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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
3章『二つの黒は一つに成りて』
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3章10話『ビターでスイートな2.14』

今回はシリアスな内容から離れて、アルタイル達の日常にスポットライトを当ててみたいと思います。

「ふぁ〜…………眠い……………」


 タクトは目の下に真っ黒なくまを作ってPCの前に座っていた。手元のマグカップから香ばしいコーヒーの香りが漂ってくる。それを口元へ運び、タクトはひたすらにキーボードを打った。

 深夜2時、他のメンバーは既に眠っている。最高管理室の中心にアテナとタクトだけがポツンと取り残されたように暗闇の中に存在していた。


「アテナ様、ここのパスワード何?」


「見せてください……………あぁ、『耐ストレス力』の護り手ですか。パスワードは確か………0214のはずです」


「了解。0214…………っと」


 タクトはカタカタとキーボードを叩いてEnterキーを弾くように押す。画面の中心に『Now Loading…』の文字。黄緑色が、その下の細長い長方形を左から右へ染めていった。


「そういえば今日は…………2月14日ですね」


「…………そっか、もうそんな時期か」


 2月14日。

 一部の男性を天国へいざない、その他大勢の男性を地獄へと叩き落とす、ある意味『審判の日』だ。


「バレンタインかぁ………」


 タクトは手を頭に持っていき天井を眺めていた。

 とは言ったものの、タクト自身バレンタインに特に深い思い入れは無かった。今の今までバレンタインの存在を忘れていたのがその証拠だ。


「さて、後はこの時間軸を転送装置と結びつけて…………」


 タクトはロードが終了した事を知らせる画面を見てまたキーボードを叩き始める。カタカタなんて鈍い音ではなく、タタタタタと素早い音で文字列を入力していく。


「これをこっちに貼っ付けて、29695835……………………ん?」


 画面に映ったのは黄色の三角形と『Error』の文字だった。


「あれ……………おかしいな」


 タクトは改めてキーボードを叩き直す。そして数分叩いた後、アルタイル達のグループチャットにこう送信した。


『【悲報】転送装置、壊れる』


「「「「「「嘘やん」」」」」」


 次の日の朝、そのチャットを見たアルタイル達は総じてそういった。






「よしっ!全員集まったね!」


 今日から3日間、休日となった。護り手との連戦で体も限界を迎えそうだったアルタイル達にはいい機会かも知れない。そう判断したタクトとアテナの出した答えだ。

 にも関わらず、アリスは朝早くにアルタイルの女子メンバーを食堂に呼び出した。


「なにさこんな朝早く…………」


「何か…………あったのか…………」


「まだねむいよぉ〜………」


 呼び出したアリスはテンション高めだったが呼び出された方は果てしなく面倒くさそうにしていた。


「問題!今日は何月何日でしょー!」


「今日?…………は確か2月の14日だったな……………」


「そうだったわね、今日からバレンタインガチャ始まるから……………あっ」


「おっ?シュルバっちは気づいたかな?」


「えぇ。今日は2月14日、()()()()()()()()ね」


「そっ!そゆこと!てなわけで今日は…………」


「女子のみんなで男子に手作りチョコをあげようと思いまーすっ!」


 アリスの宣言に何故か拍手が起きる食堂内。アリスはまぁまぁと笑いながら手を上下させる。


「でもこの人数集めたってことは、全員でチョコケーキでも作るの?」


「ん〜?ほんとにそれでいいの〜?」


「な、なによ」


 シュルバはアリスに詰め寄られて後退りする。


「ほんとは1人で作って1人だけに渡したいんじゃないの〜?」


「えっ、ちょっ」


「ああいうタイプは普段は冷静沈着に見えるけど実は押しに弱かったりするからね〜。シュルバっちからチョコ貰ったら、きっと喜ぶだろうね〜」


「うぅ………………」


 どんどん詰め寄ってくるアリスに、シュルバは顔を真っ赤にして目を逸らした。残りの2人はシュルバが珍しくたじろいでいる様子を見てニヤニヤしている。


「でも私、料理とかあんま得意じゃないし………」


「それを言ったら……………私だって……………」


「その為にみんなを集めたんだよ、お互いが助け合って手作りでチョコ作って、日頃の感謝を伝えようって事!まぁ伝えるのは日頃の感謝だけじゃないけどね〜」


 アリスはシュルバの頬をツンツンと指でつつく。


「アリスちゃん!おおお怒るよ〜!」


 シュルバはまたもや顔を真っ赤にしてカミカミになりながらアリスに叫ぶ。


「え〜?じゃあやめる?」


「……………まぁ…………やめないけどさ」


「決まりだね!じゃあ、それぞれ渡したい1人を決めてチョコを作る事!困ったらすぐアリスに相談すること!アリス、お菓子作りは得意だからね!」


「わかったけど…………材料は?」


「その点なら私の出番ですね」


「うわっ!びっくりした!」


 シュルバの背後にいたのはアテナ。そしてそのアテナが指をパチンと鳴らすとテーブルの上に板チョコやカラースプレー、チョコペンやクッキーの生地が現れた。


「これは私からのバレンタインプレゼントです。皆さん、頑張って下さい」


「アテナ様ありがとっ、じゃあ始めよっか!」


 アリスはエプロンを4着、テーブルの上に置いた。


「やると決まったら…………やるしかないか……………」


「ルカもがんばる〜!」


「出来るか怖いけど………やってみるしかないよね♪」











「あ〜なかなか直んない…………」


 タクトは眠そうな目で廊下を歩く。道中、アルトとヒロキに出会った。アルトはタクトの目の下のくまを見て、衝撃を受けた。


「お前まさかとは思うが、今の今まで転送装置直してたとか言うなよな?」


「仕方ないじゃないか、あれ無いとやってけないんだから」


「折角の休みなのにお前という奴は…………」


「女子達に呼ばれてなかったら徹夜して直してたろ」


「そうかもな…………」


「とりあえず、食堂に行こうぜ」


「そうだね、腹も減ったし」


 タクト達3人は食堂の前に来た。中には女子達がいるはずなのに物音1つしない。不審に思いながらもタクトは扉をゆっくり開く。カカオの甘い香りと共に聞こえてきたのは、高さの違う3人の女性の交じりあった声だった。


「ハッピーバレンタイン!」


 女子達は一斉にクラッカーの紐を引いた。破裂音が食堂中に響き渡る。


「これは………」


「ほら、今日バレンタインでしょ?だから女子から男子にバレンタインプレゼントっわけ!びっくりした?」


 アリスは両手を後ろに持っていき満面の笑顔で男子に顔を近づける。タクトは突然の出来事に硬直しながらもこう答えた。


「びっくりした…………し、嬉しいよ」


 タクトの優しい笑顔、それは正真正銘タクトの心からの笑顔だった。


「フフフッ、じゃあ始めよっか!」


 アリスは他の女子達をチラリと見て、後ろに隠していたものを前に持ってヒロキの前に立った。


「はいこれ、チョコ!」


 アリスが手渡したのはハート型のラッピングが施されたチョコレート。オーソドックス且つ、至極の一品だ。


「え!?え!?あ、ありがとう!」


 ヒロキは顔を赤くしてチョコを受け取る。そしてアリスに急かされながらチョコを一口かじった。


「……………この味…………………一体どうやって……………」


 ヒロキは思わず涙をこぼした。ヒロキが口にしたチョコレートは、ヒロキの姉の味と全く一緒だったのだ。


「えへへっ、PCからヒロキの記憶のバックアップを覗いてシュルバっちにお姉さんの味のデータを分析してもらったの。それを再現したってわけ。完璧に再現できた訳じゃないけど、喜んでもらいたくてさ………どうかな?」


 アリスは少しおどけながらヒロキの顔を覗きこんだ。


「あぁ…………すっごく嬉しい……………ありがとう、アリス」


 ヒロキは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも笑っていた。


「えへへっ、成功したみたいで良かった」


 アリスは体をぴょんぴょんさせて喜んでいた。

 次に実行に移したのは意外な人物だ。


「………………………………」


 無言。完全なる無言。

 その状態でアルトに少し小さめのチョコが多く入った袋を手渡したのはレイナだった。


「レイナ…………これ、俺に?」


「………………………………」


 レイナは今にも爆発しそうなくらい真っ赤な顔でアルトと目を合わすことも出来ずにチョコを持った右手を伸ばしている。


「え…………?ああありがとう」


 アルトは恐る恐るチョコを受け取り、ひと粒口に運んだ。レイナのチョコはほろ苦いビターチョコレートでココアパウダーが風味を掻き立てている。アルトは思わず笑顔になった。


「苦い…………でもほんのり甘い。なんていうか、レイナみたいなチョコだな」


「アルト、その表現はどうなんだ?」


「うっせえ、これしか思い付かなかったんだ。まさかチョコのレビューすることになるとは思わかなったし」


 そんなアルトとタクトの会話の背後でレイナはしゃがんで手を覆いかぶせるようにリンゴのように赤くなったにやけ顔を隠すのに必死だった。


「じゃあ最後!」


 シュルバは小さく頷き、ひょいっとタクトの前に立った。


「はい、いつもお世話になってるお礼。それと………」


「………それと?」


「…………やっぱ何でもない。いつもお疲れ様♪」


 シュルバが手渡したのは色々な形をしたチョコレートがいくつか入った袋。タクトは早速そのうちの1つを食べてみた。チョコレートの甘い味の中にフルーティな酸っぱさや、コーヒーのような苦さが感じられる。味覚を最大限に働かせる味だった。


「すごい…………すごい美味しい!シュルバ、ありがとう!」


「フフッ♪あ、そうだ。その中に一個だけ毒入りチョコ混ざってるから気をつけてね」


「えっ」


 タクトは突然気を失った。


「ちょ……………ええええええ!?」


 アルタイル達は一斉にざわめき始めた。

 するとシュルバは笑いながら、


「アハハッ♪嘘だよ嘘♪あと16秒待ってごらん?」


 シュルバの言ったとおりぴったり16秒後にタクトは目を覚ました。それと同時にタクトの血流はみるみる良くなっていき、目の下のくまも無くなった。


「一個だけ栄養ドリンクの成分を弄った奴を混ぜたの。副作用で30秒間死んだように眠っちゃうけど、効果はすごいよ♪」


「ホントだ……………体が跳ねるように軽くなった感覚がある」


「も〜!びっくりさせないでよ!」


「アハハッ♪ゴメンゴメン」


 食堂はアルタイル達の笑い声で包まれた。


「ルカはねー!すごいの作ったのー!見てみてー!」


 アテナが運んできたのは、豪華な装飾の付いたチョコフォンデュの機械と色鮮やかにデコレーションされたチョコケーキだった。

 最近アルタイル達のアテナの使い方が荒くなっている点には触れないことにしよう。


「ルカからはこのチョコフォンデュ!スイッチさえはいってればずーっとチョコでてくるの!ルカがんばった!」


「何それ、普通にスゴイじゃん!」


「流石ルカだね」


「えへへ〜」


 タイミングを見計らってアリスが一歩前に出た。


「そしてこのチョコケーキは()()()()()()()()()()()。いつも隣にいてくれる仲間として、ずっと一緒にいてくれる家族として」


「「「「いつもありがとう、これからもよろしく」」」」


 女子達は声を揃えてそういった。


「ハハハッなんか完敗だな」


「いや、まだ負けちゃいないさ。3月14日、僕達はこのバレンタインを超えるようなホワイトデーを用意する。2人とも、それでいいよね?」


 ヒロキとアルトは少し笑って頷いた。


「じゃあ夕食にしようか」


「そうね、チョコフォンデュ楽しみ♪」


 その日の晩餐はいつにも増して賑やかだった。そしてその日は、タクトにとって1つ目のバレンタインの思い出として、胸に刻み込まれた。

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