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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章20話『古き仲間懐かしき敵(前編)』

「あ、タクトタクト!」


 廊下ですれ違ったタイミングで、タクトに声をかけたアリス。


「ん?どうかしたの?」


「なんか機械室からすっごい鈍い音が聞こえてくるの。なんか故障してたらヤダし、今ルカちゃんも呼んでくるからタクトも機械室に行っといてくれない?」


「そういうことなら了解」


 タクトはアリスに手を降って機械室に急いだ。

 アルタイルの本拠点となるこの船、これといった名称も無くただ海の上に一機だけ浮いているその船にはもちろん、都合よく陸から電線が伸びているなんてわけは無い。

 ならどうして、アルタイル達は何の不自由も無く生活できているのか?それはタクトがこの船を買った理由に深く関係している。


 どれほど前まで遡る必要があるだろうか。

 かつてこの船で起きた、高校生の連続殺人事件。船という脱出不可能な場所で行われた、高校生同士のコロシアイ。

 その事件は、一部の生存者が無事に家に帰宅してから何日、いや何ヶ月も経ったこの日でも未だに警察が調査を続けている。

 だが、生存者たちからは首謀者の証言は一切引き出せず、さらに最重要と思われる生存者の女性との連絡が取れず捜査は難航していた。

 タクトがおもむろに検索サイトを開くと、ごく稀にこの事件の進展を報道するニュースがニュースランキング第一位になっていたりする。


「まだ………バレてないんだ。僕の犯行」


 そう、この船で高校生のコロシアイゲームを企画したのは他でもないタクトだ。とあるお伽噺にある吸血鬼と探偵の勝負を現代に再現したい。ただそれだけの理由でタクトは多くの高校生の命を奪い去った。


 そしてその船は今、タクトたち7人のアルタイル、そして時空神の家となり砦となっている。人が次々と死んでいったこの船が今や死なない人間の住処となるとは、皮肉な話である。




「あ~、電線がショートしちゃってる。ここのはんだ剥がしてつけ直せる?」


「やってみるー」


「そうそう。あ待ってもうちょっと右。OKOK。大丈夫かな?」




 機械室での一件は何事もなく解決した。

 その帰り道、タクトが自室に戻ろうとある廊下を通った時だ。


「ここ…………」


 タクトが目にしたのは、タクトが一回目の死を経験した場所であり二回目の生を受け、目を覚ました場所だった。拭き取ったはずの血痕がまだ少し残っており、あの時の痛みを思い出させる。タクトは腹に手を当てうつむいた。


「タクト、どうかしたのか?」


 たまたま同じ廊下を通ったヒロキが声をかける。


「え?あ、あはは。何でもないよ」


 タクトは少し動揺しつつも苦笑いを返す。ヒロキは少し不審に思ったが、それ以上問い詰めることはなかった。




「今回狙うのは、『光の歯車だ』」


 最高管理室には、作戦会議の為にアルタイルのメンバー全員が集まっていた。


「そして、それがある時間軸は『赤ずきん』だ」


 赤ずきん。

 比較的有名な部類に入るこのお伽噺だが、実はなかなか残虐な一面を持ち合わせている。

 ではいつも通り、軽くストーリーを確認していこう。


 昔々あるところに、おばあさんに編んでもらった赤い頭巾をかぶった「赤ずきん」と呼ばれる可愛い女の子がいた。

 ある日赤ずきんは、用事で家から出られない母の代わりに病気で動けないおばあさんの所にぶどう酒とケーキを届けてくれと頼まれる。赤ずきんはこれを快く受け、母に道草をしないようにとよく言い聞かされ家を出た。


 その途中で狼に出会う。赤ずきんは母に狼にはよく気をつけなさいとも言い聞かされていたが、ニコニコと満面の笑みを浮かべて優しく話しかけてくる狼は、赤ずきんから見ると悪い狼には見えなかった。


「やぁ赤ずきんちゃん、どうやら一人のようだけどこれからどこへ行くの?」


「病気のおばあさんに会いに行くの」


「それは偉いね。おや、そのバスケットは?」


「ぶどう酒とケーキよ。おばあさんに届けるの」


「そうかい。おばあさんの家はここから遠いのかい?」


「いいえ、15分くらいよ」


 15分でおばあさんを喰べる事は不可能だと考えた狼は、赤ずきんにある提案をした。


「ここの周りをみてごらん、花は咲き、小鳥はさえずっている。ここでお花を摘んでおばあさんに渡してあげたら、おばあさん喜ぶんじゃないかな?」


「それはいいわ。いろんなお花を摘んで、おばあさんを喜ばせてあげましょ!」


「じゃあ僕はこれで失礼するね」


 その後、狼はおばあさんを喰らいおばあさんの身につけていた頭巾や着物を身につけベッドで横になって待っていた。


 しばらくして花を摘み終わりおばあさんの家に辿り着いた赤ずきん。家の扉が空いていることを可笑しく思いながらもゆっくりと扉を開けると、ひと目でいつものおばあさんではないとわかる何者かがベッドに寝ていた。


「おばあさん…………?」


「おや赤ずきんかい?よく来てくれたね」


「どうしてそんなにお耳が大きいの?」


「それはお前の声をよく聞くためさ」


「じゃあ、どうしてそんなにお目目が大きいの?」


「それはお前の可愛い顔をよく見るためさ」


「それなら、どうしてそんなにお手手が大きいの?」


「それはお前をしっかりと抱いてあげるためさ」


「な、なら………………」



「どうしてそんなにお口が大きいの?」


「それはお前を喰べるためさ!」



「あぁ喰った喰った。さすがに人間2人となると腹がいっぱいになるな」


 狼はそのまま眠ってしまった。


「あれ?おかしいな、こんな所で老婆がいびきをかいて寝ている」


 猟師はおそるおそる家の中へ入った。眠っている老婆の顔を覗いてみると、それは明らかに人ではなかった。


「これは狼じゃないか!なんてことだ!既に人が喰われているかも知れない」


 一度は銃で撃ち殺そうとしたが、中の人がまだ生きている可能性もあるのであえて銃をしまい、ハサミを取り出した。

 猟師は狼の腹を切り裂き、2人を助け出し、おばあさんの指示で赤ずきんは狼の腹に大量の石を詰め込み腹を縫って逃げた。


 狼は喉が乾いた為川に来ていたが、腹の石のせいでバランスを崩しそのまま水しぶきを上げた。



「今回の歯車はおばあさんの家の時計に使われているらしい」


「で、今回は誰が行くの?貴方は確定としても貴方1人では少し無理があるんじゃない?」


「大丈夫だ。さすがに1人で行くつもりはない。メンバーを考えている」


 そんなタクトとシュルバの会話を聞いてアリスが尋ねた。


「待って、何でタクトが直々に戦場に行く必要があるの?」


 アリスの問いにシュルバは丁寧に答えた。


「今まで私達は、いろんな時間軸に赴いた。そしてその時間軸それぞれで私達の内誰かの能力が開花した。そう考えると、未だに開花していないタクトは必須と言うわけ」


「そういうことだ」


 アリスはなるほど………と頷く。


「もちろん、今回も完璧な作戦を立てた。そう、完璧なね…………」


 タクトはニヤリと笑う。


「歯車集め最後の作戦、必ず成功させる。いや、成功せざるを得ないのさ。どうあがいても成功できるようになってるんだよ」


 タクトは片手で顔を隠し何度も何度も笑う。


「さぁ始めようか、最後に相応しい最高最悪の戦いをね!」

≪NGシーン≫


狼「ここの周りをみてごらん、花は咲き、小鳥はさえずっている」


赤ずきん「こんな日にはお前みたいなやつは、地獄の業火に焼かれてもらうぜ」


狼「Gルートワロタ」

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