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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章17話『すれ違う想い(前編)』

 深夜、冬の冷たい風がアルトの頬を伝う。

 潮の香りに包まれながら揺れる波の中に浮かぶ豪華客船。そのテラスで星を眺めるアルトはどこか寂しげな表情をしていた。


「星が綺麗だな………」


 ボソッと呟く。

 アルトは今は亡き想い人を思い出してホロリと涙を流す。あの時の後悔を思い出して胸が締め付けられる。愛する人は、思いを告げる前にいなくなってしまった。自分にあと少しの勇気があれば、運命が変わっていたかも知れない。

 そんな、今になってはどうしようもない胸の傷の痛みを改めて噛み締めた。


「どうしたの………こんな時間に………」


 ガラガラッと音を立てた扉を振り向くと、レイナがいた。レイナが持つ2つのマグカップからは白く湯気が立っている。


「よぉ、まさかレイナが来るなんてな」


 レイナからマグカップを受け取ったアルトは目の前に現れた意外な人物に少々驚きながら、レイナに歩み寄った。


「なんとなく、星が見たくなっただけだ。深い理由は無いさ」


 腰に手をつき笑うアルトの不自然さを、レイナは見逃さなかった。


「本当に………それだけ…………?」


「え………?」


 レイナはアルトに顔を近づけ、アルトの目の下をスッと人差し指でなぞる。

 戸惑うアルトを前に、レイナは切ない顔でアルトを見つめる。


「この………涙の跡は………?」


 アルトは、ハッとして頬を触る。アルトの頬には確かに涙の通った跡があった。自分では気づいていなかったが、かなり大粒の涙を流していたようでアルトはなんだか恥ずかしくなった。


「これは………まぁ、ちょっとな」


 レイナから目を逸らしつつ頭を掻きむしりながら苦笑いするアルト。レイナにはそれが気に食わなかったようで、


「はぐらかさないで…………」


 強く哀しそうにアルトを睨むレイナ。

 その眼差しを心の底で直に受け止めたアルトは、


「………これは、俺だけの問題だ。レイナを巻き込む訳にはいかない」


 打って変わって真剣な表情でレイナに返す。レイナも、それ以上言い返すことはしなくギシシッと奥歯を噛み締めた。

 ()()()()


「ねぇ、どうしておしえてくれないの?」


 またもや開いた扉を見ると、そこにいたのはルカ。しかも、ファントムではなく本物のルカだ。


「ルカ………?何故ここに?」


「しつもんをしつもんでかえすのはよくないっておかーさんがいってたよー」


 ルカは頬を膨らませながら、レイナと同じ様にアルトを睨む。


「さっきも言った通り、これは俺だけの問題だ。無関係な2人を巻き込むことは出来ない」


 アルトは2人を交互に見て、低く重い声を放つ。

 それに相反してルカは、高いながらも重い声を放った。


「むかんけい?なんでむかんけいなの?ルカとアルトおにーちゃんはかぞくでしょ?」


 アルトには、いまいちルカの言うことがわからない。それを助けるように、レイナが言った。


「確かに…………血は繋がっていない…………。でも、共に死を乗り越えてきた仲間……………同じ29695835番(アルタイル)の名を持つ生命…………。だから私達7人は………家族みたいなもの……………。ルカは、そう言いたいのだと思う」


「ルカ…………………」


 なんだか、自分が情けなくなった。仲間を信じきれなかった自分を今すぐに刺し殺したい。

 アルトは、自暴自棄とはまた別の感情に侵され、テラスを出た。


「アルトおにーちゃん、どこいくのー?」


「野暮用を思い出した…………って事にしておくよ」


 テラスの扉はガラガラッと閉まり、アルトは胸を張って階段を降りていった。






「じゃあ、作戦会議を始めようと思う」


 変に改まって始まる恒例の作戦会議。


「今回の時間軸は『ジャックと豆の木』だ」


 ジャックと豆の木。

 名前自体は有名だが、実際に内容を理解できている人は限られてくるのではないか。

 とりあえず、あらすじだけ確認していこうと思う。


 昔、あるところにジャックと言う少年とその母が住んでいた。ジャックの父はジャックが小さい頃に巨人に食べられてしまったのである。

 2人は牛の出すミルクを売って何とか生活していたが、その牛も衰えミルクを出さなくなる。仕方なく、ジャックは母の遣いで牛を売りに街へ出る。


 その途中、ジャックは見知らぬ男に、男がもつ「魔法の豆」と牛を交換してくれないかと頼まれる。「魔法の豆」と聞いたジャックは大喜びで男に牛を渡してしまった。

 そんなジャックにジャックの母は大激怒。ジャックを厳しく叱り、豆を窓の外から捨ててしまった。


 次の朝ジャックが窓の外を見ると、昨日の豆の木が一晩でものすごく大きく成長していたのだ。それこそ、天空まで届くほどに。

 好奇心旺盛なジャックはその木に登ってみる事にした。


 頂上には、それはそれは美しくとても大きな城がそびえ立つ。

 ジャックが城を訪ねると、中から現れたのは巨人の妻。巨人の妻は、「ここには人を喰らう巨人が住み着いています。速やかに帰りなさい」と告げる。それとほぼ同時に、巨人が帰ってきた。巨人の妻は急いでジャックを隠す。


 巨人は自分の部屋で、黄金の卵を産む鶏を眺めたまま眠りについてしまった。

 それを覗いていたジャックは鶏を奪い、一目散に地上に逃げ帰った。鶏が産む黄金の卵のおかげで、ジャックとジャックの母は、たちまち大金持ちになった。

 それから何度かジャックは豆の木を登り、金銀財宝を盗んでは地上に逃げ帰っていった。そのため、ジャックの家はどんどんと潤っていく。


 その日もいつも通り、巨人の城に忍び込み竪琴を盗もうと手をかける。すると、竪琴は突然「ご主人様、泥棒です!」と声を上げる。目を覚ました巨人はジャックを喰らおうとするも、一足先に地上に辿り着いたジャックが豆の木を切った為、巨人は落下死。その後もジャックの家族は幸せに暮らしていったそうな。


「今回の歯車、『樹の歯車』はこの竪琴に取り付けられている」


 タクトはモニターを指差し説明する。アルタイル達は各々何か考えている様子だったが、シュルバがあることに気づく。


「え…………まさか………………」


 シュルバの力無き声を聞き取ったタクトは諦めたような笑顔で小さく返す。


「お察しの通りだよ………」


「やっぱり………私達は今回、巨人を敵に回さなきゃいけないのね…………」


 一同は同時に「えっ!」と驚きの声を上げる。


「そんな…………いくらなんでも無茶過ぎないか?」


 とヒロキがガクガクと震えながらタクトに右手を伸ばす。


「大丈夫、しっかりと作戦を練ったから。そうだよね?アルト」


 タクトはアルトの方を見て、小さく笑う。それに返すかの様にアルトもタクトに微笑み返すのだった。


「アルト………あの時、突然テラスから出ていったのはそういう事だったのか…………」


 レイナは、珍しくフフッと笑いアルトを真っ直ぐ見つめる。

 アルトはどこか満足げな表情でレイナを見つめ返す。


「まぁ確かに…………俺一人で作戦を作るには限界がある。だから、タクトに頼んだ。みんなを勝利へ導くために、俺なりに今回の作戦は全力を尽くしたつもりだ」


「見せてあげるよ、2人の詐欺師が織りなす最ッ高のエンターテイメントをね!」


 タクトは声高らかに笑った。

≪NGシーン≫

タクト「今回の時間軸は『ジャックと豆の木』だ」


シュルバ「isuke☆」


タクト「デレデレデッデーデレッデレッデーデレデレデッデーデレッデレッデーデレッデレッデーデレデレデッデーデレッデレッデーデレデレデーデレデーデレデー」


ヒロキ「キャラ崩壊待ったなし」

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