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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
3章『二つの黒は一つに成りて』
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3章2話『隠された光(前編)』

 未来、宇宙、希望…………。

 そんな神秘的な物を感じさせる光が機械の中心から差し込む。

 時空間転送装置と呼ばれる機械の周りにアルタイル7人は集結していた。


「さて、いよいよ神の使い魔"護り手"との戦闘に入る。もちろん、激しい戦いになることはみんなにも容易に想像できるだろう」


 タクトは1人、輪の中から飛び出て始まりの挨拶をする。


「だが、これだけは忘れないでくれ。この戦いは、世界を再構築するのに絶対に必要な戦いだ。つまりこの戦いはアテナ様の為でも、ベガの為でも、ましてや僕の為でも無い。これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを忘れさえしなければ、きっと勝てるはずさ」


 タクトにしては珍しく仲間を鼓舞するようなセリフだった。それ故に、タクトだからこそ説得力があり、タクトだからこそ説得力が無い。そんな状況が産まれている。

 その言葉に、アルタイル達は改めて自分の戦う意味を思い出し、決意を胸にした。

 転送装置はそんなアルタイル達を招き入れるかのように光を放っている。


「……………準備が出来た者から……………転送装置に入ってくれ」


 タクトはアルタイルに背を向ける。転送装置の光が逆光になってタクトのシルエットがアルタイルの目に映る。

 最初に勇気ある一歩を踏み出したタクトに続き、バラバラではあるが全員転送装置の中に進んでいった。






 気がついた頃に広がっていたのは辺り一面の銀世界だった。頬に降る冷たい雪がアルタイル達を拒んでいる様だ。

 もしくは、ここから先は危険だ。そういった雪からの警告の様にも感じられる。

 吹き荒れる吹雪はだんだんとその勢いを増していき、次第には手元すら見えない程の雪の壁と化していた。


 雪の幕に包まれたそれは時間が経つと共に姿を現す。人形のそれから放たれる鋭い殺気を感じたアルタイル達はすぐにそれが何かを察した。


 敵だ。


「あれが…………"運動能力の護り手"です」


 最初に口を開いたのはアテナだった。

 それに対してシュルバはアテナに問う。


「運動能力って…………どういうこと?」


「私達が人間を作るとき、生物の中でも特に発達した生き物にするため護り手の能力を少しずつ人間の脳に組み込んだのですよ」


「つまり、護り手は人間の脳の能力の内何かしら1つを持っている。って言ったところか」


 補足を加えたヒロキにアテナが頷く。


「今回はそのうちの"運動能力"に当たる護り手です。心して掛かるようにお願いします」


 アテナはタクトの目を見つめて頷く。


「あぁ。油断して負けるなんて、ダサ過ぎてやってらんないからね」


 タクトはその真っ直ぐな目からアテナの意思を読み取った様に返した。





 護り手は足元に積もる雪をザクザクと踏みしめ近付いてくる。タクトもそれに合わせてゆっくりと護り手に近付いていく。

 他のアルタイルが見守る中、2人は同時に止まった。


「君が、"運動能力の護り手"かい?」


「………………………………」


「なるほど。あくまで運動能力だけに特化した形だから、最低限何か考えることは出来ても会話することまでは出来ないというわけか」


「………………………………」


 タクトは何度話しかけても無反応を貫く護り手の様子を見て、肩にかけていたバックから2種類のあるものを取り出す。そのうちの1種類はタクトの手の中でカチッと音を立て光を放った。雪に覆われる中ぼんやりと映るなんとも幻想的な光は後ろにいたアルタイル達にも確認できた。

 アルタイル達は少し重心を落とす。


「まぁ、いっか」


 タクトはもう1種類の物に光を近づけ放り投げる。するとタクトはバックの中から同じ物を1つ、2つと取り出し、同じく光を近づけて別々の方向に放り投げた。

 放り投げられた手のひら大の黒い玉はシューという音を出し、回転しながら煙を吐き出していた。

 煙は瞬く間に辺りを包み込み、護り手どころかアルタイルにすら周囲の様子がわからない程真っ白く染め上げられていった。


「どうだみんな、大丈夫そうか?」


 タクトが声を出すと、様々な方向からOKの返事が聞こえてきた。タクトはそれを聞いて小さく頷き、微笑んだ。


「さぁ、絶望を始めよう」




 煙の中心にいた護り手は何がなんだか分からず、混乱していた。周りの状況が掴めないのもそうだが、何よりあちら側が何を仕掛けてくるか分からない。

 そんな計り知れない恐怖の前に頭痛すら発生した。

 しかし、下手に動くよりは相手の出方を伺ってこの場に留まった方がいいだろうと護り手は考えた。


 もちろん、そんな甘い考えがアルタイルに通用する訳が無い。


 護り手が周囲をキョロキョロと見回していた時だ。

 護り手の目の前に、鋭い目つきをした女が一瞬だけ現れた。

 その女は自分の目を疑うほど一瞬の内に消え去り、痺れるような感覚が走る。気づけば護り手の両手は紅い血の色に染まっていた。


 そこで護り手は初めて気がついた。

 アルタイルが只者では無いということ。そして、護り手である自分も油断をすれば命は無いということに。


 護り手はここに留まっている事は生きることを諦める事とほぼ同じと感じ、できるだけ動く事にした。

 とは言ったものの、煙幕はまだ消えておらず視覚が頼りにならない事は容易にわかった。だとしたら頼れるのは、五感の内の残りの4つである。


 実際に護り手を助けたのは聴覚だった。

 雪と煙に包まれた白い世界にカランと何かが動くような音が響きわたった。護り手はその音を聞き逃すことなく真っ直ぐに音の方向へと進んでいった。そこに1人はいるはずだ。そいつを殺せば少しは戦いが楽になる。そう思い、護り手はマッハ2のスピードで移動した。


 もちろん、そんな甘い考えがアルタイルに通用する訳が無い。


 護り手は確かに音の鳴った場所に辿り着いた。

 しかしそこには誰一人存在しておらず、それどころか誰かがそこにいた形跡すらも無かった。

 足跡を消す方法があったとしても、この雪と煙の中を動き回る必要があるとは思えない。でも、確かに何かが動く様な音が聞こえたのだ。


 カラン。

 そう、ちょうどこんな感じの音だ。


 え………………?


 護り手は血の気が引いていく感覚がわかった。恐る恐る、足元に当たった物に手を伸ばしてみる。

 そこにあったのはなんの変哲もないただの空き缶。護り手は、アルタイルに……………正確に言うなら、タクトの作戦に嵌められたのだ。


 護り手が怒りに任せて缶を握りつぶす直前、またもや血の気が引く様な感覚を覚えた。護り手の首筋からはドクドクと生暖かい液体が流れ出ており、護り手の右手を更に紅く染め上げた。


 護り手はそんな中でも冷静を貫き、腰に刺さる剣を抜刀し一回転した。ほんの少しだけ手応えがあったが護り手がその場所を見てもそこには何も無かった。

 護り手は圧倒的な絶望を覚え、改めて、本気を出さないといけないという事を察知した。





「これで……………大丈夫……………?」


 レイナは護り手に斬られた肩を抑えながらタクトに問う。


「あぁ。後は僕達に任せて」


 タクトは親指を上に突き出し、笑った。

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