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5章36話『再会』

「おはよ。調子どう?」


 アリスの出迎えにヒロキが答える。


「前とは比べ物になんないくらいだ。やっぱ1回ちゃんと診てもらうべきなんだな」


 ヒロキは満面の笑みを浮かべながら腕を回す。

 今朝退院したヒロキは2日ぶりの再開に喜び、この2日間の目撃者になれなかったことを悔しがった。


「ヒロキのHPもちゃんと正常な値に戻ったそうだよ。だからといって無理に働かせるわけには行かないけどね」


 矢野は診断書をそっとテーブルの上に置くと、空いた椅子に座った。


「さてと、全員揃ったことだし…………」


 シュルバは大きく伸びをする。


「話してもらおうか、昨晩のこと」


 全員の視線がレイナに向く。まるで銃口を向けられているようなピリついた空気感に怖気づくながらも、レイナは口を開いた。


「昨晩……私とアリスはVG団のメンバーと名乗る少女……チェリーと交戦した」


「またVG団…………一体何が目的なのでしょうか」


「目的といったらまぁ、私なんだろうね」


「あぁ……チェリーも出会うや否や『シュルバを出せ』と要求してきた……狙いは間違いなくシュルバだ…………」


 打って変わって、今度はシュルバに視線が向く。当のシュルバは珍しく難しい顔をしていた。

 その議題のズレを戻すように、レイナはまたもや口を開いた。


「伝えるべき情報は……4つだな」


 レイナは人差し指を立てた。


「1つ目……私達がチェリーを殺す寸前……ゴーストが現れた……。ゴーストは気を失ったチェリーを担いで夜闇に消えていった…………。だから……あの2人がまだシーアナザーにいる可能性が高い……」


「狙いが本当に私だけならまだしも、そうじゃないなら一般人が被害を被るかも知れない」


 それは避けなければならない、と頭を抱えるシュルバ。


「霧島さん、ペルセウスを派遣してシーアナザーを警備させることはできますか?」


「そうしたいところですが、もしVG団が我々を狙っていることがペルセウス内に広まったらロストチルドレンがVG団に加担する可能性もあります」


「団長が下手に動くのは、賢い選択とは言えないねぇ」


 するとアルトが言った。


「なら、ファントムを送るか?VG団を殺すことぐらいなら俺の能力を使わずともできる。そもそもシーアナザーにだってそれなりに人はいるわけだし、目立った行動はしないだろ」


「そうだね。じゃあシーアナザーはファントムを送って対策を取るということで」


 一段落ついたところで、レイナがまた口を開いた。


「2つ目……チェリーとの戦闘中私は新たな能力に目覚めた……」


 レイナは『虚無』の効果、そしてその代償について語った。


「なるほど、敵を無力化できるのは非常に便利ですが使いどころは考えなければなりませんね」


「ちなみに……私はもう目が見えてる……。あの後あえて転送装置を使わず死んで船に戻ってみたら……案の定視力は戻った……」


「一度死ねば『虚無』の代償は消える。てことは逆に、レイナが死んだら相手の能力も戻ってしまうかも知れないのか」


 ヒロキの鋭い推理で場の空気は少し重くなった。


「3つ目……KILLERを縛っていた鎖が壊れた……」


「え、それ大丈夫?ペルセウスの骨董品だよね?」


「本体ならまだしも、鎖だけなら大丈夫さ。だろ?団長」


 矢野がそう言ってふと霧島の方を見ると、霧島は満足げに笑みを浮かべていた。

 霧島は矢野に頷き、


「鎖が破壊されたということは、KILLERがあなたを認めた証拠…………とは言い切れませんが、少なくとも私なんかが持つよりかはレイナさんが持っていたほうがKILLERを生かせるでしょう」


「……霧島さんがそう言ってくれるなら…………私は責任を持ってこの銃を貸していただきます…………」


 レイナはマスクの下で笑顔を見せ、霧島に礼をした。

 顔を上げると、レイナは先程とは打って変わって真剣な表情になった。


「そして……4つ目だ…………。VG団のチェリーは……吸血鬼の血を所有している……」


 最後の最後に、とんでもない発言が飛び出した。


「……要するにチェリーは吸血鬼ってこと?」


「そうとは言い切れない…………吸血鬼の血は一般人に注射することで……ある程度耐性がある人間を吸血鬼にすることができる……チェリーがその血を手に入れていればチェリーが吸血鬼になっていてもおかしくはない……」


「ってことはその吸血鬼の血の入手ルートを探れば、吸血鬼……すなわち田口椿希の情報とVG団の情報が同時に手に入るかも知れない!」


「今後の目標はそれですね」


 霧島がそう言うと、シュルバが立ち上がった。


「とりあえず、今日のところは解散しようか。ヒロキも退院したばっかだし無駄に動くのは良くない」


「わりぃ。サンキュな」


 シュルバが頷くと、各々立ち上がって最高管理室を後にした。


 シュルバも自室に戻ってノートパソコンを開く。


「吸血鬼の血…………あの人、何か知らないかな?」


 シュルバはカタカタとキーボードを叩く。

 Enterキーを強く叩いてから約20分。


「ビンゴ♪」


 シュルバは唇を舐めた。

 彼から送られてきた情報は非常に興味深く、なおかつ恐ろしいものだった。こんな情報が公になっていないことに戦慄しながら、彼に料金を払った。


 翌日13時、シュルバは昼食の時間に霧島とクロノスも呼んで次の作戦を発表した。


「昨日DATABASEからとある情報を買った。吸血鬼の血についての情報を」


 辺りが少しざわつく。


「吸血鬼の血はどうやら注射器に入った状態で密売されているみたい。アタッシュケースに入った血液入りの注射器を売る女性の目撃情報があるらしい」


「それはどこで?」


「密売が目撃された国の名前は、レインヴェデン。アリスちゃんならピンと来るんじゃない?」


 アリスは心底驚いたような表情を浮かべていた。


「レインヴェデンは、アリスの国だよ」


 アリスがそう言うと、みんな一斉にバッとアリスの方を向いた。


「私がDATABASEから買った情報によると、レインヴェデンでは最近治安の悪化が目立ってるらしい。その影でどさくさ紛れに吸血鬼の血が密売されている、とのことよ」


「まぁどちらにせよ、レインヴェデンに行かないことには始まらないだろ」


「そうね、レインヴェデンの人に聞けばDATABASEから買うよりずっとタイムリーな情報が得られるだろうし」


 と、そこまで言うと霧島が「ごめんなさい」と言った。一瞬時が止まったように全員が固まり、視線が霧島に集中する。


「私は、レインヴェデンに行くことはできません」


 霧島は申し訳なさそうに視線を落としながら言った。


「それは……どうして?」


「オルフェウスの指示だったとはいえ、私達ペルセウスはレインヴェデン王宮を襲撃してしまった。今更合わせる顔がありません…………」


 それを聞いたアルトは決まりが悪そうに言った。


「ま、そうだろうな。前はそうでなかったとはいえ、今は霧島さんがペルセウスの長。謝罪するつもりがあったとしても何をされるかわからない」


「自分勝手な要求だとはわかっていますが、ご容赦ください」


 霧島は深くお辞儀をする。

 その様子を見て、その場にいた全員は何も言えなくなった。


「仕方ない、今回は葵ちゃん無しで行くしかないか」


 シュルバは気まずそうにそう言った。










「よっと…………ついたのか?」


「みたいだな」


 レインヴェデンの広場に6人が集結した。レンガ造りの洋風な建物に囲まれたこれまたレンガ造りの床、近くの木に止まる鳥がさえずっている。

 この様子だけでは治安が悪いとは思えなかった。


「そもそも、なんで治安が悪化したんだ?」


「わかんないけど……アリスがこの国にいた時は治安が悪いなんて噂は聞かなかったよ」


「謎だな……」


「とりあえず、どこか拠点にできそうな宿を探そうか」


 シュルバがそう提案すると同時にどこからともなく怒号が聞こえてきた。


「まだこの辺りにいる!逃がすな!」


 その声は太い男の声なのにハッキリと聞こえるほど大きかった。


「犯罪者でも逃げたのか?」


 なるほど、どうやら本当に治安が悪いみたいだ。とヒロキが思った瞬間。


「ひゃっ」


「きゃっ」


 アリスの背後からアリスより少し背の小さい少女がぶつかってきた。

 少女は黒いフード付きのコートを着て、目元までフードで隠れていた。

 少女はゼェゼェと息を切らせながら言った。


「ご、ごめんなさい…………」


「あ、いえ、こちらこそ……」


 少女は硬直した。


「もしかして…………アリス・イミテイション、さん?」


「え……どうしてアリスの名前を…………」


 少女は何も言わずに黒いフードをゆっくり取った。

 その様子を見ていた一同は目を見開いた。

 しかし一番驚いているのはアリスだった。まさかこんなところで再開するとは思っても見なかった。


「イリス……!」


 そこに立っていたのは紛れもない、アリスの妹、イリス・イミテイションだった。

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