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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
4章『崩れゆく柱』
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4章5話『天駆ける憎しみ海底に堕ち』

「へぇ………これが7柱の神様か……………」


 シュルバは口元では不敵な笑みを浮かべながらも、目は見開き冷汗をかき手はブルブルと小刻みに震えていた。

 言葉に表せない圧倒的な威圧感。アルタイルは早くも気圧されていた。


「実際に会うのは、クロノス様を除くと初めてね」


 シュルバの何気ないこの一言に、夜の神・ニュクスは意外な反応を見せた。


「おい…………貴様今『クロノス』と言ったか?」


「………?はい、言いましたけど」


 ニュクスはギシシッと歯ぎしりをする。


「貴様の裏には、クロノスがいるのか………?」


「ふふっ♪どうでしょうね」


「おのれクロノス……………!」


 シュルバはハァとため息をつき、呆れたような目つきでニュクスを見る。

 その様子を見ていたヒロキは、シュルバにこう言った。


「で、どうするんだ?」


 シュルバはほぼ無表情でニュクスを見ながら答えた。


「そうね…………はっきり言って」


 今度は少々苛立っているような薄い目でニュクスを見る。


「邪魔ね」


 シュルバはナイフを手に持ち、ニュクスへ向けた。


「さぁ、絶望を始めよう」


その発言はシュルバからの『作戦開始』を意味し、同時に『対称を殺せ』。そうアルタイルに宣告する。

 それを読み取った6人は一斉に剣を抜いた。


「さすがはクロノスの下僕、考えることは下衆そのものだな」


「クロノス様の下僕………うーん、ちょっと違うかな」


 一番最初に動いたのはアリスだった。

 アリスの放った一閃の矢はニュクスの左肩に命中する。ニュクスは「グッ」と声を出しながらも、その攻撃が効いているようには見えなかった。


「ふぅん………この程度なんともないってことね」


「神を傷つけようだなんて甘い考えを持たれては私以外の神に合わせる顔が無いからな」


「なるほどねぇ…………」


 シュルバは顎に手を当てて興味深そうにニュクスを見る。

 そしてニヤリと笑い、言った。


「まぁ想定内ね」


 シュルバはスパパパパと両手に大量の投げナイフを持つ。さながら扇のようなその刃は一本たりとも余すことなくニュクスの身体を傷つけた。


「なんのマネかは知らないが…………私とて7柱。舐めてもらっては困る」


 ニュクスはそのナイフを一本一本丁寧に身体から抜き取り、手に持った。


「私に武器を与えたこと、後悔するがいい」


 ニュクスは一瞬姿勢を低くし、ナイフを勢い良く投げ返す。光の如き速さで飛んでくるナイフはまっすぐとシュルバの方に向かっていた。


「え……………」


 シュルバは絶望しきった顔でまじまじとそのナイフを見つめる。


「フン、呆気ないものだ」


 そんなシュルバを見ながら、ニュクスは微笑する。彼女の表情が変わったのはその時だ。


 シュルバはニタァ〜と笑った。その笑いは強がりなんかじゃない。心の底から、ニュクスのあまりの愚かさを嘲笑しているのだ。


「完ッ全に計算通り♪」


 シュルバはそれぞれ軌道の違う合計8本のナイフを、身体をヒラヒラと泳がせ全て回避し、空中で縦に一回転する。しかしそれだけでは、ただニュクスの攻撃を避けただけに見えるかも知れない。何が言いたいかというと、シュルバの計算通りという宣言の真髄は、シュルバに刺さらなかったナイフの行き着く先にある。


「ぐはっ……………」


 ナイフは8本中8本、ヒロキに命中した。

 全身を寸刻みにされるようなこの痛みは彼にしか分からない。体中を血まみれにされるようなこの快感は彼にしか理解できない。

 そう、ヒロキは全身から大量に出血するほどの傷を負っているにも関わらず、何故だが笑みを浮かべていた。


「ははっ、久しぶりだなこの感覚…………勇者共を皆殺しにしたあの日以来か……………」


 ヒロキの意識は、そこでプツンと切れた。













「うわ〜…………これは想定外」


 力無きヒロキの抜け殻はゆっくりとその上半身を立てた。抜け殻の背中にはヌルヌルと血液が這いずり、集まっていく。

 7柱ですら目を疑う異様な光景。いつも見ていたはずなのに、形が変わるだけでここまで恐怖を覚えるのか、シュルバはそう思いつつも、内心非常にワクワクしていた。

 一体これから何が起きるのか、そしてそれによってニュクスはどうなってしまうのか、経験したことの無い未知を求めてシュルバは心を躍らせた。


「……………ぅ………………ぁあ………」


 光が完全に消え失せた目を持つ彼の背中には異様なまでの禍々しさを放つ紅く黒い翼が生えていた。ろうで造られたイカロスの翼を彷彿とさせるが、そんな生易しく美しいものではない。

 イカロスの翼が夢や希望を持って造られたとしたら、ヒロキの翼は現実に絶望したような不穏な空気を放っている。


 次第に血液はヒロキの全身を包み始めた。指先には鋭利な爪、体は鎧に近い形の血の塊で護られ、顔はあたかも仮面を被ったように完全に覆われた。

 魔物、そんな言葉がよく似合う。ゴブリンという無力で弱い小さな魔物は、妬みや憎しみを具現化した崩壊の魔物と化して天へと登りつめた。


「ルカちゃん、ちょっといい?」


 シュルバはルカに耳打ちをした。

 ルカは覚悟を決めて頷き、シュルバはそんなルカの頭を撫でた。













 ヒロキの精神は完全に刀に呑み込まれていた。

 同田貫・彼岸(リリー)。もとはなんてこと無い1本の刀。それはいつしかヒロキの復讐心の根源になり、ヒロキの愛すべき人の象徴となった。

 ヒロキはそこに強い想いを注いだ。自分のすべてをその刀に捧げてきた。それ故に、その刀は妖刀と化しヒロキはそれに喰われてしまった。

 彼は今、血の海の深き底についている。周りからの一切の音を遮断し、光を全く通さない。彼は深海の底で、流れに身を任せて沈んでいた。


 そこに一筋の灯火が現れるまでは。


「ヒロキ、聞こえる?」


 聞き覚えのある声。聞いただけで恐怖を覚えるような、それでいて不思議と安心するような。ヒロキの耳に届いたのはそんな声だった。


 どうやら俺はこの声に答えないといけないみたいだ。そう決意を胸にして、ヒロキは赤く染まった海面に向かって泳ぎ始めた。

 いつの間にか、こんな深くに来てしまっていたのか。ヒロキはそう感じながら、上へ上へと泳ぎ続けた。


 段々と水面が近づいてくる。ヒロキは一層決意を固め、ついに水面から顔を出し藻掻くように声を出すことができた。












「シュ………………ル………バ」


 魔物から放たれたその言葉は、彼女に届いた。


「ふぅ…………反応が遅いから手遅れかと思ったよ」


 シュルバは胸に手を当てホッと一息つく。そしてもう一度、魔物に声を掛けた。


「ヒロキ、よく聞いて」


 シュルバは魔物に要件を伝える。聞こえてるのか聞こえてないのかも分からないまま、自分の声を一方的に投げつける。


「これが聞こえているのなら、すぐに実行して」


 魔物は少し間を開けて首を縦に振り、ゆっくりと地上へ降りてきた。

 そして地上にいたルカと手を合わせ、同時に叫ぶ。


矛盾(パラドックス)断罪(conviction)』」


 ルカと手を合わせている左手、その反対の右手にまたもや血液が集まる。

 ドロドロ。グチャグチャ。

 グロテスクな音を立てながらゆっくりと形成されていくその大剣は『断罪(conviction)』の名に相応しいどす黒く禍々しい姿をしていた。

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