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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
3章『二つの黒は一つに成りて』
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3章3話『隠された光(後編)』

 戦闘が始まって10分経つ。にも関わらず、未だに護り手を覆い囲む煙幕は消える気配が無く、常に護り手の視界を妨げていた。

 このままではらちがあかない。なんとかして突破口を見出さないと。護り手は額を伝う汗の雫を手の甲で拭き取り、確認するかのように辺りを見回した。

 もちろん、煙幕のせいで何も見えない。いつもならこういう時に力を発揮する護り手特有の心眼も、今日に限って使えない。一体、アルタイルの連中は自分に何をしたのか。考えれば考えるほど、護り手の頭は締め付けられるように痛くなっていった。


 考えても仕方ない、まずは状況を把握しよう。

 そういった結論を見出した護り手は深く考えることを放棄し、打開策を探した。

 よく目を凝らし、よく耳を澄ませ、感覚を研ぎ澄ました先に、護り手は元凶となる闇を見つけた。


「よし、移動開始だ」


 右斜め後ろから聞こえてきたその声に応じるかの様にアルタイル達の気配は一斉に動き出す。

 どうやらアルタイル達は、今の声の主を中心に動いているようだ。となると、少し攻略が楽になってくる。


 パイロットのいない飛行機は動かない。

 プレイヤーのいないゲームは存在しない。

 つまり護り手は、この作戦の司令塔であるタクトを殺してアルタイルの団結力を下げよう。そう思いついた護り手は自分で自分を褒め称えた。


 とは言ったものの、今の所はどの影が司令塔かは分からない。となると、まだ下手に動かずにおとなしく時を待っていた方が良いのだろうか。それともこちらから仕掛けて相手を動揺させた方が良いのだろうか。そんな事を考えていた矢先の出来事だった。


 護り手の背後で何かがうごめくのがわかった。くすぐったくすら感じるその生暖かい気配はだんだんと護り手に近付いていく。

 護り手はすかさず剣を振る。まだ距離が遠かった為当たりこそしなかったものの、気配はすぐに消え、声が聞こえてきた。


「よし、少しは揺さぶれたかな?」


 聞き覚えのある声だ。

 護り手は先程の司令塔の声を記憶の奥底から引きずり出す。その声は、まさに今聞いた声と完全に一致していた。

 間違い無い。今の声の主が司令塔だ。


 そうと気づくと、護り手が司令塔…………もといタクトの元に走り出すまでさほど時間は要さなかった。

 逃げられる前に殺さないと。そうしないと自分に勝ち目は無い。護り手は全力で走った。


 もちろん、アルタイルが何も仕掛けてないはずが無い。


 護り手は無我夢中で走る。そしてタクトの目の前に辿りつき、剣を振り上げた………所までは良かった。

 次の瞬間護り手の左足は護り手が意図する以上に前進し、その足に引っ張られて大きく転倒してしまった。その瞬間、あらゆる物理法則の計算式にマッハ2が当てはめられ、その答えは護り手の体に帰ってきた。

 幸い、岩に体をぶつける事が出来た為大きく外へ放り出させる事は無かったが、それでも足への物理的ダメージと脳への精神的ダメージは計り知れない。護り手は自分に起きた状況が理解できていなかった。


 すると、今度は司令塔とはまた別の男性の声が護り手の耳に届いた。


「うわっ…………こんな上手くいくもんなんだな」


 自分が冷たい地面に水を撒いた張本人だというのに、あまりに事が上手く行き過ぎてドン引きするアルト。言うならば、某黒塗りのGを全力で叩き潰したら、残骸が想像以上にグロくて引いている。

 そんな感覚だと考えてくれれば問題はないだろう。


 護り手は、足の痛みとまんまと罠に嵌められてしまった事への行き場の無い怒りが合わさって、顔を真っ赤にしてタクトを斬りつけるため走り出す。

 スピードこそ先程より劣っているが、殺気だけは本物だ。誰が見てもただの猟奇殺人鬼にしか見えない。それこそジェノサイダーと呼ばれる者にしか。

 タクトとて、怒り狂って精度も気にせず暴れ回る猟奇殺人鬼の刃をそう簡単に当てられる訳には行かない。動きをよく見てコンマ何秒単位で完璧に避けきる。

 これがリズムゲームだったらフルコンボは確定だろう。下手したらフルパーフェクトかも知れない。


 何度も剣を避けられ続けた為、護り手の体力はかなり持って行かれた。息を荒くし、呼吸もぐちゃぐちゃに乱れている。そんな中放たれた一撃は見事にタクトに命中した。…………いや、正確には命中したのはタクトではない。

 ふわりと体を一回転させてその姿を表したのは茶髪ポニーテールの美少女・アリスだった。


「ちょwwwこwれwはwひwどwいw」


 護り手を煽るような女性の笑い声は間違いなくアリスの声では無かった。護り手はまた顔を真っ赤にして辺りを見回す。だんだんと薄くなってきた煙幕の先に見えるのは、口に手を当てて爆笑している金髪ツインテールの美少女・シュルバ。


「いや理性吹っ飛びすぎワロタwww」


 シュルバが煽るたび、だんだんと護り手の怒りのボルテージが上がっていく。それがMAXに達する頃には、護り手はシュルバの目の前で剣を振り上げていた。

 剣はシュルバに命中し、護り手は達成感と爽快感に満たされ、思わず笑みを浮かべていた。

 それも束の間、その笑みは256秒後に絶望に変わる。


 護り手はシュルバを切り刻むように何度も何度も剣を振る。感情なんて言葉は存在せず、それはただただ剣を降るだけの機械に等しい。

 シュルバはそんな中でも笑っていた。全身に作られていく傷をなんとも思わず、むしろその状況を楽しんでいた。傍から見れば、かなり気味の悪い映像である。


「フフフ…………キャハハハハハ!」


 護り手は満足するまで斬り終わると、シュルバはまたもや爆笑した。


「まんまと嵌められたわね!もう貴方に対抗手段は無いわ!」


 そう嘲笑うシュルバの両手には、先程までシュルバを斬っていた剣があった。血にまみれた刃を顔に近づけ、他者を飲み込む程の深い闇を持った瞳で護り手を柔らかく見つめた。

 護り手は恐怖のあまり、最初にいた場所に逃げ帰る。しかし、そこにも先客がいた。

 タクトは護り手の足元に血のついた空き缶をコロンと投げ、ゆっくりと後ろに下がった。


「ヒロキ、頼んだ」


 待ってましたと言わんばかりにヒロキは刀を抜刀し、天に突き上げ、自分の顔の前に持ってくる。刀は小刻みに揺れ、同時に雪の上の血液も揺れ始める。そしてそれは、空き缶についた血も例外ではない。


「それにしてもルカって凄いよね。血液の揺れに反応して爆発するセンサー型爆弾なんてそうそう作れるもんじゃないよ」


 至る所から大きな爆破音が聞こえてくる。護り手は爆破音がなる度にそちらの方を振り向いて慌てる。

 そして最後に、護り手の足元を熱い感覚が襲った。








「結構地形吹っ飛んだな…………」


 ヒロキがまるで他人事のように現場を眺める。護り手も流石にこの爆発には耐えられなかったか。


「これはもう言葉が出ないな…………」


 アルトは護り手の親指や足が転がっているのを見て勝ちを確信すると共にやりすぎたかも知れないと反省した。


 その気配にいち早く気がついたのはアリスだ。


「ねぇ…………護り手、まだ動いてない……………?」


 アリスの指差す方向には、片手片足がもげ全身に火傷を負っているにも関わらず、アルタイルを殺そうと這いよってくる護り手の姿があった。


「あ、ホントだ。まぁどうせすぐ死ぬけどね」


 タクトの言うとおり、護り手はすぐに動かなくなった。


「ホント、ルカには頭が上がらないよ。毒入り煙幕だなんてよく思いつくよね」

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