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7人の僕が世界を作り直すまで  作者: セリシール
1章『集え彦星、女神の下に』
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1章11話『誰も私を見てくれない(前編)』

 タクトが目を覚まして最初に耳にしたのはピチャピチャと窓を打つ水の音だった。


 決して爽やかとは言えない雨の日の朝、タクトは1階のカフェスペースへと向かった。

 コロシアイゲームをしていた時はよく利用していた場所だが、最近はめっきり使っていなかった。

 というのもカフェスペースでコーヒーを淹れる事が出来る人間がいなかったからだ。


 そんなカフェスペースも、今ではルカ特製の家事ファントムのお陰でかつての光を取り戻した。

 かつての光と言う表現が合っているかは気にしないお約束である。


 階段を降りた先のカフェスペース。

 そのガラスの扉の向こうにはシュルバとアリスがカウンター席で楽しそうに談話しているのが見えた。


「あれ?2人とも早いね?」


 タクトは眠そうな目を擦り語りかける。

 時計はまだ朝の6時45分を指している。


「昨日の夜から詐欺りまくってたの。そしたらアリスちゃんが来てさ」


 シュルバはどの人生でも徹夜が得意な人で、この人生でも頻繁に徹夜して詐欺や転生機の整備を行っている為、タクトは特に気にかけなかった。


「じゃあ、アリスは?」


「アリスは影武者やってた時から遅寝早起きが常識だったんよ、こっちに来てその必要は無くなったけど癖が抜けなくてさ」


 王女の影武者なんだから常人とはかけ離れた生活をしていてもなんの不思議も無いので、こちらも特に気にかけることはなかった。


「とりあえず、コーヒーとトースト頼むよ」


 タクトはカウンターの向こう側に向かって声をかけた。


「はい、少々お待ちを」


 ファントムは優しい女性の声で応答した。





「さて次のアルタイルだが」


 タクトは全員をカフェスペースに呼び、作戦会議を行った。


 今回のアルタイルは「No Data」。

 また例の如く名前の部分だけデータが存在しないアルタイルだ。

 他のデータの情報を元にすると、どうやら少し先の未来のフランス王宮にいるらしい。


「とりあえず出発の準備を…………」


 ヒロキが準備をする為部屋に戻ろうとすると、


「待て」


 タクトはそれを引き止めた。


「今回の時間軸には僕とヒロキ、それとシュルバの3人で行く」


 それを聞いたアテナは頭を悩ませた。


「大人数で行っても、リスクが上がるだけでは?」


 それに対してタクトはニヤリと笑った上でこう返す。


「今回は、僕とシュルバがいないとアルタイルを殺せない。特にシュルバはかなり重要なポジションになるだろう」


 シュルバはタクトの言うことを何となく理解できた気がするが、シュルバ自身ポジティブな思考では無いためそれを打ち消した。


 アテナはタクトの言う言葉の意味が分からなかったが、タクトの事だから何か考えがあるのだろうと流していた。





「ようこそおいでなさいました。対面の間にて王様がお待ちしております」


 タクト達はスマホ画面を使用人に見せ、王宮の中に入っていった。

 フランス王宮でも、暗殺者が日々王を狙って襲い掛かってくるとの事で国中を大騒ぎさせている。

 最近では国王が次々と変わってしまい、政治にも大きな影響を与えているようだ。


 そんな状況下の中でも王室がタクト達の入室を簡単に認めたのはアリスのお陰だろうか。


 フランス王室は200年程前から転送装置の開発のため時空間移動の検証実験を続けているようだ。

 その中でどうやら時間軸の研究も行っている様で、時代的にはほぼ一緒な魔王イリスとは面識があったそうだ。


 これもペルセウスやタクト達アルタイルのせいで時間軸がねじ曲がってしまった結果起きた事なのだろうか。


「これはこれは………よくぞお越しなられた」


 重い扉を開けた先の対面の間にたった一人でいたペコペコとお辞儀をするフランス国王。

 それに一度のお辞儀で返すタクト達。

 白基調な部屋はよく片付いており、自分の家だと言えば何もねぇなと笑われるだろう。


「どうぞ、お座り下さい」


 言われるがままにソファに座る3人。

 それから少し遅れてフランス国王が反対側のソファに座る。


 テーブルの上に置かれている紅茶からは湯気が出て、揺らいでいる。

 ゆっくりと紅茶を飲むシュルバとヒロキ。


「早速ですが、国王様はどうやら暗殺者に狙われていると耳にしました」


 最初に切り出したのはタクトだった。

 国王は深刻そうな顔で語りだす。


「えぇ…………。朝起きたらベットに刃物の痕があるなんて日常茶飯事ですよ。2週間前に亡くなった前国王も暗殺されましてね…………翌日に暗殺者が捕まって良かったですよ」


 言われてみれば目の下に大きなクマがある。

 不安で眠れなかったのだろう。

 タクトとヒロキは何も感じなかったが、シュルバはすぐに反応した。


「今の話、本当ですか?」


 険しい顔で国王を見つめる。

 タクトがシュルバを見ると、シュルバの腕は鳥肌が立っており両腕で自らを抱くかの様にして震えている。

 タクトはそのシュルバの様子を見て、事態を察知した。


「大変失礼ですが……………"暗殺者は本当に捕まったんですか?"」


 それを聞いた国王はまたもや深刻そうな顔でシュルバを見て、こう返す。


「実は…………もう既に王族の者が6人も殺害されているのに、防犯カメラに何も映っていなかったんですよ」


 タクトはやっぱりかと手で口を覆い囲むように塞いだ。


 前回アルタイルを仲間にするため魔王イリスに会いに行った時、突然シュルバはその時間軸に行きたいと言い出した。

 そこでシュルバは見事にイリスが本物ではなく影武者であるアリスであると見破って見せた。


 その時も、シュルバはこう言っていた。


「何か、あの魔王様が出てきてから体がピリピリするって言うか、何か嫌な感じがするの」


 シュルバは元探偵。

 探偵だった頃の癖なのか何なのか、いい意味でも悪い意味でも相手を欺こうとしている嘘を聞くと体が拒絶反応を起こす様だ。


 タクトがこの時間軸にわざわざシュルバを連れてきた理由。

 それはまたこの間の様な状況に陥った時にシュルバの力を借りようとしたためだ。


 シュルバは一度深呼吸をしてから、暗殺者について詳しく聞く事にした。


「怪しい人物等は?」


「全く心当たりがありません」


「現場に何か落ちていたとかは無いんでしょうか」


「暗殺者は殺害に使った刃物を必ず回収していってしまうんです」


 シュルバは今までの情報を掻き集め、証拠という名のパズルピースを組み立て始めた。

 一つ一つ丁寧にはめられていくパズルは最後には真実という名の一枚の絵になりシュルバに訪れる。


 シュルバは今までの全ての証拠から、ある一つの仮説に辿り着いたのだ。


「私、何となくわかったかも知れない」


 シュルバはタクトの様にニヤリと笑ってタクトに語りかける。


 それを聞いたタクトは、


「考えてる事は同じだろうな」


 同じくある仮説を見出したタクトはシュルバ同様ニヤリと笑って返答した。


「わかったんですか!?暗殺者の正体が!」


 シュルバは小さく頷いた。


 次の瞬間、シュルバの耳元を冷たい何かが通り過ぎた。

 ダンッ!

 壁に刺さる鉄の塊は国王に向けられた物だと言うことは言うまでもない。


「え!?何?何処から?」


 真相に辿り着いたはずのシュルバだったがこの突然の事態には焦ってしまった。


「全く……………ちょっと焦り過ぎじゃ無いかな?」


 タクトは呆れたかの様に言った。

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