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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
3章『二つの黒は一つに成りて』
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3章7話『足元にご注意(後編)』

 生暖かい血液が手の甲に触れた。それなのに彼らの体温は下がる一方であった。

 タクトの死。未来を読めるはずの彼がなぜ安置な罠などのために命を落とすことになったのか。そもそも彼の未来が読めるとはどの程度のものなのか。未来が読めていたとしたら、なぜ自分の死を回避しようと考えなかったのか。考えだしたらきりがない。

 だが、タクトの死という衝撃はそんな疑問をすべて打ち消していった。


「当然の報い……………そう思わんか?」


 護り手は大口を開けて爆笑している。

 それに対してアルタイル達は依然として無表情を貫く。


「安心しろ、すぐに奴らに会わせてやるよ」


 護り手はそういうと耳元で指をパチンと鳴らす。それに少し遅れて白いガスがあたりに充満した。ガスは仕組んでいるかのようにアルタイル目掛けて流されていき、仕組んでいるかのようにアルタイルを包み込んだ。

 問題はそのガスだ。護り手が使ってくる以上、一般的な毒ガスとはまた違うのだろう。そのせいか、少量吸っただけで頭痛と目眩が止まらない。目の前の風景がうねうねとねじ曲がり文字通り右も左も分からない。専門的な用語になるが、バーティゴーという表現が適切だろう。

 それだけなら、まだ良かったかも知れない。


「うぉぉおおお!」


 ヒロキは刀を縦に持ちがむしゃらに走っていった。そしてヒロキは刀を大きく振りかざす。

 アルトに向かって。


「なっ…………」


 アルトは突然の事態に困惑した。普段あまり戦闘を行わない仲間がいきなり刀を持って自分を殺そうとしてきたのだから。


「おいシュルバ!突然どうしたんだ!刀を納めろ!」


「えっ……………」


 そのアルトとヒロキのやり取りを傍から見ていたのは、他でもないシュルバだった。


「一体…………何が起きているの?」


 シュルバは状況が全く掴めていなかった。カオスとはまさにこの事だと改めて実感した。


「タクト…………タクトに電話しなきゃ!」


 シュルバはこの状況の判断をタクトに委ねる事にした。シュルバは大急ぎでスマホを取り出し電話帳アプリを開いた。た行一番上のタクトの番号。それに全てを託す事にした。


『留守番電話に接続します。ピーという発信音の…………』


 シュルバのスマホは無情にもそう告げた。


「一体………どうすれば……………」


 シュルバはあまりの絶望に手で顔を覆い隠して涙を流し始めた。どうすればいいのか分からない。分からない。分からない。分からない。

 そんな時、彼女が声をかけた。


「シュルバおねーちゃん。護り手はどこにいるか教えて…………?」


「え…………?」


 声をかけたのはルカだった。


「どうして、そんなことを…………?」


「あのしろいけむり、たぶんみんなに幻覚を見せるガスだと思うの。だとしたらその幻覚を突破できるのはシュルバおねーちゃんしかいないの」


「私がどうやって幻覚を…………あっ」


 シュルバはどうやらそのことに気がついたようだ。


「なんだ。簡単じゃん。さっきまで泣いてたのがバカらしくなっちゃった」


 シュルバは涙を拭いて、笑いだした。それと同時にさっきとは別のアタッシュケースを開いた。中に入っていたのは真っ黒なスナイパーライフルと弾薬だ。


「AIMにはそこそこの自信があるんだよね」


 シュルバは銃弾をセットし銃を顔の前に構えた。右の膝をつき左の膝を立てて、アルト達を見て笑う護り手の左手首に照準を合わせた。

 重いトリガーを人差し指で力強く押し込む。耳に響く爆破音と銃の先から飛んでくる反動に苦しめられながらも、銃弾は狙い通り護り手を撃ち抜いた。護り手からは一気に笑顔が消え左手を抑えもがき苦しんでいる。


「くそっ………………貴様!」


「何マジな顔してんのよっ♪もしかして起こってるぅ?」


 シュルバは満面の笑みで護り手を煽る。

 護り手は何とか反撃に出ようとするも、まだ麻痺毒が完全に消えておらず体が脳の司令を無視する。


「まだまだいくわよっ♪」


 そう言ってシュルバは右手、右足、左足と次々に護り手を撃ち抜いていく。ドキュンドキュンとシュルバの手元から爆破音が続き護り手の体から血も流れ出る。

 普段大人しいイメージの強いシュルバだが、実はこちらの性格が本性だ。殺人事件の犯人を慈悲も容赦もなく殺して回った探偵兼連続殺人犯。本当のシュルバとはそう言う人間なのだ。


「さて、私の仕事はこのくらいかな」


 護り手が完全に正気を失ったのを確認したシュルバは銃をアタッシュケースの中に戻した。蓋を占め、カチャという音と共に鍵が閉まると、護り手はシュルバを見て笑っていた。


「このタイミングを待っていた………!」


 護り手は左眼を赤く光らせた。シュルバはそれに気づき敗北を受け入れることにした。

 そう察した理由は、シュルバの足元も同じように赤く光り、足の方から熱く感じてきたからだ。


 シュルバは遠隔操作地雷に巻き込まれて死んだ。


「残りは貴様ら3人だ!」


 護り手は残ったアルタイル達を指差して叫んだ。


「ハハハ!貴様らは幻覚のせいで私がどこにいるかも分から………………………な……………………いんじゃないのか……………………………?」


 そうだ。3人のアルタイルは幻覚ガスの効果で味方を敵に、敵を味方に見るようになっているはずだ。それなのにアルタイル達は全員護り手を睨みつけている。


「これを見ろ」


 アルトは自分の腹の深い傷を見せた。

 アルタイル達はあろうことか、自分の腹を自分で刺すことで痛みでガスの洗脳を上回り理性を取り戻したという。

 こんな作戦、常人では思いつかないし、思いついても実行に移せない。それを実行に移せるのがアルタイルの強みだ。


 アルトは護り手の隙をついて一気に間合いを詰めてきた。唐突過ぎて反撃をすることも出来ない護り手の肩を一瞬触り、すれ違うように通り過ぎていった。


「おい、何の真似だ?」


「別に。ただ君の記憶の一部を貰っただけさ」


「そうか。まぁその記憶もすぐ意味のないゴミになるさ」


 その言葉と共に、アルトの肩の爆弾が起動した。


「いつの間に…………」


 肩を負傷したアルトは少し後ろに後退する。

 それを見た護り手は体を前に倒し、右足を踏み出した。


「バカめ!もう既に毒は切れたさ!」


 護り手はアルトに向かって走り出した。アルトにはその一瞬がまるでスローモーションのようにゆっくりに見えた。そして護り手の姿は突然地の底に消えた。


「恨むんだったら『記憶力』なんて能力になった自分を恨むんだな…………」


 護り手は自らの仕掛けた落とし穴に落ちてしまっていた。

 しかしアルトは信じられない一言を放った。


「ルカ、スコップ持ってきてくれ」


「え?護り手たすけるの?」


「あぁ」


 護り手には彼の行動が分からなかった。でも、情けをかけてくれるのなら自ら自分の身を斬るのも悪くない。そう思っていた。


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


「私の負けだ。自分で腹を刺す。ナイフを貸してくれ」


 アルトが本当に助けてくれると察した護り手は、アルトにそう申し出た。


「そうか……………ありがとう…………………」


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


「ん?おいアルタイル、なんでまだ掘ってるんだ?」


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


「おい、全然関係ない所掘ってるじゃないか」


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


「おい……………まさかとは思うが…………………そういうことなのか?」


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


「おい!待ってくれ!やめろ!やめろ!イヤだ!こんな形で死にたくない!」


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


 ザクッザクッ。


「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだァァァアアア!!!!」


 バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ。


「はぁ…………今更許してやる訳ないだろ………………」


 アルトは生き埋めになった護り手に向かってそう言った。

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