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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
4章『崩れゆく柱』
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4章1話『クロノス』

 午前6時30分。カーテンの隙間から流れ込む朝焼けの光を浴びて、シュルバは目を覚ました。

 両手を上に伸ばし背伸びをして、着替えを済ませ、すぐにカフェスペースへと向かった。


「おはよー」


 シュルバはカフェスペースの扉を開き、中にいたヒロキと朝の挨拶を交わす。


「おぉ、おはよ…………ってどうしたんだ髪」


「え?寝癖立ってる?」


「違う、そんな小さな事じゃない」


 ヒロキがそう言った直後に、アリスがカフェスペースに入ってきた。アリスも同様に、シュルバに「おはよう」と軽く声を掛ける。そして両手を合わせ、声を高くして言った。


「おぉー!どしたのシュルバっち、イメチェン?」


「うん、まぁちょっとね」


 2人がシュルバを見て驚いている理由、おそらく以前からシュルバを知っている人が見れば一瞬で気づく事だ。

 その証拠として、次いで扉を開いたアルトもその光景に驚愕していた。


「おはよう……………え?シュルバ髪染めたのか?」


「あ、うん。染めた」


「綺麗な金髪だったのに良かったのか?そんな真っ黒にして」


「えぇ。後悔はしてないわ」


 アルトの言う通り、シュルバは昨日まで外国人のように綺麗な金髪だったのだ。それが次の日の朝起きてみれば、光を反射して輝く金色どころか光を吸収してしまう黒色になっていたとなれば、驚かない事はまずないだろう。


「にしてもなんで黒に?」


 ヒロキはカウンターに肘をつき、足を組みながらシュルバに問う。それに対しシュルバはどこか寂しげな笑顔を浮かべながら、こう言った。


「黒にした理由は……………まぁ、大半はこれだよ」


 そう言って左腕を上に向けるシュルバ。その左腕は、もとはシュルバのものでは無かった。


「タクトを殺したのは私。だから、タクトに対する罪悪感を忘れないようにするためこの左腕以外にもう1つタクトを思い出せる要素が欲しかった。それがこの髪ってわけね」


 シュルバは左のツインテールを両手で撫でる。その髪は1点の白をも許さない完全なる黒だった。


「タクトの本名は『黒』田 拓人だったでしょ?だから私も、髪を黒く染めたってこと」


 他にも単純に黒色が好きっていう理由もあるんだけどね、とシュルバは続ける。一般的に考えればかなりぶっ飛んだ発想だが、その場にいた全員、誰一人としてその考えを笑ったり否定するものはいなかった。

 それほどまでに、タクトの死は衝撃的で生々しかったのだから。


「なんか…………俺が口出せるような事じゃないかも知れないけど」


 アルトが後頭部を掻きながら言った。


「頑張れよ」


「もちろん」


 シュルバはしっかりと、首を縦に動かした。












「さて、次の目標なんだけど…………」


 久しぶりの作戦会議。最高管理室にアテナを含めた7人が揃っていた。今回はルカもちゃんと部屋から出てきている。当初に比べればルカもかなり成長したものだ。


「実は………今までと比にならないくらい大変な作業なのよね」


 アリスが手を上げた。


「なんで?護り手は全員殺したんだから後は世界のプログラムに侵入して世界を壊すだけだよね?」


「そうなんだけどね…………」


 シュルバは後ろからノートパソコンを取り出し、キーボードを叩く。そして1分もしない内にその手を止め、画面を全員に見せた。


「これ、今私がEnterを叩けば世界は瞬時に崩壊する」


 シュルバはすぐにそのEnterキーを押してみせた。


「こう、なっちゃうんだよね」


 ノートパソコンにはエラーメッセージが表示されており、制御不能一歩前まで来ている。

 シュルバはノートパソコンを閉じてすぐ後ろの机の上に置く。


「見ての通り、世界を壊そうとするとエラーになっちゃうのよ。どうやら世界のプログラムには壊す順番みたいなものがあるみたいなの。具体的に言うと、この世界で起きたいくつかの大きな事件や戦争にプログラムを護る鍵みたいなシステムがついているの。それを全部外してから初めて世界を壊せるみたい。だから次の作戦は、そこに私達が何かしら干渉して時間軸そのものに直接エラーを起こす事」


 シュルバは一通り説明を終えると、目の色を変えて言った。


「でもその前に、はっきりさせて置かなくちゃいけない事がある」


 ざわつくアルタイル達を眼中にも入れず、まっすぐと人差し指を伸ばし、声を出した。


「貴女、名前を言ってみてください」


 シュルバにそう命令されたのは時空神アテナだった。


「世界のプログラムを確認している時見つけちゃったのよね、貴女は私達の知っている存在では無いということを」


「……………まさか、バレてしまうとは思いませんでした」


 アテナは目を閉じてふぅと長めのため息をつき、ゆっくりと口を開いた。


「私は天空神アテナでも、時空神アテナでもありません。私の本当の名前は、()()()()()()()です」


「やっぱりそうだったのね、もっと早く気づくべきだったわ」


 アテナ改めクロノスとシュルバの会話を聞いていたアルタイル達は混乱する。

 そんな中、声を出したのはアルトだった。


「じゃあクロノス様は、なぜ自分をアテナと名乗っていたんだ?」


「そうですね、それもお話しましょう」


 アテナは覚悟を決めたように息を大きく吸った。


「私が生まれた時、それは7柱が形成されて間もない頃ですね。虚空の中からぽつんと生まれた私クロノスは時空神として時空間に歪みが生じていないかのパトロールや、歪みができてしまった場合にすぐにその歪みを消す仕事を受け持っていました」


「でもいつからでしょうか。いつの間にか私は7柱に強い憧れ、むしろ妬みとも呼べる感情を抱いていました。それ故に、私はしっかりと使命を全うしていない7柱が憎くて仕方がありませんでした」


「そしてあの日、私はついにその7柱を裁きにかけ≪受命の制裁≫を下し、その7柱を殺害しました。あの時の感情を説明しろと言われても、適切な表現が見つかりませんね」


「その殺された7柱が本物のアテナ様って訳ね」


「はい、その通りです。私はアテナを殺した後、すぐに証拠隠滅に取り掛かろうとしましたが………………私は気づいたのです。このまま私がアテナを名乗れば、私は7柱の1人になれるのでは、と。その見込み通り、7柱は私をアテナだと信じて疑わず、私はアテナを名乗り続けてきました。ざっと200年ほどは」


「バレたのね、他の7柱に」


「はい…………すぐに私は神の領域を追いやられ、同じく≪受命の制裁≫を下されました。時には情けないことに、自分が7柱になれないこんな世界、壊してしまおうと考えました」


「そして自分の残された仕事を処理するために呼んだタクトが、その願いを叶えてくれそうになったと」


「話が早くて助かります。まさかタクトさんがあのようなことを言い出すとは思いませんでしたから、あの時はとても嬉しかったです。そんな感じで私は皆さんの目を欺きながらアテナとして活躍していた訳です」


「…………で、世界を壊す方法、貴女なら分かりますよね?」


「えぇ。でもそのためにはまず、ある場所へ行かなくてはなりません」


 クロノスが答えたのは、シュルバにも予想できなかった場所だ。


「ヒポカローリの宮殿です」


「……………!ヒポカローリ…………………」


 その言葉に反応したのは、レイナだった。


「レイナちゃん?どうしたの?」


「ヒポカローリ…………私のいた国だ………………」

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