで見渡せる様な状態だった。


 タクトはこの世界には割りに合っていない程の大きさだった。

 それもそのはず。タクトはこの世界にレイドボスとして出現しているのだから。


 電波皇タクト。

 その名前は彼を知っている人ならば誰でも分かるような単純明快な名前だった。


 タクトは何日かそこにとどまっていた。

 とは言ってもこちらの世界は普段の時間軸より何倍も時の流れが早いのでタクトにとっては2時間そこにいただけにしか感じなかった。

 気になるものといえば本物のレイドボスだと勘違いして攻撃してくる勇者達だけだった。


 この世界の生命体はシュルバ以外自分がプログラムしたはずなのにとタクトは首を傾げる。


 ある程度偵察が済んだ辺りで遂に、タクトは作戦を実行した。

 先程と同じように右手を右にフリックするとこれまた先程と同じように『OK』の文字が現れた。


 タクトがタッチパネルに人差し指をつけた次の瞬間、宝箱の様な見た目をした星柄の箱が空に一斉に現れた。

 名付けるとしたら「星の箱」だろうか。

 星の箱は町ゆく人にゆっくりと降り注いだ。


 その箱を手にした人はとても楽しそうな顔に包まれていた。

 しかし、開いてしまったが最後その人は辺りの地形ごと爆破に巻き込まれて砕けちってしまった。


 タクトの作戦では、この爆発をシュルバにも喰らわせてシュルバを殺すつもりだった。

 その為、この「星の箱」はたとえ箱が爆発しているのを目撃しても、本能的に箱を開けようとしてしまうという機能を完備している。

 タクト自身、この箱はかなり自信作である。


 しかし、事件はタクトでも予想できなかった方向へと進んでいく。


 もちろん、星の箱はシュルバにも配られた。

 シュルバも他の人同様星の箱の蓋に手を掛けた。

 しかし、シュルバは瞳の奥にぐるぐると渦巻きを作り箱を開けるのを辞めてしまった。


 上空から見ていたタクトもこれには驚いた。

 その後、諦めずにいくつか降らせても全て無視されてしまった。

 シュルバを殺すのがかなり難しくなった。


 そしてタクトは、自分の生み出した世界で育ったシュルバに敗北することになる。


 箱の爆発によって出来た道路の凹みを開発者としてのプライドに従い直していたときだった。

 シュルバはさっきまで凹んでいた道路が綺麗な平らに戻っているのを見て、あることを考えた。


「もしかして…………この爆破事件には黒幕がいる?」


 黒幕。

 懐かしい響きだ。


 タクトにとって黒幕という言葉は、少し昔から聞きなれている。

 無論、自分もその黒幕としてある少女に殺害されている訳だが。


 そういえばあいつ、この世界に侵入してたらしいんだが…………。

 まさか、あいつもペルセウスだったとはな。


 タクトは頭の中だけで独り言を呟き、現実世界に戻ってきた。


 そして遂に、その瞬間は訪れた。


「この一連の爆破事件の犯人は……………」


 シュルバは電波塔の頂上にいるレイドボスに向かって叫んだ。


「電波皇タクト………………!」

 

 タクト敗北の瞬間だった。

 タクトはとても驚いた。

 それも敗北の相手はペルセウスなどではなく自分が今まで育ててきた女子高生なのだから尚更だ。


 しかし、そこはタクトは大人しくシュルバの勝利を心から祝福した。

 敗北を認めたタクトはシュルバをプログラム的に殺害し、同時に自らを殺した上でプログラムにロックを掛けた。



 一足先に転生したタクトに続いてシュルバが転生機の中に現れた。


 ヒロキ同様、あらかたのこちら側の目的を説明した。

 しかし、タクトにはいまいちシュルバを仲間に加える自信が無かった。


 シュルバには、守るべきベガがいないからだ。

 もしかしたら仲間に出来ないかもしれないと過度な期待はしない事にしていた。


 そんな心配は必要なかった。

 シュルバはすんなりとタクト達の計画に参加してくれた。

 理由はわからない。

 が、何か深い訳がありそうな雰囲気を醸し出していたので深く考えないことにした。


 さて、シュルバは成長こそしたもののまだ少し足りない。

 一度死んで転生し、強くなってもらおう。


 タクトがそう説明した後、シュルバはタクト達3人を転生機の前に移動させ、自分一人だけ船のテラスへと向かった。







 テラスにいるシュルバは柵の外側にいた。

 シュルバはそこで、バックの外から取り出した星の箱を開き海に飛び込んだ。


 段々と近づいてくる海面。

 それに差し掛かる前に抱えた箱から熱いものを感じ、そのままシュルバの意識はプツリと途切れた。


 シュルバが目を覚ましてまず目に入ってきたのは

 満足げな表情を浮かべるタクトだった。

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