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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章19話『すれ違う想い(後編)』

 アルトは城の扉を開く。

 キィィと滑らかに開いた扉から外の冷たい空気が静かに流れ込む。アルトは目を鋭くし、口は不気味に笑いながら扉の向こうに進んだ。

 辺りを軽く見渡すアルト。幸い、巨人は外出しているようで、侵入は想像以上に容易であった。


「ちょっと!貴方、誰ですか?」


 廊下の向こうからかけてきた巨人の妻に声をかけられる。


「僕は、ジャックって言います」


「ジャック君…………ですね?時間が無いので手短に済ませますが、ここは人を喰らう巨人の住む城です。私は妻と言う形で利用されている為何とか喰われずに済んでいますが、普段は平気で人を喰います。いつ帰宅するかわからないので、早くここから出なさい」


 巨人の妻がアルトの両肩を掴み、クルッと半回転させた所で扉の方からカチャカチャと音が聞こえてきた。


「まずい…………!とりあえず、急いで机の下に隠れて!」


 アルトは言われるがままに巨人の妻が指差した部屋に入り、机の下に体を滑り込ませた。

 ズシン、ズシンと大きな足音と共に地面が揺れる。アルトは机の下で頭を抱えていた。

 しばらくして、外から声が聞こえてきた。内容まではわからなかったが、どうやら巨人の妻が巨人と会話しているようだ。


 1分も経たないうちにその声は途絶えた。

 それと同時に、アルトのいる部屋の扉が開いた。アルトが少し頭を上げると、目の前には緑色の大きな足。

 今、出たら確実に殺される。そんな絶対にあり得ない恐怖で、アルトの手には汗が滲んだ。


「さぁてと、鳥を呼んでくるとするか」


 巨人は椅子に座ることもなく近くの箱に手をかけた。

 そこにいたのはなんの変哲もない一匹の鶏。しかし、卵の方はむしろ変哲しかなかった。


「おほっwwwww最高だねぇwwwww」


 巨人は情けない笑い方をしながら鶏を眺めていた。

 動機は実に単純だ。鶏自体にはまるでおかしなところはない。しかし、その鶏が産む卵は全て余すとこなく黄金色に輝いているのだ。


「これはすごいな…………」


 机の影からそれを眺めていたアルトも思わず見惚れてしまう。窓から差し込む光が卵に反射してアルトの手に訪れる。


「一つ、二つ、三つ…………wwwww」


 巨人は幸せそうに卵を数えている。

 それはいつまでもいつまでも続くと思われ、巨人本人もそう思っていたが、予想外の出来事が起きた。


「貴方、お茶ですよ」


「おぉ、すまぬ」


 巨人は妻からお茶を受け取りそれを口に運び卵數えを再開する。

 21、22、23……………。そのあたりだろうか。

 巨人のまぶたは段々と下に向かっていく。まだ巨人の意志でそれを防げた内は良かったが、やがて巨人の意志よりも睡魔の勢いの方が勝ち始め、次第に巨人は眠りに落ちた。


「これは……………」


 机の下から顔を出したアルトのもとに近づいた巨人の妻は、アルトに向かって小さく頷いた。


「あとは、頼むよ」


 巨人の妻はふわっと体を一回転させると、あっという間にアリスへと変わった。


「あぁ。任せろ」


 アルトは少しキザに決めてアリスに背を向けた。




「さて………今のうちに"アレ"やっとくか」


 アルトは巨人の前に立ち、目を閉じた。精神を集中させて眉間にシワを寄せる。激しい頭痛がアルトを襲う。まぶたの裏には宇宙のような、水の流れのような、そんな青い風景の中に巨人の妻の姿や城の部屋、そして、竪琴も映っていた。


「なるほど…………左から2番目のタンスを前にずらして1105か」


 そう呟くと、アルトはおもむろにタンスをずらし始める。かなり重いものの何とかずらすと、その床にはあからさまに色の違う金庫のような黒い床、そしてパスワード入力機器だった。


「一体…………どういうこと?」


 シュルバはタクトに問う。


「アルトの能力………名付けるとしたら『接続』かな?」


「なるほど………なんとなく、察しがついたかも」


「へぇ………言ってみな?」


「多分だけど、『他人の記憶に接続できる』ってとこでしょ?」


「まぁ………そんな感じかな」



 ガチャンッ!

 金庫の鍵が開いた。中には翠色に光る竪琴がポツンと外部から護られているように置かれている。

 アルトはそれにゆっくりと手をかける。すべすべとした手触りがアルトに幸福感をもたらす。アルトはそ~っと竪琴を持ち上げる。竪琴は金庫に固定されており、見た目以上にずっしりと重量があった。今すぐにでもこの金色の弦を弾きたい。そんな気持ちを抑えてアルトは竪琴を抱える。

 次の瞬間。


「ご主人様!泥棒です!」


 竪琴は大声で叫ぶ。ジャックと豆の木のストーリーで語られているため驚きこそしなかったが、同じくストーリーで語られている通り巨人は目を覚ましてしまった。


「む……………貴様!ワシの竪琴を盗もうとしたな!!?」


 巨人はアルトを強く睨み立ち上がる。

 アルトは余裕の表情か、それとも諦めの表情か、怯むこともなく全く表情を変えず終始つまらなそうにしていた。


「許さんぞ…………!ワシの1番の宝を!」


 巨人が拳を顔の前に突き上げ、怒りをあらわにする。


「1番の…………宝ねぇ……………………」


 アルトは口に手を当てて呟く。


「あぁ………、今の発言……………」


 同じく最高管理室のシュルバも呟く。


「「間違いなく嘘だね」」


 堂々と言い放った。


「間違いなく嘘だと?何を根拠に言っている!」


「根拠は……………金庫だよ」


「金庫番号『1105』。それはある人の誕生日を表している。貴様の記憶の中に眠っている、誕生日を所持している人物は一人だけ。しかもそれを竪琴を護る金庫の番号にすると言うことは……………」


「君の本当の宝は、竪琴ではなく妻なんだろ?」


 巨人は歯を食いしばり、苦痛の表情を浮かべた。

 が、アルトは容赦なくトドメを刺していく。


「全く……………残念ながら、相手は君の事を愛してないよ?それどころか、怯えてすらいる。自分もいつ喰われるかわからないってさ。自分が唯一愛した人に怯えられるなんて、酷い人生だよな…………」


 アルトはそう言って嘲笑する。


「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」


 巨人は怒りのあまり暴れだし、城の壁を壊しだした。


「はぁ…………気が済むまで壊せ。どうせ今から全部壊れるんだからさ」


 アルトがそう言うと、窓の外から弱い光が流れた。

 光は一瞬で大きく広がり、2人を包み込んだ。爆風と共にガラスや壁が崩れ、巨人の体は熱でドロドロに溶けだす。


「き…………さま…………なにを……………した」


 ろれつも回らない状況でもなおアルトを憎んで声を出す。


「専門的に言うと………………テボドン。簡単に説明すると……………」


「核爆弾」


 アルトはまたもや表情を一切変えずに言った。


「く……………そ……………たと……え……どんな…す………がたにな……ろうとも………きさ……まだけ……は………ころ………してや………る………!」


 巨人は自立して立つことも出来ないのにまだアルトに復讐を誓っている。

 アルトはダメ押しの一言を放った。


「ごめん、誰もテボドンが一発だけだなんて言ってないんだよね」

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