2章1話『2歩目』
「さて、これで最大限仲間は集まったな」
アルトが仲間になった直後、全員を最高管理室に集めたタクトは腰に手を当てて言った。
勇者殺しのヒロキ。
元探偵のシュルバ。
人形技師のルカ。
元影武者のアリス。
暗殺者のレイナ。
天才詐欺師のアルト。
そして元黒幕のタクト。
7人のアルタイルは時空神アテナの名の下にこの船に集まった。
識別番号29695835番は偶然か必然か、彼らを一つに束ね上げた。
個人個人の理由はバラバラではあるが、目指す場所は同じ。
全員の目線の先にはある一筋の光が差していた。。
世界を作り直す。
小学生がイキって言っているような、実に現実味を帯びていないこんなたった一言を信念に何度も死を乗り越えてきた彼ら。
そして今この瞬間、彼らの物語は新しい1歩を踏み出す事になる。
「7人の僕が世界を作り直すまで続くこの長い戦いは、今新たな目標に向けてスタートを切る」
誰もがタクトに釘付けになった。
アルタイルの始まりの1人であるタクト。
船で多くの殺人事件を操っていた元黒幕の彼は、残り6人のアルタイルを1箇所に集めた。
彼をリーダーと呼ぶには無理があるかも知れない。
普段は温厚で気の利く好青年だが、一度敵と相まみえれば真っ黒い笑顔で敵を欺き自分の目的を達成する。
仲間をまとめ、誰にでも優しく振る舞う。そんなリーダー像とはまるでかけ離れている。
タクトはアテナの方を見て小さく頷き、アテナはタクトからのアイコンタクトを受けて1歩前へ出る。
「まず、私達の最終目標は全時間軸の崩壊及び再構築です。その為にまずは世界の崩壊を目標として掲げることにします」
アテナは大きめの投影機を用意して、PCの前に座った。
天井から吊るされる白い紙に画像が映し出された。
「その為にはいくつかの時間軸を大きく崩壊させる必要があります」
「予めヒビを入れて壊しやすくするって言う魂胆か」
アルトの発言にアテナは頷く。
「でも今のままでは、どんなに時間軸を壊そうと頑張っても時間軸は自然と直っていってしまいます。まさか世界の再構築に私が加担するとは思わなかったのでそう言ったシステムを作ってしまいました」
アテナは、人間とは面白い物ですね、と言った顔をしていた。
初めてタクトと出会った時も、タクトに対して『人間の進化は我々の予想域を軽く超えてきた』と発言している。
アテナは神である自分の予想域を軽く超えてしまう人間に興味が湧いて仕方ないのだろう。
アテナの発言に対してシュルバが言う。
「つまり、そのシステムを破壊すれば崩壊した時間軸は自然と直ることは無い……………」
非常に的確に物事の核心を突く一言だった。
アテナは更に続ける。
「そしてそのシステム"護り手"は神が生み出した使い魔のような存在です。もちろん、生命を持っています」
そこでレイナは気がつく。
「その護り手を殺すのが……………私達の次の目標………………」
タクトは首を横に振る。
「正解といえば正解なんだが、残念ながらまだその段階までは行けないんだ」
アテナはまたもやタクトのアイコンタクトを受けて説明を再開する。
「その護り手を殺害する為には、当たり前ですが護り手の所に行かなければなりません。そして護り手は神の存在。この世界のどこを探しても存在しません」
「そこでコイツだ」
タクトは全員の背後を指差す。
タクトの義手の人差し指の先には転生機があった。
「コイツには『闇の歯車』ってのが組み込まれてる。どうやら、神が生み出したものらしい。そしてこの歯車は闇の歯車を含めて全部で8つあるんだ」
「そして8つ集めるとコイツが動かせる」
タクトが指差したのは最高管理室の鉄の扉。
タクトは重い扉を力いっぱい押し、扉を開いた。
扉の先のジメジメした薄暗い倉庫のような部屋。
その奥には、今の時代の物とは思えないほど美しいデザインを施された大きな時計のような物が置いてあった。
「これは時空間転送装置と呼ばれる物だ。アテナがここに設置した物だが、動きさえすれば文字通り、時空間を転移することができる」
「ペルセウスも転送装置を持っているし、転生機にもその機能がついているが、それとはレベルが違う。コイツはありとあらゆる全ての時間軸、つまり神の領域にも転送出来る規模のものなんだ」
タクトは手でポンポンと時計を叩く。
時計の木の部分はタクトの義手と当たってカンカンと軽い音を立てる。
「次の目標はコイツを動かす為の歯車探しだ」
タクトは全員の方を向いて宣言する。
「で、その歯車の場所は分かってんのー?」
アリスの質問に対する回答をタクトはアテナに任せた。
「この世界には普通では見ることすらできない幻の時間軸が存在するんです。本当は存在しないのに、存在を語り継がれてきたが故に本当にその時間軸が形成される現象によって生まれた時間軸が」
「これには僕も驚いたよ。今まであり得っこしないと思っていたものがあり得たんだからね」
シュルバは少し考えてから、例の如く仮設を一つ立てた。
「もしかして、童話?昔から長く語り継がれてきた童話や昔話の時間軸が存在すると言うの?」
シュルバの察しの良さには本当に頭が下がる。
「そうだ。歯車は童話の世界に存在する。アテナ曰く、歯車は他者に強奪されてはならない物だから童話の世界に封印して、必要な時にすぐ回収できるようにしたらしい。神自身に代わりとなるもう少し大型な時空間転送装置があってもおかしくは無いだろうしね」
ヒロキはあることに気が付き、恐る恐る聞いた。
「もしかして俺達は、童話の世界の英雄と刀を持って殺し合わなきゃいけないと言うことか?」
「まぁ、状況によってはそうなるね」
一同は騒然とする。
「でも、大丈夫。僕とアテナとシュルバが完璧な作戦を立てておくから」
タクトは3人の方を見て頷く。
アテナはニコリと笑って頷き返し、シュルバもあたふたしながらコクコクと頷く。
シュルバは突然自分の名前が出てきて困惑していた。
が、戦うよりはマシか。と納得してしまった。
おおかた説明し終わったタクトは改まって全員に宣言する。
「僕達はこれから、歯車の強奪へと向かう。相手はおとぎ話の英雄。楽な戦いにはならないだろう。でも、僕達が世界を作り変えるには絶対に必要な戦いだ。それを邪魔しようとするなら英雄だって容赦無く殺す」
あまりにも冷酷無比な一言を言ったあと、タクトは絶対的なカリスマ性を放つ。
「いいか、この戦いは世界の為でも神の為でもましてや僕の為でも無い。君達はあくまで自分の欲しい世界を掴むために戦え。君達の戦う理由は常に自分自身が握っている。それを絶対に忘れるな」
タクトのその一言は、アルタイルの士気を高めた。
戦う理由を持つ者たちは、歯車を手に入れるため英雄相手に剣を抜くのであった。
この先どんなに大変な戦いが待っているか分からない。
それでも彼らは理想を現実に変えるためにおとぎ話の世界へと足を踏み入れるのであった。




