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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
4章『崩れゆく柱』
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4章4話『もう一人の指揮官』

 フワッと淡い光が首元を照らす。サファイアの蒼い光が同じく蒼いクロノスの髪と交わる。

 そしてクロノスが手を離した瞬間、彼女の中に言葉に表せない程の解放感が駆け巡る。彼女は安心したように微笑み、目の前のシュルバに言った。


「≪受命の制裁≫は解けました。これで私は本来の力を出すことができます」


 シュルバはそれを聞くと、クロノスの方に回りアルタイル達に告げた。


「と言う訳で、これからいよいよ世界の鍵を壊す戦いに赴こうと思う。みんな、準備はいい?」


 アルタイルは覚悟と自信に満ち溢れた目でシュルバに頷く。シュルバもそれを見て頷き返し、PCを開いた。


 今回潜るのは『ワーテルローの戦い』の時間軸。皇帝ナポレオンが後に『百日天下』と呼ばれる王政を終わりへと導いた戦争だ。対峙したのは、イギリス・オランダを中心とした連合国・プロイセン軍とナポレオン率いるフランス軍である。

 結果は言うまでもなくフランス軍の惨敗。肉体的衰えもあったのかナポレオンは軍に的確な指示を出せず、ナポレオン最後の戦いとなってしまった。


「で、このワーテルローの戦いなんだけど…………ぶっちゃけた話、あんまり時間をかけられないのよ」


 シュルバは口を『イ』の形にして顔を引きつらせ、斜め下を見ながら後頭部を掻く。


「どういうことだ?」


 アルトは不思議そうに聞く。


「私達が今からやろうとしているのは、ほぼ直接的に世界を崩壊させる行為。でも、普通の人なら私達の行動が世界を崩壊させる行為だなんて気づかない。間違いなくね」


「なるほど………そういうことですか」


 クロノスは何かに気づいたようだ。シュルバはフフッと笑って返して話を続ける。


「じゃあ私達のその行動に気づくのは誰か?そしてそれに気づいた誰かは私達を野放しにしておくだろうか?それが、今回の一番大きな問題なの」


「そうか…………俺達が世界を壊そうとしていることに気づけて、なおかつ俺達の邪魔をしてきそうな輩………………」


 アルトの頭に浮かんできたのは、『神』の一文字だった。


「そう、『神』。それも『7柱』の誰かが直接出てくるでしょうね。私達はそれだけの事をしようとしているのだから」


 一同は黙り込み、重い空気が部屋中に満ちる。


「で、どうするのシュルバっち?」


「もちろん、対策は考えてあるわ。とは言っても難しい作戦とかじゃなくて速攻で終わる、ゴリ押しに近い感じのものだけどね」


 シュルバは自信満々に手を広げ胸に当てる。


「私達が世界を壊そうと動き出した瞬間、7柱は私達に何らかの影響を与えてくると思う。逆に言えば、7()()()()()()()()()()()()()()何も問題は無い訳」


「だからこそ、いつも以上に速攻で作戦を完了させなければならないという訳か」


「そういう事」


「で、その作戦っていうのは?」


 ヒロキが声を上げると同時にシュルバはポケットからある一枚の紙を取り出した。そしてルカとアリスを手招きし、それを渡す。


「これって…………」


「うん♪こないだヒポカローリで見たレイナとアルトのタイムパラドックス。まぁコンビ技程度に捉えてくれればそれでいいよ」


「ルカたちはこれをつかってなにをすればいーの?」


「フフッ♪それはね………」


 シュルバは今自分が考えている全てをアルタイル達に話した。


「おいおい、マジかよ………………」


「相変わらず………………残酷な事をするものだ………………」


「いや〜シュルバっち……………そこまでする?」


「だってこれが一番手っ取り早いんだもん、しょーがないっしょ♪てことでルカちゃん、よろしく頼むよ♪」


 シュルバはしゃがんでルカに目線を合わせる。

 ルカは残虐極まりない事を言っているシュルバに少し怖じ気付きつつも、せっかくシュルバが自分を頼ってくれたのだから、と気合を入れた。






「では、門を開きます」


 クロノスは両手を前へ突き出し、手のひらに力をこめる。ネックレスの蒼い光が手の先に集まり始め、次第に大きくなっていく。

 そしてある程度大きくなった辺りで、クロノスはその光の珠を包むように両手を離し始めた。するとその蒼い光は段々と黒く濁っていき、中心に向かって渦を巻いていた。

 ブラックホール、あれを思い浮かべてくれれば異存ない。


「では号令をお願いします…………と言いたいところですが、そういえば2代目のリーダーをまだ決めていませんでしたね」


「そういえばそうだったな…………まぁ実質決まったようなもんか」


 アルトは辺りを見渡す。どうやら他のアルタイルも彼女に任せる、ということでいいらしい。そしてその彼女は自信に満ち溢れた笑みを浮かべていた。


「確かに、みんなから見れば私はタクトに嵌められた、タクトが死んだのは私のせいじゃない。って思うかも知れない。でも私はそうは思わない。タクトは私の手の届くすぐそこにいた。目の前にいたタクトを私は助けられなかった。だから、タクトへのせめてもの罪滅ぼしとして、タクトの意思は私が継ぐ。こればっかりは譲らない、譲れないから」


「何かあったら、俺達に任せろよ。お前ができない事は俺達が成し遂げる。その代わり俺達ができない事はお前がやってくれよ、シュルバ」


 シュルバは優しく微笑んだ。


「じゃあ……行こうか!みんな!ブラックホールに飛び込めー!」


 シュルバのその威勢のいい掛け声と共に、アルタイル達は一斉にブラックホールに飛び込んでいった。





 ブラックホールの先には、命懸けで他者を殺し合っている両軍の姿があった。そしてそれと同時に、作戦が始まった。

 まず最初に行動したのはアリスとルカ。この2人は両手を合わせ、目を閉じて強く祈り、叫んだ


「「矛盾(パラドックス)結界(barrier)』」」


 その声と共に、アリスとルカは周辺にいたアルタイル達を巻き添えにしながら、白い光に包まれた。

 シュルバは絶対に壊れることのないその光をハンマーで殴りつけ、安易ながらもその耐久性を確認した。


「クロノス様、いいよ♪」


 その電話を切った数十秒後、辺りに耳が張り裂けそうになるくらいの爆音と爆風が流れた。

 シュルバが考えた作戦。

 それは、『戦争の結果を変えてナポレオンを勝利させる』事ではなく『戦争そのものを核爆弾によって無かったことにする』事である。










「貴様ら…………一体何を!?いや、そもそも何故ここにいる!?」


 短い黒髪の中から目付きの悪い顔が見えている彼女は額に血管を浮かべて叫ぶ。見覚えのない顔だ。シュルバにも、それが誰だか分からなかった。

 ただ一人、それが誰だか分かる者がいた。


「もしもし、クロノスです」


「クロノス様?どうしたんですか?」


「今そちらに、目付きの悪い黒髪の女性が現れませんでした?」


「現れませんでしたっていうか、今まさに目の前にいます」


「それは……………少し厄介な事になりましたね…………………」


「この人、一体誰なんです?」


 クロノスは焦りつつも冷静な口調で言った。


「7柱の1人、夜の神『ニュクス』ですよ」

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