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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章5話『欲深き(前編)』

「さて、次の歯車はどれにしようか…………」


 そう言いつつ、タクトは片手でハンバーガーを食べながらPCを操作している。


 タクトは両腕共に義手だがルカの義手はとてつもなく性能がいい為、PCだって何の不自由も無く打つことが出来る。

 むしろ本人ですら、たまに自分が義手であることを忘れてしまうくらいだ。


「これは……………」


 タクトはある時間軸に目をつけた。


「次の歯車はコイツにするかな…………」


 タクトが目をつけたのは浦島太郎の時間軸だ。


 浦島太郎。

 海辺で子どもたちに虐められている亀を助けたお礼に竜宮城に連れられた浦島太郎はそこで絵にも描けない美しい光景を目にする。

 竜宮城には乙姫がおり、浦島太郎を歓迎した。


 そしてしばらく経って浦島太郎が地上へ帰ろうとした時、乙姫は「絶対に開けないで下さい」と伝え、浦島太郎に玉手箱を手渡す。


 地上に戻った浦島太郎。

 そこに、かつての仲間や家族の姿は無かった。

 街の人に自分の事を尋ねても知らないと言われ続けてしまう。


 その後玉手箱を開けてしまった浦島太郎は玉手箱の中から吹き出る煙を浴びてみるみるおじいさんになってしまった。


 と言うのが浦島太郎の一連の流れだ。




「で、この浦島太郎の時間軸なんだが…………」


 タクトは作戦会議の時、予想もつかない人物を指名した。


「シュルバとアリス、君たち2人に行ってもらいたい」


 2人とも、自分の顔を指差す。


「アリスとシュルバっち?なんで?」


 アリスは決して嫌そうでこそ無かったがタクトの意思が読み取れ無い様だ。

 それはシュルバでも同じ事だ。


「大丈夫。アリスの能力の開花はまだ先になりそうだけど、シュルバの能力は今回で花開きそうだからね。アリスにはシュルバの護衛を頼むよ」


 アリスは心なしか少し残念そうだったが、まぁシュルバを護る役割と聞いて悪い気はしなかった。

 そのシュルバはアリスに対して申し訳ないので気持ちでいっぱいだった。


 この2人は出会った当時から本当に仲が良かった。

 控えめなシュルバとテンション高めなアリス、正反対な2人だからこそ仲が良くなると言うのはよく聞く話だ。


 最近ではカフェスペースのファントムなんかも交えて雑談を繰り広げている。


 親から愛情を貰ってこなかった2人にとって、友達

 と言う存在はとても大きな物なのだろう。

 それは相手が人工知能であっても変わることはない。


「シュルバの能力は基本使う場面は少ないが、いざと言う時にとても有効的な能力だ。早めに開花させておいて損は無いだろう」


 タクトの、圧倒的な自信に満ち溢れた表情は同時に仲間全員を安心させる物であった。



 さて、浦島太郎時間軸。


 今回はシュルバが船から出るということでタクトの補佐はアルトが行っている。


 それはさておき、


「よし、おそらくあの子供達だね」


 アリスの指差す方向には2人の小学生くらいの子供がいた。


「あんぐらいの子供はイキって動物とかいじめちゃう可哀想な性格してんのよね…………」


 かつて、友達からのイジメにより飼っていたウサギを殺させられたシュルバにとっては非常に許し難い性格である。


 ギシシッと歯軋りをするシュルバを見て、隣のアリスは怖気づく。


 やがて子供達は亀の方向へと向かっていく。


 そして子供達は遂に亀をイジメ始めた。

 蹴ったり殴ったり石をぶつけたり……………人間にやったら犯罪レベルの物だ。

 まぁ人間にやらなくても楽勝で動物保護法に引っかかるが。


 その状況を10分程眺めていると、遠くの方から1人の釣り竿を持った男が歩いてきた。


 男は子供達を見るなり、釣り竿を投げ捨てて急いで走った。


 それに合わせてシュルバ達も走り出す。


「おい子供達!亀をイジメてはいけない!」


 浦島太郎はひ弱な声で子供達に怒鳴る。


「うるせぇ!すっこんでろカス!」


 子供達は浦島太郎に暴言を吐いてイジメを続ける。

 浦島太郎は何度も忠告を続けるが、子供達は一切聞かなかった。


「そうよ、亀をイジメてはダメよ?」


 そこにシュルバが大人の雰囲気を醸し出しながらやってきた。


「あぁ!?何だお前!女の癖に調子乗んなよ!」


 隣にいたアリスは大切な友達が暴言を言われていてムッとした。

 しかしシュルバは至って冷静に、


「あらあら、お姉ちゃんの言う事聞かないなら…………」


 シュルバの姿が消えた。


「私が貴方のことイジメちゃうよ?」


 子供の1人の背後に現れたシュルバは子供の首筋をナイフでスッと斬る。


 切り口からはドクドクと血があふれ出す。


「ひ………ひやぁぁぁぁあ!」


 子供は全力でその場から走り去っていった。

 他の子供は笑いながらそれを見ていたが、急に顔色が変わった。


 走っていった子供は、次の瞬間力無く倒れてしまったのだ。


「あれ…………毒の調合の割合間違えたかな?」


 シュルバはナイフの先をツンツンと触りながら言う。

 瞬く間に子供達は逃げ出した。


 亀はシュルバに驚きながらも、


「3人とも、お助け頂きありがとうございます!お礼に竜宮城へとご案内します!」


 シュルバはあくまで自然に振る舞ったが、心の中では計画通りと笑っていた。


 さて、亀から水圧無効及び水中呼吸可能のネックレスを渡された3人は亀の背中に乗って海へと入っていく。


 スキューバダイビングをした事があるだろうか。

 あれよりも美しい情景が3人の目には映っていた。その3人の中でも一番テンションが上がっていたのはアリスだ。


「シュルバっちシュルバっち!見てあれ!マンタじゃないかな!?」


「エイだね」


「シュルバっちシュルバっち!見てみて!でっかいイカいるよ!!」


「ダイオウイカだね」


 アリスのテンションの上がりようと言ったらそれはもう…………。

 城から一歩も出ることを許されなかったアリスから見たら、平和なこの世界は不思議な事で溢れているのかも知れない。


 まさに"不思議の国のアリス"である。


 そしてシュルバはダイオウイカのくだりの辺りで、あることに気がついた。


「もうそんなに深くまで来てるのか……………」


 そういった矢先、海の底に何かが見えてきた。


「皆さんお待たせ致しました、あれが竜宮城です」


 海底とは思えないほど立派な建物。

 看板に書いてある文字を読むことは出来ないが、派手な装飾や周りの雰囲気からしてそこが竜宮城であることに間違いは無さそうだ。


 ある程度竜宮城の中を進むと、大きな部屋に出た。


「なんだ………ここ………」


 浦島太郎が言うと、中の人物がこう返した。


「ようこそ、竜宮城へ」


 そこにいたのは、背中に大きなヒラヒラを付け、和服とも洋服とも言いづらい派手なドレスを着た美人女性だった。


「私は乙姫。この竜宮城の長をさせて頂いています」


 その時だ。

 シュルバの体内に今まで経験した中でも最大級の違和感が走った。


「まさか……………」


 シュルバはよく考えた。

 アリスは事態を察知し、シュルバに声をかける。


「また…………あれ?」


「うん…………しかも、アリスちゃんの事を見破った時と同じくらいの……………」


 シュルバはそこまで言って気がついた。


「私の遣いの亀をよくぞ助けてくれました。ささやかながら歓迎を…………」


「ちょっと待ってください」


 シュルバは乙姫の発言に割り込む。


「貴方、本物の乙姫様では無いですね」

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