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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章18話『すれ違う想い(中編)』

 目に映るのは大きく緑色をした植物。

 時折蔦が伸びそこから葉が生えたその豆の木を見たジャックは目を輝かせながら空を見上げた。


「わぁ………すっごいなぁ……………」


 雲を突き抜け天高く伸びている豆の木。それを見た瞬間からジャックの恐怖心は好奇心に呑み込まれていた。

 好奇心は人間にとって1番の危険を冒すことへの動機だ。結局は皆、好奇心に従う事を望んでいる。

 もちろんそれはジャックも例外ではない。ジャックは既に豆の木に手をかけていた。

 この木のてっぺんには、あの雲の向こう側には一体何があるんだろう。幻想に支配されたジャックは今から行うことがいかに危険でどれほど恐ろしいかを知らない。

 そんなことどうでもいい、そう考えていた。


「たっかいなぁー………」


 大体4割程進んだところでジャックは後ろを振り返る。さっきまで自分がいた家がもう確認できない。足や腕もパンパンに張り、少し動くだけでも全身を針で刺すような激痛が走る。

 それでも、ジャックは進む。今更戻ることもできないから、進むしか無いのだ。





「かんせーしたよー」


 タクトのスマホがチロリン♪と軽快な音を鳴らし揺れる。

 最高管理室でジャックの様子を見ていたタクトはポケットからスマホを取り出し、ルカからのメッセージを確認する。


「お、予想より全然早かったな」


 タクトは満足そうに笑い、ルカに返信する。

 そして、隣で同じくジャックの様子を見ていたシュルバに苦笑いをしながら頼んだ。


「悪い、ルカの所に行って確認してきてくれるか?」


「りょーかい」


 シュルバは特に躊躇うこともなく了承する。タクトからあるものを、ルカに渡すようにと手渡されてから、シュルバは転生機へと入っていった。




「やっほ。お疲れ様」


 シュンッという音と共に青い輪の中から現れたシュルバを見て、ルカは声高らかにぴょんぴょんしながら言う。


「あっ!シュルバおねーちゃん!ねぇねぇ!見てみてー!ルカがんばったよー!」


 ルカが両手を広げる先には、細長く大きな鉄の塊があった。周りにはよくわからない粉末が散らばっており、特に黒いゴミ袋の中を見ようとするとルカは危ないからといってそれを全力で止める。


「おぉ………これは凄いね」


「えへへー、すごいでしょー!」


 シュルバはメガネをクイッと上げ、関心した様子でそれを見る。

 が、それが何なのか分かっているシュルバは絶対にそれに触ろうとしなかった。


「これはタクトも文句なしだろうね、はいご褒美」


 シュルバは左手に持っていた大き目のレジ袋をそのままルカに渡した。ルカはそれを、またぴょんぴょんしながら受け取り、中を見て大喜びした。


「やった!お菓子こんなにいっぱい!いいの!?」


「うん♪タクトが、いくら死なないからと言っても危険な事をさせたのに変わりはないからって」


「やったぁ!シュルバおねーちゃんもありがとー!タクトおにーちゃんにもありがとーって言っといて!」


 ルカに目線を合わせていたシュルバは優しく微笑みながらルカの頭を優しく撫でた。

 ルカはとても素直ないい子で、アルタイルからも好かれている。これは他のメンバーとはまた違った、信頼関係と呼べるのだろうか。


 そういえばシュルバがわざわざ転生機を使ってルカの所に来た理由だが、今回ルカが作ったものはあまりにも巨大で船の中には入り切らない。

 そのため、アテナが時空神の力を利用してルカの作業用の時間軸を形成したのだ。それにそこなら邪魔が入ることも無いので、思う存分モノを作ることができる。

 そのためルカの作業も効率よく進み、タクトの予想より早く完成したと言う訳だ。


「にしてもさぁ…………さすがにこれは容赦なさすぎよね……………」


 シュルバは腰に手を置き、苦笑いする。


「うん、やりすぎだとおもう」


 ルカはお菓子を口に加えながら真顔でシュルバに頷いた。







「転生完了」


「よし、そのままジャックが現れるまでどこかに隠れておけ」


 現場に送られたのは天才詐欺師アルト。

 豆の木の頂上には幻想的な風景が広がり、冷たい風が流れる。その中にぽつんと建つ大きな城。アルトはその城に侵入し、ジャックが来るのを待っていた。


 およそ10分程経ってから、城の扉をゆっくりと開く音が響いた。

 アルトはすかさず机の下から顔を覗かせ、ジャックに手招きをする。


「お兄さん、誰?」


「自己紹介は後でする。何とか、この城から出るぞ」


「なんで?普通に扉から出ればいいじゃん」


「ここは巨人の城だ。見つかったら最後、容赦なく喰われるぞ」


 アルトはジャックの肩を掴み真剣な眼差しで言う。

 ジャックもそれを見て事の重大さを感じ、アルトに従う事にした。


「どうやって………出ればいいの?」


「隠し通路が1つだけある。君だけならもしかしたら出られるかも知れない」


「お兄さんは………?」


「君が助けを呼んでくれれば解決だろ?」


「……………わかった」







「ここが、その隠し通路だ」


 アルトとジャックは台所に来ていた。

 周りの物は全て巨人用のサイズになっており、包丁やフォークに計り知れない恐怖を覚えた。

 そしてそれは、かまども例外ではなかった。


「このかまどの奥だ。そこに穴が空いていて、そこから外に出られるかも知れない」


「僕が…………そこに行けばいいんだね?」


「あぁ………頼んだぞ」


 ジャックは決意を固め大きく頷いた後に、アルトの言うとおりかまどの中へ進んで行った。

 中は想像以上に暗く、周囲の状況を掴むことは不可能に近かった。そんな状況の中、ジャックは必死に穴を探す。

 足で地面をよくさすってみるが、穴はなかなか見つからない。

 段々と汗をかいてきた。息も切れ始める。それでもジャックは穴を探す事を諦めなかった。信じてくれた人を助ける為に、必死に脱出口を探した。


 ジャックは気づいてしまった。

 かまどの中に脱出する貯めの穴なんて無い事に。

 そして地面が段々と熱くなっていることに。

 それでもジャックは穴を探す。

 自分でも分かっているのに、諦められない。穴を見つけるまで帰れない。この城から脱出しないと、彼に合わせる顔が無い。


「あれは……………」


 ジャックの目に止まったのは光。地面から差す強い光だ。

 きっとあそこに穴はある。遂に僕は穴を見つけたんだ。

 地面の熱さはどんどん増していき、ジャックの足は既に火傷を負っている。それでもジャックは穴に向かって走り出した。


「やっと…………帰れる………………………!」


 ジャックが手を伸ばし、光に触れた時だ。


 指先からジュッと音がなり、ジャックの手は焼け焦げた。


「え………………」


 光はジャックを追うように広がっていき、ジャックはそれから逃げた。あんなに求めていた光から、今は全力で逃げている。

 この先、自分はどうなってしまうのか。そんな恐怖でいっぱいになった。


「熱い!熱いよぉ!助けて!誰か助けてェェエエ工!!」


 そんな悲痛な叫びは外に届く事もなく、プツンと途絶えた。





「ジャックは死んだ」


「よし、そのまま城の外に出てジャックの様に振る舞ってもう一度中に入ってくれ」


 アルタイルの作戦に邪魔になるジャックは詐欺師の作戦の前に殺害された。

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