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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
2章『踊れや英雄、唄えや歯車』
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2章2話『復讐(前編)』

「早速だが、1つめの歯車を入手しに行こうか」


 タクトはそう言いながらPCを開いてカタカタとキーボードを打ち始めた。


「今回の舞台はここだ」


 タクトが指差したのは森の中。

 その中でも川の近くで動物と戯れている1人の屈強な男を指差した。

 その男は、大きな斧のような物を担いでおり赤い前掛けをつけている。


 シュルバはそれが誰だかすぐに分かった。


「この人、もしかして金太郎?」


 タクトはコクリと頷き、


「その通り、コイツは金太郎だ。で、歯車なんだが…………」


 タクトはまたキーボードを打ち始め、しばらく経ってからある画像を見せた。

 その画像には大きく金太郎が映っている。


「金太郎の首元に注目してくれ」


 全員、金太郎の首元に目を近づける。

 金太郎の首には、赤い前掛けのせいで気が付かなかったが炎を象ったような突起の6つある平たい物が首飾りのように掛かっていた。


「見ての通り8つの歯車の1つ、炎の歯車は金太郎が所持している」


「だとしたらかなり厄介な事になるわね………彼の性格上、すんなりと渡す訳も無いし」


 シュルバは顎に手をついて考える。


「あぁ。金太郎を殺して奪い取ることは容易いが、あくまでスマートに行きたい。そこで、ある作戦を考えた」






「おりぃゃぁあ!またオラの勝ちじゃぁ!」


 深い森の中、金太郎は熊と相撲を取っている。

 熊には勝てないだろと馬鹿にされた金太郎だったが、その熊は1分も、いや10秒も経っては居られなかった。


「はぁ〜つまらんのう……………もっと強い奴は居らんのか」


「いるぞ、ここに」


 腕を組んで草原に寝そべる金太郎に挑戦状を叩きつけるのは刀を背負ったヒロキだった。


「おぉ?オメェオラより強えのか?」


「あぁ。きっとな」


 金太郎は目を輝かせる。

 相撲最強と呼ばれた金太郎は自分を超えると豪語するヒロキの存在に心躍らせていた。



 最強。


 何を持って最強と言うかは人によって異なる部分はあるが、誰もが一度は目指す場所。

 誰よりも強くなりたいと言う強い思い。

 人間は日々がむしゃらに王の座を狙い、傷つき傷つけながら現代社会を生きている。


 ただ、玉座に座った瞬間訪れるのは圧倒的な孤独のみ。

 先程までの熱い気持ちは微塵も感じられず、まるで氷水をかけられたかのように感情が無くなっていく。

 他者からも恐れられ続け誰とも関わらないままたった1人で玉座に座るその姿は廃人に近いのかも知れない。


 頂点と言うのは、辿りつくのも辛ければ辿りついた後も辛いものなのである。


「よっしゃあ!オラ、お前と相撲するぞ!」


 そんな金太郎に、ヒロキの登場は偉大なものだった。


「良かったよ。君が勝負を受けてくれて」


 ヒロキは片手を横にやり、ニコリと笑った。


「じゃあ、僕が負けたら…………」


 ヒロキは背中を指差して言った。


「この刀を君にやる」


「「はぁぁ!!?」」


 驚いたのは現地の人間ではなく最高管理室の2人だった。


「え!?あの刀ってお姉さんの形見なんでしょ!?嘘でしょ!?」


「おいヒロキ正気かよ!!?今すぐ戻らせた方がいいんじゃないか!?」


 シュルバとアルトは必死にタクトに訴えかける。

 当のタクトは腕を組んで微笑んでいる。

 全く変わりなく落ち着いていた。


「まぁ見てなって」




「そのでっけぇのくれんのか!?お前良い奴だな!!!」


「だがその代わり」


 ヒロキは金太郎を指差して宣言する。


「君が負けたら、その首飾りを頂戴させてもらう」


 金太郎は首飾りを持ち上げて言う。


「これか?いいぞいいぞ!」


 金太郎は気前よく返事をする。


 さて最高管理室。


「確かにヒロキは今までペルセウスを皆殺しにしてきたし、前の人生でも勇者を次々と殺して行ったって聞くけどさ………いくらなんでも未経験者に金太郎相手に相撲を取らせるのはどうかと思うけど……………」


 シュルバは不安そうにタクトに語りかける。


「大丈夫だ。確かにアイツは一度も相撲をとった事が無い。でもな、"ある技"を使えば金太郎にも勝てるんだよ」


 タクトは一切心配していない様子だ。

 シュルバとアルトはその姿を見て安心こそしたが、不思議でならなかった。


「見逃すなよ、ヒロキが金太郎を秒殺する瞬間を」


 はっけよーい……………………。


 のこった!

 パン!


 …………………え?しょ、勝負あり!


「「はぁぁ!?」」


「えっ……ちょ………何が起きたの!?」


 あたふたするシュルバに対してタクトは無情にも、呆れたようにこう言う。


「おいおい、見逃すなって言ったろ?」


「いや、見逃さないように気をつけてたけどさ!」


 モニターに映るのは泥まみれで笑う金太郎と服を一切汚さず立っていたヒロキだった。


 問題ははっけよーい、のこった!の掛け声と同時に勝負が決まったことである。


「相撲には技みたいな物があるんだけど、ヒロキにはそのうちの1個の誰にでも出来るやつをやってもらった」


 アルトは終始ポカーンとしているが、シュルバは気がついた様だ。


「もしかして、ヒロキは金太郎相手に"ねこだましを使った"の?」


 タクトはニヤリと笑みを浮かべる。


「金太郎が、猪突猛進な攻撃タイプなのは見れば分かった。だからこそ、ねこだましを使ったんだ。突っ込んでくる相手を避けてねこだましを打てば相手はバランスを崩して倒れるはずだからね」


 ただ、タクト自身ここまで作戦が上手く行くとは思わなかった。

 彼の表情からはそう読み取れた。


「たっはー!まさかあんな簡単に負けちまうなんて思わなかったぞ!」


 金太郎は負けたのにも関わらず泥まみれの顔で大笑いしている。


「おっと、そうだ!」


 金太郎は思い出したかのように前掛けの中を漁り始めた。

 金太郎が前掛けから取り出した物は夕暮れの光を反射して赤く光った。


「約束通り、コイツはお前にやる!森にはこんなに強い奴がいるって知る為だと思えば惜しくねぇさ」


 ヒロキは炎の歯車を快く受け取った。


「次会えるかはわかんないけど、強くなったらまた会おうな」


 ヒロキの優しい笑顔に、金太郎はガハハハハ!と大声で笑い、おう!と威勢のいい返事を返した。



 ヒロキが船に帰る準備をしている時だった。


「ゴブリンめ!逃さないぞ!」


 前方から聞き慣れない声が飛んできた。

 ヒロキがそちらを向くと、そこには剣を構えヒロキを強く睨む男がいた。


 ヒロキは相手にせず帰ろうと考えていたが、胸元のバッジが視界に入り、そんな気も失せた。


「貴様…………勇者だな」


 ヒロキは刀を抜く。




「アテナ、あれはペルセウスじゃないのか?」


「どうやら、ペルセウスでは無いようですね。あれは街の勇者でしょうか」


 タクトの問いに対してアテナは一切表情を変えずに答えた。


「どうする?今ここで私たちがヒロキを殺害して強制的に帰らせることもできるけど」


 シュルバはタクトに提案する。


「いや、いいんだ。むしろこちらとしては好都合なくらいだ」


 タクトは真っ黒な笑顔でシュルバに返した。


「貴様らだけはここで殺す!絶対に生き残らせない!」


 勇者の声に耳を貸さず、ただ息を荒げるヒロキ。

 刀の先から垂れる血液はヒロキの怒りと溢れでる闘志を表しているかの様に真っ赤に染まっていた。

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