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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章8話『視点変更(前編)』

「あれ?タクト来てないの?」


 朝、カフェスペースに来たシュルバが発した言葉は心底意外そうな声で放たれた。

 というのも、いつもならこの時間帯にはカフェスペースにいるタクトが今日に限っていない。

 特に用がある訳ではないが、少し心配になる。


「タクトならルカの所に行ったぞ」


 そう答えると、アルトはトーストにかぶりつく。

 トーストはサクサクと音を立ててアルトに吸収されていく。


「何だか………とても機嫌が良かった…………」


 そう答えると、レイナはラーメンをすする。

 ラーメンはズルズルと音を立ててレイナに吸収されていく。


「あ、なんだ。それだけか」


 シュルバは心配して損した。と、しゅんと肩を細める。


 シュルバはカフェスペース担当のファントムにトーストとコーヒーを注文してカウンター席へと付く。


「シュルバおねーちゃん、シュルバおねーちゃん」


 背中をつんつんとつつかれる感覚。

 シュルバが振り向いた先にいたのは見知らぬ男だった。


 シュルバは終始ぽかーんとしながら、何のひねりもない一般的な質問をする。


「………………誰?」


 男は虚ろな目をしてボーッとしている。


「いや、誰誰誰誰!?」


 シュルバは首を横にガクガクと振るわせる。


「ぷっ………アハハハハ!」


 今度は聞き覚えのある男性の声が男から飛び出る。


「えっ………た、タクト?」


 シュルバは男に顔を近づける。


「シュルバおねーちゃんビクビクしてたー!」


 今度は幼気な少女の声。

 この声もどこかで聞いたような感じがする。


 傍から見ていたアルトが立ち上がって近づいてくる。


「驚いたな…………この短期間でここまで精度を上げてくるとは」


 アルトは顎に手を置きコクコクと頷く。


「え?…………あ!」


 シュルバは男を指差す。


「これ、もしかしてファントム!?」


「そ。ルカが作った最新型のファントムデータベース。脳波操作から音声送信、AIの精度も上がってるよ」


 シュルバはほへーとファントムを見つめる。


「にしても、突然ファントムで遊び出してどうしたの?」


 シュルバはファントムに向かって問う。


「もちろん、次の作戦はこのファントムを使うんだ」




 さて、今や恒例行事となった作戦会議。

 今回はファントムを使ってルカも参戦する。


「今回、狙う歯車は『地の歯車』。これはどうやら鬼ヶ島の鬼の長の家に保管されているらしい」


 タクトは投影機の映像が映ったスクリーンに指を指しながら説明する。


「なるほど、ファントムを使って鬼を一掃する作戦だな」


 アルトが腰に手を置き言う。

 しかしタクトはチチチと指を横に振り、


「それじゃ面白くないだろ?ここはヒーローらしく桃太郎に鬼を討伐して貰おうと思う」


 アルトはタクトの説明に、なるほどと引き下がった。


「じゃあ、どうするの?今までの話を聞く限り、ファントムを使えるような所は無さそうだけど」


 アリスが手を横にやり、問う。


「それなんだが、1つ良い方法を思いついてね……………」


 タクトはその場の全員に説明した。


 タクトの作戦を聞いた者は一人残らず絶句した。


「マジで言ってんのかよ…………」


「流石に……………やりすぎでは………」


「タクトさん、遂に血迷いましたか」


 みんながそう言うのも無理はない。

 なぜならタクトが提示した作戦は、確かに少し効率が悪いが確実に目的を奪取することが出来るし、時間軸にも多大な損傷を与えることはまず無い。


 ただそれは、他者の予想の斜め上を独走し人間の道徳を完全に無視した、文字通り『人並外れた』作戦なのである。


「タクト……………いくら何でも背徳的過ぎて…………」


 シュルバは自分の体を抱きかかえるように腕を組む。

 そんなシュルバに安心を与えたのは意外な人物だった。


「大丈夫大丈夫!ルカにぜーんぶまかせて!」


 ルカだ。


 彼女はそれこそ工房に籠りっぱなしでタクトと荷物を持ってくるアテナ以外とは殆ど面識が無い。

 それでもルカは、タクトから話を聞いて少しずつ仲間のことを知るようになった。

 そしていつしか、仲間の力になりたいと思うようになっていったのだ。


「る、ルカちゃん?」


 もちろん、シュルバは残念ながらそんな事を知らない為ルカの発言に耳を疑う。


「なんとかなるよ!シュルバおねーちゃんは心配性だなー」


 ルカの笑い声が、ファントム越しに聞こえてきた。

 シュルバはまだ安心しきる事は出来なかったけど、ルカのここまでもの自信を見て今は気にしないことにした。


「さて、とりあえず作戦を開始してみないと何も始まらない。兎にも角にも桃太郎時間軸にファントムを送るぞ」


 タクトはPCを開き、カタカタとキーボードを打ち始めた。


 桃太郎。

 日本では子供から大人まで知らない人はいないであろう、「THE・昔話」である。


 ある所に住んでいたお爺さんとお婆さん。

 ある日お婆さんが川へ洗濯に向かうと、川上から大きな桃が流れてくる。お婆さんはその桃を持ち帰ることにした。

 家に帰ってその桃を割ってみると、中から元気のいい男の子が産声をたてて現れた。

 2人はその赤子を「桃太郎」と名付け自分の子供のように立派に育て上げた。


 一方、村では鬼が村中の金銀財宝を盗み出し鬼ヶ島へ集めているようだ。

 それを見た桃太郎は覚悟を決め、鬼退治の旅に出る。

 旅の道中、犬、猿、雉を仲間に加え鬼ヶ島へ到着。鬼の討伐に成功し村に金銀財宝を持ち帰った。


 子供の頃から良く聞いた昔話の為、大人になって一切桃太郎を見聞きしていないと言う人でも大まかなストーリーは脳内に記録されているだろう。


 今回潜るのは、そんな桃太郎の時間軸だ。



「ではお爺さんお婆さん。行ってまいります」


 村の中の小さな家の前で、日本一と書かれたのぼりを背中に差し刀ときびだんごを腰につけた青年が胸を張って育ての親に勇姿を見せつける。


「きっと帰るんだよ」


「無事でいてね」


 お爺さんとお婆さんはそんな桃太郎の姿を見て、ここまで育ってくれたことへの感動か、それとも桃太郎と離れ離れになってしまう事への寂しさか。

 そのどちらかは分からないが、折り畳んだ手拭いで潤む目を拭く。


 桃太郎は元気にはいっと返事をすると2人に背を向け山道へと歩き出した。


「ねぇタクト……………これ見てもあの作戦で行くつもりなの?」


 シュルバはタクトに悲しそうに問う。


「ここまで来たら、引き下がれないだろ」


 一切表情を変えないでそう答えるタクトを見てシュルバが言える言葉はただ一つだ。


「あぁ無情」




「さて、ここらで休憩とするか」


 桃太郎は丸太のある樫の木の下で休憩をとることにした。

 そこに現れた一人の女性。


「村の者です。桃太郎さんの勇姿に心を動かされました。あの、これよかったら食べてください」


 村娘はそう言って握り飯を桃太郎に差し出す。


「おお、これはかたじけない」


 桃太郎は大きな口で握り飯をほお張った。




 今回のタクトの作戦。

 誰もが言葉を失うタクトの背徳的すぎる作戦。


「まず桃太郎が一人の所を狙って毒か何かで彼をを傷つけずに殺害する。そしてそれを船に転送してルカに桃太郎そっくりのファントムを作ってもらい、それを操作して鬼を殺す」

≪NGシーン≫


男は虚ろな目をして"ボーッと"している。


シュルバ「この男…………不快ふかいッ!」

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