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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章13話『仮面(後編)』

 缶から溢れだす気体。それから出される独特な青臭い様な臭いがペルセウス達の鼻や肺を蝕んでいく。

 喉が張り裂けるかのように熱い。今にも首が爆発しそうだ。咳をしただけで血がドロドロと溢れでる。


「せっかくだし、ちょっとだけプログラムを弄らせて貰ったよ」


 タクトは両手を突き顔を前に出してフフフッと不気味に笑いながら言う。


「なぁ、あのスプレー缶の中身ってなんなんだ?」


 アルトがタクトに尋ねる。


 それに対してタクトは目を見開き歯を見せてニヤリと笑い、答えるのだった。


「あの毒ガスは、ベースをルカが作り僕とシュルバが世界側のプログラムを少し調整して使い勝手を上げた、改造型ホスゲンだよ」


 ホスゲン。アルトには聞きなれない言葉だった。


 ホスゲンの事自体を詳しく知る人はせいぜい専門家かマニアぐらいだろう。


 第二次世界大戦で大量に製造され、旧日本軍が「あお剤」と呼称していたホスゲンと言う毒は、現代の日本では「毒物及び劇薬取締法」で毒物と指定されている、かなり危険な薬品だ。


 このホスゲンを高濃度の状態で吸引するとたちまち目や鼻、気道などに重大なダメージを与える。

 例えその場は助かったとしても、肺水腫を発症し最悪の場合心不全に陥る。


 何より恐ろしいのは未だにこの毒を解毒できる薬が開発されていないと言うこと。

 第二次世界大戦に作られた毒を治す方法が今の時代になっても発明されない。


 あらゆる物事に当てはまるが、破壊するのは一瞬で簡単だけれど、その傷跡を消し去るには途方も無い努力と時間を要するのだ。


 更にタクトとシュルバは現実世界でもこんなに恐ろしい毒ガスを自分たちに都合よく作り替えてしまったのだと言う。

 これほどに恐ろしい事が今までにあっただろうか。


「哀れだよね、後少しで希望の光を掴みそうだったのに一瞬にして絶望で埋め尽くされてしまうなんて」


 タクトは柔らかく握った拳を口の前に持っていき、フフフッと笑っている。




「作戦第二段階遂行完了」


 シュルバは目を閉じ冷静にタクトに言う。

 タクトはいつも通り真っ黒い笑顔を浮かべながらシュルバの言葉を受け取っていた。


「おっとこれは……………」


 タクトの瞳に映るのは、ガスマスクを装着し毒ガスを回避しているモニター越しのペルセウスだった。


「アイツら、ガスマスクなんて持ってたのか…………」


 アルトが両手を突きながら下を向き、額に血管を浮かばせる。

 それに対してタクトは依然として冷静を保っていた。


「いや、ペルセウスの本部側が転送したと考える方が自然だろう」


 アルトは悔しそうに拳で机をダンッと叩く。


「まぁどちらにせよ想定内だ」


 タクトはそう言うと、マイクを掴み声を上げる。


「少し無情な気もするが、作戦を第三段階に突入させる」


 その言葉を聞いた戦場の3人は、総じて呆れた顔もしくは拒絶する様な顔をしていた。あのレイナですら呆れさせてしまう程の無情さを持った作戦第三段階は遂に決行された。


「許してね、かぐや姫様♪」


 シュルバはかぐや姫のいる部屋に向かってパチンとウインクを見せ、バックからある物を取り出し家を出た。


 玄関を出た後、そのまま左に進み少し位置を調整した辺りでシュルバはその場にしゃがむ。

 同じ様にアリスとレイナもそれぞれ別々の位置に付く。


 3人の「準備完了」の声を確認したタクトはよし。と頷き、マイクに向かって叫ぶ。


「着火」


 3人はその声を聞くと同時にライターを取り出し壁に火を着ける。

 その後バックからオイルを取り出し壁全体にかけた。

 炎は大きな音を立てバチバチと火の粉を散らし、瞬く間に家全体を包み込んだ。


 作戦第三段階。


「最悪毒ガスも回避された場合だが…………かぐや姫の家に火を着けてかぐや姫を含む家の住人ごと月の使者を殺害しようと思う」





 白く輝きを放つ紅色の焔は何の躊躇いもなく家を飲み込み焼き尽くす。

 もうその情景は誰にも止められない程無残だった。

 タクトはそれでもなお笑い続ける。


「フフフッ、まさかこの作戦がここまで綺麗に行くとは思わなかったよ。これはかなり嬉しいね」


 そう、この作戦にはペルセウスを確実に殺害できるもう1つの火種が眠っている。

 3人が火を着けた場所、シュルバが位置を調整してまでそこで無くては行けなかった理由。


 3人が火を着けた場所はタクトが計算し指示した場所だ。

 そしてそこに火を着けると、ペルセウスは…………いや、一般的な考え方をする人間は総じてある部屋に逃げ込もうとする。


 さっきの毒ガスの部屋だ。


 ペルセウス達は体を焼き尽くす程の熱さに耐えながら煙の中を走り毒ガスの部屋へと向かう。

 タクトは、その部屋に1番最後に火が着く様に計算してあの場所を選んだのだ。


 ペルセウスは毒ガスの部屋へと転がり込み、膝に手を付き息を切らせる。

 それも束の間、ペルセウスはもう死んだも同然だ。

 ペルセウスは既にタクトの作戦の中にいる。


 しばらくして、遂に炎がペルセウス達のいる毒ガスの部屋まで届いた。

 のと同時に、ボウンッと大きな音が都中に響き渡る。


 本来、ホスゲンと言う毒ガスに火はつかない。その為、爆発することは無いのだ。

 では何故ホスゲンは爆発したのか、答えは至って単純だ。

 あくまでホスゲンが燃えないのは『本来の』ホスゲン。このホスゲンは本来のホスゲンではない。


「あのホスゲンはさっきも言った通り改造型ホスゲン。もちろん、作戦の為にプログラムを弄らせて貰った物だ」


「あのホスゲンは可燃性だよ」




 大きな爆発の後に残っていたのはペルセウスの亡骸のみ。

 3人は勝利を確信した。


 任務完了……………その言葉をタクトに伝えられるはずだった。


「よし、後は乗り物を奪って…………」


 次の瞬間、シュルバの背中に激痛が走った。

 声にならない叫び声を上げる彼女の後ろには、唯一生き残ったペルセウスの姿がある。


 そしてペルセウスは辺りを見渡す。ペルセウスはすぐ近くにいたかぐや姫に手を伸ばした。

 かぐや姫は抵抗するがペルセウスの前には無意味に等しい。ペルセウスの肩に乗せられたかぐや姫は悲鳴を上げジタバタする。

 そのままかぐや姫はペルセウスに連れ去られてしまった。


「…………とりあえず帰還しろ」


 タクトの冷静な一言に、シュルバはナイフを取り出し自分の首を斬る。




 転生機で戻ってきた2人にタクトが親指を立てる。


「全て作戦通りに進んでいる。ありがとう2人とも」


 2人は小さく微笑んだ。




 月面にかぐや姫が到着する。

 月の奥の城、特に目立つ大きな時計に『空の歯車』が使われている。

 月面の人々、本物の月の使者はかぐや姫の帰還を歓迎していた。その為か、帰還とほぼ同時に帰還記念の宴が開かれた。

 城の中の大きな部屋で行われた宴は朝まで大騒ぎになった。

 その為、参加者は缶から溢れる気体の音には気付く事ができず喉が張り裂けるかのような感覚に襲われた。


 かぐや姫は途中で宴を抜けて時計塔にいた。

 ガチャガチャと時計を弄り目的の歯車を獲得したかぐや姫はタクトに連絡を取った。


「歯車獲得、今から帰還します」






 アリスの能力『幻想』。

 顔はもちろん服装から体型、果てには内臓まで完璧に他者に変装することが出来る。

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