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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
1章『集え彦星、女神の下に』
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1章4話『彼岸花(後編)』

「うぅ………眩しいな」


 転生機の中のヒロキが目を覚まして言った第一声は勇者殺しのゴブリンとは思えない程情けないものだった。

 ヒロキはまだ目覚めたばかりの目で辺りを見渡す。


「なんだ………?あの世にしては随分と現実的な気がするが…………」


 ヒロキは今の状況を不思議に思いつつも、目を擦りながらのっそりと立ち上がる。


「あの世?残念だがそんな単純なものじゃ無い」


 転生機の後ろから姿を見せたタクトがヒロキを現実世界へ連れ戻す。


「ようこそ、勇者殺しのヒロキくん」


 青い光を浴びて影になりながらヒロキに話しかけるタクト。

 恐怖心を煽るような笑いを浮かべているタクトにも恐れ慄くことなくヒロキは絶対に聞かなければならない事を問う。


「お前も…………勇者なのか?」


 ヒロキにとってその発言は「貴様は自分の敵か?」とダイレクトに聞くことと同じ。

 それはヒロキが人間であるタクトを味方ではないと考えている事を意味する。


「あはは!違う違う。僕は君の仲間さ」


 それでもタクトはあくまで自分は敵ではないと押し切るつもりだ。実際、タクト自身はヒロキを殺害するつもりは一切ない。


 鋭い眼光でタクトを睨みつけるヒロキをタクトは笑いながらするりと受け流した。


「僕達は、君に協力をしてもらいたいんだ」


 タクトは開幕とほぼ同時に自分の目的を信用できるかどうかもわからないヒロキに語りかけた。

 少し微笑んだタクトを見て、ヒロキは警戒しながらもこう言った。


「協力………?」


「あ、大丈夫大丈夫。君に迷惑をかける様なことはしない。むしろ、君にも僕達の計画に参加する理由はあるんだ。」


 ここまで、全くタクトの話を聞いておらず、全て話し終わったら断ってやろうと心に決めていたヒロキだったが、次のタクトの一言にはヒロキがタクトの話を聞かなければならない要素が多く含まれていた。


「君のお姉さん、ユリカさんの為にもね」


 ヒロキの頭の中に稲妻が走った。

 小さな光はヒロキの脳内をぐるぐると回り、優しかった姉のいた幸せな毎日を思い出させた。


 そして、最後に光が辿り着いたのは

 ヒロキに手を伸ばして腹から下を真っ二つにされた姉の姿だった。


「あ…………あぁ…………」


 もはや言葉になるはずが無かった。

 圧倒的な黒い感情はは一瞬でヒロキを飲みこんだ。


 絶望。恐怖。怨念。憤怒。

 そんな現代に存在する負を表す言葉で収めることが出来るほど簡単なものでは無い。


 ヒロキの頭の中では、姉が目の前で殺された時の記憶が何度も何度もリピート再生されているようだった。


「ほんとに残酷な死に方だったよね………ユリカさんは」


 首元や頭を掻きむしり、生物とは思えないような声を上げているヒロキに、タクトは救済を行った。


「助けたいと、思わない?」


 その一言で、ヒロキの頭の中にもう一度電撃が走った。

 復讐心を超えた何かが胸の中から湧き上がってきた。


「僕達は識別番号29695834番のコードネームベガと言う人間を救うために世界の再構築を目的としているんだ」


「コードネームベガ?」


 聞きなれない言葉だ。


「そこは私が説明します」


 ヒロキの背後に一瞬で現れたアテナはヒロキに全てを説明した。


「でも、そのベガってのを助けるのに何で僕の姉ちゃんが出てくるんだ?」


 ヒロキの疑問にタクトはスピーディーに答える。


「簡単さ。君のお姉さんがベガだと考えれば自然な事だろう?」


 タクトはアルタイルだけでなく、ベガの居場所ですら突き止めていたのだ。

 その中に昔の協力者がいることに気が付かないまま。


「君のお姉さんへの思いは本物だ。それは君自身もわかっているはずだよ。でなければ姉の血がついた刀を持って勇者を次々と殺していく訳がない」


 タクトはヒロキの腰に刺さっている刀を指差して言った。


「でも、この血は知らない勇者の血で………」


 暗い顔をして今にも泣きそうになっているヒロキに、タクトは新たな復讐心を植え付けた。


「僕達の計画を邪魔するペルセウスって団体がいてだね………そいつらは君たちの世界を構築しているプログラムを改ざんしやがったんだ」


 その言葉を聞いて、ヒロキははっとした。


「どういうことか、もう言わなくてもわかるよな?」


 ヒロキは崩れ落ちた。


「姉ちゃん…………疑ってごめん…………ごめん…………」


 ヒロキは刀の先の血を撫でながら泣いていた。


 今まで嘘だと思っていたことは全て真実だった。

 この感覚がわかる人間はそう少なくないだろう。


 ただ今回はレベルが違う。

 例えるなら、「今まで自分の親だと思っていた女性が、実は自分の親ではないと知り衝動的にその女性を殺した。しかし次の日、その女性は自分の親だったと確信した」

 こんな感じだろうか。


 ヒロキは少し泣き止み始めたが、自分の力の無さに絶望してこう言った。


「僕は、貴方の計画に協力することはできない。姉ちゃんの事を疑って自殺までした弱い僕に姉ちゃんを助けるなんてことできない…………」


 涙を流しながら小さな声で言うヒロキに、タクトは希望の光を叩きつけた。


「確かに、君は弱い」


 そのタクトの言葉は的確でなんの間違いもない且つ、ヒロキの心をズタボロに切り刻む一言だった。


「でも、そんな弱い君をお姉さんは助けてくれている」


「え………?」


 ヒロキは理解できないかのように聞き返した。


「君の持つその刀は名刀"同田貫"。見た目の美しさを削ぎ落としただ単純に強さを求め続けた結果、史上唯一兜割りに成功した伝説の刀だ。しかし量産型だった為、その時代では誰でも持っていたほどだった」


「でも、この刀は君以外に使いこなせる者はいない。その証拠に………」


 タクトは刀の血の部分にほんの少しだけ触れた。

 それなのにタクトの左腕はグチャッと言う音と共に肩まで丸ごと消え飛んでしまった。

 ヒロキどころか、実行したタクトでさえその事態に驚いていた。


「この刀にはお姉さんの思いが宿っている。最後まで君を守ろうとした強い意志だ。どこにでもある同田貫は、強い思いをのせて何があろうと君を守る。君に自分を助けに来てもらう為に」


 ヒロキははっとした。

 さっきまで弱い自分に姉を助ける事は出来ないと姉に詫びていたが、今では姉の思いに応えられないと諦めてしまった自分がいた事を姉に詫びている。


 綺麗な紅色に染まった刀は月明かりを浴びて光り輝いていた。

 ヒロキはその刀を見てもう一度涙を流した。


「僕は…………いや、」


 次の一言は、姉の思いに応えたいと言うヒロキの強い決意を現した言葉だった。


「俺は姉ちゃんを助けにいく。貴方達と、そしてこの"同田貫・彼岸(リリー)"と共に」


 タクトは満足そうにヒロキの答えに頷いた。


 彼岸花。

 花言葉は『また会う日を楽しみに』

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