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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章14話『いない(前編)』

「うぅ………寒い………」


 少し前にベットの中で目を覚まし、軽く着替えを済ませたシュルバは目を擦りながら体をブルッと震わせる。

 最近は寒い朝が続いていたが、今日は特別に寒く感じる。こんな時は決まって「早く夏になればいいのに」と誰にも聞かれないまま呟くのがシュルバの日常である。


 夏が好きか、冬が好きか。

 この2択はかなり前から議論を続けられているが、未だに決着が着いていない。まぁどちらが好きであろうと個人の勝手だ。

 ちなみにあんな事言っているがシュルバはどちらかというと冬の方が好きらしい。

 寒いのは苦手だが、こたつの中でPCゲームをしながら食べるシュークリームの虜になってしまっている。

 シュルバのシュークリーム好きはシュルバが他の誰にも譲れない高いプライドなのだ。


「やっぱ寒いのは苦手ね………」


 シュルバは壁に掛かっているダッフルコートに手を伸ばして呟く。

 シュルバはダッフルコートのボタンを止めメガネを外す。『冬場はメガネが曇りやすくて困る』と、シュルバはメガネ拭きでレンズを拭く。


 メガネをかけ直したシュルバは扉を開けてカフェスペースに向かう。

 カフェスペースのガラスの扉の奥に、タクトとレイナの姿が見えた。


「2人ともおはよ」


 カランカランと開くドア。シュルバは2人に小さく手を振る。

 カフェスペースに広がるコーヒーの香ばしい香りは、アルタイル達の1日の始まりを告げているようにも思える。

 もちろんシュルバも例外ではなく、コーヒーの香りに不思議と清々しい気持ちになった。


「お、シュルバ。おはよ」


「おはよう…………」


 タクトは手を振り返しながら、レイナは照れくさそうにシュルバから目を逸らしながらシュルバに挨拶を返した。


「とりあえずトーストとコーヒーお願い」


 カフェスペースのファントムはシュルバからの注文を承り、コーヒーメーカーでゴリゴリとコーヒー豆を挽く。


「というか、2人ともこんな事朝早く何話してたの?」


 シュルバは2人の席からそう遠くないカウンター席に背もたれを前に座る。


「まぁちょっと次の作戦についてね」


 タクトはシュルバの方に体を向け、背もたれに右腕を置いて答える。


「てことは次はレイナちゃんがメインになる訳ね」


 タクトはそういう事だ、と頷く。


「あ、そういえばさ…………」


 そこでシュルバはある事に気がつく。


「レイナちゃんって強く念じれば姿を消せるって言ってたよね?それが能力だったりするのかな?」


 シュルバは人差し指を口元に当てて説明する。


「いや、それがレイナの透明化能力は、どうやらコレの効果らしいんだ」


 タクトはレイナの左腕を掴み、袖をまくってみせる。レイナの左腕には激しい火傷の痕の様なものがあった。


「この火傷痕は………昔、王族にやられたんだ。その時に強くこの世から消え去りたいと願ったからなのか………その日から自分の姿を消せるようになったんだ………」


 レイナは右腕で傷を撫でながら語る。

 シュルバは深刻そうにレイナの腕を見ていた。


「調べてみたら、これも僕の腕と同じタイムパラドックスの末路らしい。レイナを仲間にするまで、僕達もペルセウス達も時間軸を何度もねじ曲げて来たからね」


 シュルバは納得したように頷きながら、サクサクとトーストを食べ進める。




「さて、そろそろ今回の作戦について説明しよう」


 もはや恒例となった作戦会議。

 今回も最高管理室にはアルタイルの7人と時空神アテナがそれぞれの位置に立っている。


「今回狙うのは『無の歯車』、そしてそれは白雪姫の時間軸に存在する」


 白雪姫。

 色々な所で書き直されたり映像化されたり、果ては推理映画のタイトルにもなったりと、何かと有名な白雪姫。

 この物語のストーリーをいつも通り確認していこうと思う。


 白雪姫というとても美しい王女がいた。

 彼女の母の王妃は自分が世界で1番美しいと信じ込んでおり、彼女の持つ魔法の鏡もそれに同意していた。


 始まりは白雪姫が7歳になったその日だった。

 いつものように鏡に世界で1番美しいのは誰かと問う。いつもならここで、王妃の名前が上がり王妃は声高らかに笑うという一連の流れだ。

 しかしその日は違った。

 鏡は、1番美しいのは白雪姫だと答える。

 王妃は怒りに怒り、猟師に白雪姫の肝臓を持ち帰るように言う。

 が、猟師は白雪姫を可哀想に思い白雪姫ではなくイノシシの肝臓を持ち帰る。王妃はその肝臓を塩茹でにして食べた。


 白雪姫は森で小人達に出会い、共に生活することになった。

 しかし、白雪姫が生きていることを知った王妃は白雪姫を絞め殺そうとしたり、毒付きのくしを刺して殺そうとしたりと、何とかして白雪姫をこの世から消し去ろうと模索した。


 そして遂に、王妃は白雪姫に毒リンゴを食べさせて殺害する事に成功。その場にいなかった小人達にら死因が分からず、ガラスの棺桶の中に白雪姫を入れる。

 そこにとある国の王子が現れ、死体でもいいから白雪姫を一目見たいと申し出る。

 棺桶を運ぶ途中、家来の一人が躓いて棺桶が揺れた拍子に白雪姫の口から毒リンゴの欠片が飛び出した。喉に詰まっていたリンゴを吐き出した白雪姫は息を吹き返す。


 王妃は2人の結婚披露宴にて真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、息絶えるまで踊らされたという。




 ここまで読んで気がついただろうが、この白雪姫という物語を形成するのは、王子様と白雪姫の愛だけでは無い。

 嫉妬心に蝕まれた人間の成れの果てを表現した、子供には向かない物語である。


 時代を超えて何度も書き直される間に子供向けに優しく柔らかくなったが、本当の白雪姫はそれこそ毒リンゴの如く子供を飲みこんでしまうのだ。


 こういったおとぎ話は少なくは無いのだが、やはり初めて読む人はショックが大きいだろう。


「で、歯車がどこにあるのかと言うと」


 タクトは城の中の鏡のフレームをズームする。


「ここだ。今回の歯車は魔法の鏡のフレームに使われている。前回ほど入手が難しい訳では無いが、王妃との直接対決は回避し難いだろう」


 アルタイル達はうーんと表情を曇らせる。


「それで、今回白雪姫の時間軸に行ってもらうのは」


「レイナとアリス、そしてヒロキの3人だ」


 一同は驚きのあまり声を漏らす。

 3人は顔を見合わせて首を傾げた。


「なんで、俺達3人なんだ?」


 ヒロキがタクトに問う。

 この3人は会話しないと言う訳では無いが、ほとんど共通点がなく特別仲が良いと言う事も無い。

 3人からすれば、いや3人以外から見ても何故タクトがこの組み合わせを選んだのかがよく分からなかった。


「大丈夫、安心して」


 そう答えたのはタクトでは無かった。

 3人は一斉に彼女の方を向いて戸惑いの表情を浮かべる。


「今回の作戦、実は僕とシュルバの共同開発だ。ホントはアルトも呼びたかったんだけど、いかんせん詐欺中だったからさ」


 アルタイル達は交互に2人を見る。

 シュルバは恥ずかしそうに左のツインテールをクルクルしていた。


「私達は出来る限りを尽くしたから、後はみんなに任せるよ」


 シュルバは胸の前に手を広げ、ペロッと舌を出して言った。


「このゲームはCLEAR済みだよ♪」


 一見小悪魔風に見えるその仕草の裏には、タクトをも超えんとする腹黒さが眠っていた。

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