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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章9話『視点変更(中編)』

「でーきたっ!」


ルカは満面の笑顔を浮かべて背伸びをする。部屋の中には目玉や心臓がいくつか転がっており、ルカの前掛けも血まみれになっていた。


「タクトおにーちゃん、できたよー」


ルカはSNSでタクトにそう伝える。

昼食のハンバーガーを咥えて最高管理室でキーを叩いていたタクトは、通知を見るやいなやルカの部屋に向かった。


「ルカ、入るぞ」


タクトは扉をコンコンと2回ノックした後、木製の扉を開き顔を覗かせる。


ルカはタクトの姿を見ると、ちょっとおどけながらもピースサインを前に突き出した。

ルカの隣に立っていたのは、桃太郎本人と言われても頷ける程完璧に桃太郎を再現した、桃太郎のファントムだった。


「これは…………文句の付けようが無いね」


タクトは桃太郎ファントムの腕の辺りを撫でるかのように手を置き、ファントムを念入りに見回した。

が、タクトがどこからどう見ても桃太郎にしか見えない。タクトはルカの技術力を改めて実感し、心躍らせた。


「これだけ完璧なら…………誰も気が付かないだろうね」


タクトはそう言うと、ルカに小さな赤い袋を手渡した。袋の中には、ルカの大好きなお菓子が大量に詰まっている。

ルカは上機嫌そうに袋の中からペロペロキャンディーを取り出して舐めはじめた。





「これより、作戦は第二段階に入る」


タクトが宣言すると、シュルバとアルトは背筋をピンと伸ばす。

今回の作戦に使うのは言うまでもないが先程の桃太郎ファントムだ。

作戦に参加するのは司令官のタクトとその補佐をするシュルバとアルト。


そして、ルカだ。


「今回のファントムは、ルカに操縦して貰いたいんだ。いいかな?」


少し前のタクトとルカの会話でこのような約束が結ばれていた。


「いいよ、その代わりお菓子いっぱいちょうだい!」


子供らしい可愛い契約内容だったが、それでこそルカだ。タクトは快く首を縦に振った。


「でも、なんでルカちゃんに?戦闘経験のないルカちゃんに任せて大丈夫なの?」


シュルバのその発言はルカに任せると作戦成功の妨げになると言う意味ではなく、作戦失敗時の絶望がルカの心を傷つけないか心配だというルカへの愛の表れである。

シュルバはこの作戦に入るまで一切ルカと会話する事がなかったのにも関わらずルカの事を心配している。


たとえどんな状況だろうと、仲間だけは大切にするのがシュルバと言う女探偵である。


ただ、タクトはその先を行っていた。


「大丈夫、ルカは絶対に勝つ。そんな簡単に、私利私欲の為に働く連中にだけは負けたりしない」


シュルバの気遣いはルカが負けた時に受けるショックを軽減しようとする気遣いだ。

だがタクトの気遣いは、まずルカが勝利をおさめることを信じ抜く気遣いだった。


タクトも一応は司令官。

アルタイルをまとめるリーダーとして、仲間の敗北の可能性は信じない。彼なりの仲間に対する思いやりなのかも知れない。

真っ黒く笑うタクトからは想像も出来ない。


「そうだね、今はルカちゃんを信じるしか無いのかも」


シュルバはフッとため息をついて静かに微笑んだ。


「さて、始めるか」


タクトは勢い良くエンターキーを叩く。

最高管理室に響くタンッと言う短い音、その音と共に戦いの火蓋は切られた。

ルカの操縦する桃太郎ファントムの転送先の小さな島。ルカはまず周りを見渡して自分の状況を確認する。


「あ……………」


力無い声と共にルカの目に入ってきたのは霧の中にそびえ立つ黒く険しい山。それが何かは誰でもわかるだろう。


「あれが…………鬼ヶ島…………」


船からファントムの映像を覗いているシュルバはあまりの存在感に思わず声を漏らした。

当たり前だが、昔話で読んだ鬼ヶ島より圧倒的にリアルで恐ろしかった。鬼の闘争心を鼓舞し、人間の恐怖心を煽るその見た目には隣にいたアルトも絶句する。


「ルカはあの中に突っ込んでいくのか」


アルトが鬼ヶ島を上から見た映像をモニターの隅に表示する。

どうやら鬼ヶ島の真ん中にある大きな山は火山になっているようだ。グラグラと燃えたぎる溶岩には鬼ですら近づかない。


「これは…………やばいな」


アルトが言葉を失うのも無理はない。

鬼ヶ島には数えるのが嫌になるほどの数の鬼が臨戦態勢になっていた。色は様々だが、全員いわゆる金棒を持っている。


「よしルカ、出陣だ」


タクトはキーボードの隣のマイクにそう声を送る。


桃太郎ファントムはコクリと頷き背中から灰色の何かを飛び出させる。それは真ん中に赤いエネルギーを溜め、大きな音を立てて燃え上がる。

それと同時に桃太郎ファントムは浮き上がり、遙か先にある鬼ヶ島目掛けて猛スピードで突っ込んでいった。


やがて鬼ヶ島へ辿り着くと、それを見た鬼の一人が叫ぶ。


「アイツだ!桃太郎だ!」


鬼は桃太郎ファントムを指差し周りをキョロキョロする。

周りの鬼たちは全員何事かとそちらを向き桃太郎ファントムを見るなり金棒を構える。


「悪い鬼さんはみんなルカがやっつける!」


桃太郎ファントムは腰に刺さる刀を抜き同じく臨戦態勢へと入る。

鬼ヶ島の海と陸で睨み合う両者、最初に仕掛けたのは鬼の方だった。

鬼は桃太郎ファントム目掛けて全力で走り出す。

鬼の振るう金棒はルカから大きく逸れて鬼は体制を崩してしまう。その隙をついて桃太郎ファントムが鬼の背中に刀を刺した。背中からは赤い血液が飛び散る。刺された鬼には苦痛の声を出すことしか出来なかった。


「やっぱり…………お前は俺達の敵か!」


鬼は声を荒げて叫ぶ。

桃太郎ファントムは刀を自分の前に構え守りの態勢に入る。


「お前ら!やっちまえ!」


鬼の一人が声を上げたと思うと、その場にいた全ての鬼が桃太郎ファントムに向かって走り出す。


「駄目だ!この人数じゃルカ1人に耐えきれるはずが無い」


アルトはモニターの映像を見て慌てだす。

その途中でアルトが何気なく見たタクトの表情。

シュルバはその表情を見て、全ての始まりを察知していた。


アルトにはその黒い笑顔がどういう意味を持つか分からない。

恐怖心を掻き立てられる様な黒いオーラは気づいたらアルトを包み込んでいた。

それが何と言う感情なのか、適切な表現は無い。アルトの知っている言葉でこの感情を表現するとしたらこうなるだろう。


「自分を見失う程深い絶望…………」




桃太郎ファントムはなんとか空中に逃げて鬼からの猛攻を耐え忍んでいる。

が、ブースターの上がれる高度には限界がある。それに、燃料だっていつまで持つか分からない。

そんな時だ。


「そろそろかな………」


桃太郎ファントムの背後を吹き抜ける一筋の風。

風の先にいた鬼は胸元から血を流し倒れる。

その風は次々と鬼に命中し、次第に鬼はばたばたと倒れていった。


「さんざん村で悪事を働いて人々を困らせていた鬼の軍団にたった一人の青年が向かっていったんだぞ?」


「常識的に考えて、後をつける村人が一人もいない訳が無いだろ」


深い霧の先に見えるは大量の船。

そしてそこから弓を射る男たちだ。


「桃太郎!俺達も手伝うぜ!」


気前のいい男が桃太郎ファントムに向かって親指を上に立てる。


「さぁ、絶望を始めよう」


タクトは腕を頭の後ろに持っていった。

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