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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章10話『視点変更(後編)』

「何だあの数……………」


 鬼たちは現れた船を指差し、口を揃えてそう叫ぶ。多くの鬼は恐れを成して逃げ出したが、それでも勇敢な物は金棒を前に構え臨戦態勢へと入った。

 勿論、闘志を見せた鬼たちは音も無く射殺され、その場に残るのは長く響く断末魔のみであった。


「これでぜんぶやっつけたかな?」


 ルカは逃げ出した鬼すらも追い、刀を持った右手を振りかざして呟いた。


「周辺、鬼の反応なし。タクト、次はどうするの?」


 シュルバはキーボードを叩きタクトの方をチラッと見る。


 タクトは依然として真っ黒い笑顔を浮かべている。

 口に手を置きクスクスと笑うタクトはあまりにも不気味で仕方がない。

 シュルバにもアルトにも、タクトが何を考えているかは分からない。


「そのまま真っ直ぐ進め、恐らく目の前の山の中に鬼の長がいるはずだ」


 タクトが発した一言を受信機から聴きとったルカは背中の加速器をフルパワーで起動し、一直線に目の前の山へと向かっていった。


 タクトはその間いくつかの指示を出す。

 その指示通りに動くルカは、山の中に小さな鉄の扉があるのを発見した。

 錆びているのか元々このような色なのか青黒くなっている重い扉をギギギッとゆっくり開く。


 扉の先に続く廊下は先が見えないほど真っ暗で道があるのか無いのかですら認識は不可能だった。


「待っててルカちゃん、今ファントムのライトつけるから」


 シュルバはPCの端からウィンドウを引っ張り出して下の方の項目をクリックする。

 はずだった。


「待て。ライトをつけたら鬼に気付かれる。ここはライトを使わない方が安全だろう」


 タクトはマウスに乗るシュルバの右手にスッと手を乗せる。


「え………でもこんな真っ暗闇じゃ…………」


 シュルバは腕をしまい、タクトに問う。


「大丈夫、僕に任せておいてよ」


 タクトはシュルバに向かってそう言うと、通信用のマイクを掴み声を出した。


「ルカ、その道を真っ直ぐに263歩進め」


 ルカは言われるがままに足を動かす。

 1、2、3、………………


 261、262、263


「右を向いて23歩歩いた後、前に向かってジャンプ」


「その後は真っ直ぐ25歩、その後頭を少し下げて左に96歩だ」


「今度は右に45歩、その後左に169歩」


 ルカはタクトの指示通りに暗闇の中を歩き回る。

 歩く以外の指示もあったが、特に気にすることもなく指示に従い道を進んだ。


 最後の169歩の内の160歩程の事だろうか。

 道の先から、僅かながら光が漏れているが分かった。

 ルカが光に手を伸ばすと、自然物のものではない文字通り不自然な冷たさが手のひらから伝わってきた。


 ルカはあっと気付いてそれを撫で回す。

 そして見つけた窪みに手をかけるとその手を横にずらす。


 溢れ出てきた光は眩しいくらいに感じた。

 やっと目を開けると、背後には先程と同じ青黒い鉄の扉。

 そして前方には全身が黒く染まった少し年老いた鬼と、金銀財宝の数々だった。


「よく来たな、桃太郎」


 黒鬼はのっそりと立ち上がり桃太郎を歓迎する。


「今の………どうやったんだ?」


「なん…………で…………………」


 シュルバとアルトはその光景に目を疑う。

 それは扉の先に黒鬼と大量の宝があったからではない。


 タクトが一切迷いもせずにルカを目的の部屋に辿り着かせたからだ。


「タクト……………貴方一体何者なの?」


 シュルバはタクトに体を向ける。シュルバの体はプルプルと震え、額からは冷たい汗が流れ出る。


「僕が何者か…………かぁ」


 タクトは腕を組み少し上を向く。


「今は……………元黒幕としか答えられないかな」


 タクトの返事に納得した訳では無いが、シュルバは「そう」と笑いながら小さく呟いてPCの前に戻った。



「貴方が鬼の長ですか?」


 ボイスチェンジャーを通して低い大人の男の声になったルカの声を聞いた黒鬼は大きく何度か頷いて答える。


「いかにも。私が鬼の長、黒鬼丸なり」


 桃太郎は黒鬼丸を目の前に刀を手に取る。

 鞘から僅かに姿を見せる鋼は周囲の光を跳ね返し、強い光を見せつけていた。


 にも関わらず、黒鬼丸は武器の1つも構えない。


「忘れてしまっていても、無理は無いか……………」


「え……………?」


 ルカは思わず声を上げる。


「懐かしいよ…………お前を助ける為にどんなに苦労した事か」


 ルカには黒鬼丸が何を言っているのか全く分からない。

 いや、それどころかシュルバもアルトも彼が何を言っているのかは理解できていなかった。


 そしてルカはある事を思いつく。

 ルカは自分の部屋にある黒いゴミ袋に目をやった。

 袋を開けると、生温い空気と生臭い匂いが部屋に広がる。その中を漁っていると目的のものを発見した。


「あった…………ももたろうののうみそ…………」


 ルカは血に塗れた両手に脳を乗せる。

 それを直ぐ様ある機械に入れた。


 モニターに現れる解析中の文字。それが解析完了に変わるまでは長い時間を要した。

 モニターに写し出された映像。それは地獄そのものであった。


「うぁぁあっ…………」


 画面の中央の鬼が苦痛な顔を浮かべる。その鬼はハァハァと息を切らせながら走っていた。


「なにか入れるものは……………あっ」


 鬼は何かを見つけたかの様に走り出す。


「この中なら……………くっ!」


 背後から聞こえる大きな音。

 鬼は見つけた物を開く。


「こうするしか無いんだ…………許してくれよ…………」


「桃太郎……………」








 しばらくしてルカは映像を止めた。


「思いだした…………思いだしたよ…………」


 ルカはマイクに向かってそう話す。桃太郎はルカと同じ事を呟き、刀をしまって黒鬼丸に近付いた。


「そうだったんだ……………そういう事だったんだ……………てことはあれも……………」


 アルトはルカから送られてきた映像を見てうつむく。


「あぁ。あの宝は元から鬼たちの物。鬼たちは人間が盗んでいった宝を取り返しに来た、ただそれだけだ」


「なのに僕達人間は如何にも自分たちが被害者の様に物事を作り替えて物語にしてしまう。完璧に鬼の方が悪だと言わんばかりに物語を組み立てていく。本当の悪は人間なんだよ…………」


 タクトはそう語る。


「ゆるせない…………ゆるせない!」


 ルカの中の何かはプツンと2つに切れ、またもう1つの何かはルカの体の中から溢れだした。


「さて…………ルカの能力、名付けるとしたら『複製』かな?」









「本当にこの奥に鬼の長が居るのか?」


「あぁ。前に通ったルートをもう一度辿ってきただけだから間違いなくここだろう」


 扉の外で村人がとてもワクワクしながら会話をしている。


「じゃあ、開けるぞ……………」


 村人が扉を開くと、目の前には眩い程の宝。

 そして、桃太郎の姿があった。


「なんだよ…………これ……………」


 そう、"200人の"桃太郎の姿が。


「アルト、ファントムの操縦いけそう?」


「まぁ何とかなるだろう」


 タクトの声にアルトが気だるけに反応する。


 ルカの能力『複製』。

 一度作った事があるものを無限に生み出す事が出来る。







「ルカちゃん、お疲れ様。これ、タクトがルカちゃんに渡せって」


 ルカはお菓子のいっぱい詰まった袋をシュルバから受け取った。

≪NGシーン≫

シュルバはキーボードを叩きタクトの方をチラッと見る。


シュルバ「イスラエルにとっととスピィィン!」


タクト「!!?」

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