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5章25話『データベース』

 シーウォール。

 そう遠くない未来の世界に存在する海上都市。

 独自の技術力が発展した産業都市。


「おぉ…………なんかすごい」


 周囲のビルや街灯を見回して目を輝かせるアリス。


「で、具体的にどの辺りで目撃されたんだ?」


 アルトは地図を眺めるシュルバに問う。


「シーウォール国際貿易港のちょうど船を停めている辺り。目撃された時刻は夜中の1時。見回り中の警備員が、何者かが人に襲いかかるのを見て、すぐに駆け寄った。けど犯人は音もなく消え失せていて、残っていたのは血が完全に吸い取られた被害者の死体のみ」


 間違いなく、吸血鬼の犯行だ。

 誰が聞いてもその結論にたどり着く。


「とりあえず…………その警備員に証言を聞きにいくべきか…………」


 レイナがそう呟くが、シュルバは彼女の唇に人差し指を押し付けた。


「残念ながら、その警備員はショックで眠ったまま。どうやら、被害者も貿易港の警備員だったみたい。同僚が無残に殺されたともなれば、トラウマの1つや2つが脳を侵食してもおかしくないよね」


「そう……だな」


 レイナから離れたシュルバに、すかさず矢野が言った。


「じゃあ、どうやって吸血鬼の情報を探すんだい?」


 その言葉を待っていた、と言わんばかりにシュルバはニコーッと笑った。


「ここからは、私の本業ですよっ!」


 シュルバは上着の内ポケットから手帳を取り出した。


「遂に、シュルバの真の力が!」


 心躍るヒロキと、


「何気に、見るのは初めてだな」


 ちょっと心躍るアルト。


 そして、


「よーっし!仕事仕事!」


 ものすごく心躍るシュルバ。


 それらを見て、今更聞けなくなってしまった矢野は、恥ずかしそうに霧島に耳打ちで質問する。


「えっと……これ、どういう状況なんだい?」


「シュルバさんは、1つ目の時間軸でこそ不幸な人生を送ってきましたが、2つ目の時間軸……黒田さんが創った時間軸では、彼女は探偵として業績を上げていました。つまり――――」


「これから始まるのは、探偵・シュルバの全力…………ってことか」


 霧島は頷いた。


「とはいえ、具体的にどのように調査するんですか?」


 シュルバがくるっとご機嫌に振り返って答えた。


「今回は人探し。だから誠に残念ながら、推理小説みたいな指紋取ったりとか血痕調べたりみたいな調査はしない。……ただし!」


 シュルバは人差し指を突き上げた。


「私はもちろん、聞き込みで調査するつもり。で、聞き込みと言ってもむやみやたらに通行人に聞き込んでも不審者扱いされるだけ。だから場所を絞る」


 彼女の右手の親指と小指が畳まれた。


「まず1つはカフェかな。レストランとかと違って回転率が高いからその分多くの情報が入ってくる。2つ目は洋服店。シーウォールの洋服店は規模が大きく、種類や値段の範囲も広い。富豪層から庶民層まで、幅広い情報が手に入るってわけね。3つ目はバー。経験上、バーにはヤバめの話が流れてきやすい。お酒とかお店の雰囲気とかがあって、ポロッと話しちゃうんだろうね」


 1つ目がカフェだと発表されてからここまでずっとそわそわしているアリス。


「言わなくてもわかるよアリスちゃん♪私的に、バーだけは外したくないんだけどやっぱり開店時間が遅い。大体、夕方4時くらいなの。今の時刻は朝5時19分。かなーり暇なわけ」


「てことは…………」


「聞き込みも兼ねて、観光でもしようかなと思いまーす!」


 珍しくアルタイル達から歓声が上がった。


「シュルバっちマジ天使!」


「シュルバっちマジ天使!」


「どしたんヒロキ。気ィ狂った?」


「んなこたぁどうでもいいんだ!早く行こうぜ!」


 霧島が挙手する。


「水を指すようで申し訳ありませんが…………さすがに、日本円使えませんよね?」


「シーウォールの技術力って凄いよね。さっきそこのコンビニのATMで日本円をロナっていうシーウォールの通貨に変えてきますた!しかも25万円が36万ロナになって帰ってきますた!最高にツイてる!」


「用意周到かよお前」


「とか言いつつ、アルトもぶっちゃけ楽しみなんでしょ?♪」


「…………否定できないのが腹立つ」


 シュルバは恥ずかしそうに目を逸らすアルトに顔を近づけてニヤニヤと笑っている。


「いいじゃねぇかたまには!早く行こうぜ!」


「…………ヒロキってそんなキャラだったっけ?」


 シュルバは1人につき4万ロナを配り、

「帰りに日本円に戻して使った分を後で返してもらう」

 と、忘れたら洒落にならない台詞を吐いて街を歩き始めた。








 1軒目。カフェ。


「お待たせしました」


 ウェイターが運んできたのは高さ40cmにも及ぶチョコレートパフェ。さくらんぼやバナナ、薄切りのりんごなどを精一杯支えるようにぎっしりと容器に詰まるチョコレートアイス。さらに上からこれでもかと言う程にチョコレートソースがかかっている。

 これは日本ではそう簡単には食べられない。


「すっごーい!美味しそーう!」


 大はしゃぎのアリス。


「お前それ全部食えんのかよ」


 テーブル席の隅で1人コーヒーをすするアルト。


「ルカもたべたいけどおなかこわすからいらなーい」


 正論をぶつけるルカ。


「おーいしーい!」


 お構いなしのアリス。

 そしてそれを見ているレイナとヒロキ。

 仲睦まじい光景だ。


 一方、シュルバは手帳を片手に店内をうろうろ。

 そして新聞を広げながらコーヒーを飲む男性の肩をトントンと叩く。


「すみません、少し聴きたいことがあるんですけど」


「なんだい、そもそも君は誰だ?」


「申し遅れました、私シュルバ探偵事務所所長のシュルバと申します」


 シュルバがサッと差し出したのは事前に準備しておいた名刺。住所も電話番号もしっかりと記載されている。もちろん偽りのものだが。


「探偵…………それも日本の?」


 名刺をまじまじと見る男性。


「一体、私に何の用だ?」


「実は私、シーウォールを騒がせている吸血鬼について調査しているんです。何か、知っていることはありませんか?」


「…………吸血鬼かぁ」


 男性は腕を組み、頭を悩ませる。


「あっ、吸血鬼の事なら確か今日の新聞に載っていたぞ」


「本当ですか?」


「私の記憶が間違っていなければ……………………ほら、ここに」


 男性はパラパラとページを捲った後、見出しに大きく

『国際貿易港に吸血鬼?』

 と書かれた記事を指差した。


「拝借してもよろしいですか?」


 男性が頷いたのを確認し、シュルバは記事を読む。しかし、書かれていた内容はおおかたシュルバが事前に調べていた情報だった。


 収穫は無しか…………と、ふと目を他の場所にやった時だ。

 彼女の目に飛び込んできたのは

『離島にテーマパーク、反対多数』

 の見出し。

 シュルバはこの記事を血眼になって読んだ。


「なるほど…………」


 シュルバはすばやく手帳に何かを書く。


「ご協力、ありがとうございました」


 シュルバは笑顔でお辞儀をし、借りていた新聞を返した。


「あぁ、そうだ。君、日本から来たんだろう?」


「はい、そうです」


「なら、『DATABASE(データベース)』の噂は知らないんじゃないか?」


「DATABASE…………?」


「あぁ」


 男性はスマートフォンを取り出し、操作する。


「これ、こいつさ」


 男性がシュルバに見せつけたのは

『正体不明の情報屋、DATABASEとは?』

 と書かれたネットニュース。


「裏社会の情報屋DATABASE。今シーウォールで一番有名な人物とも噂されるこいつは、一部の人間しかその正体を知らない。というのも、こいつは情報を売る時、自分の正体を誰にも言わないという条件をつけるんだ。それを破ったものは…………それこそ新聞に載るな。殺人事件の被害者として」


 シュルバは生唾を飲み込む。


「ただ、逆に言えばそれさえ守ってしまえばこいつは最高の情報屋さ。それ相応の値段は掛かるが、有名人の不倫相手から麻薬の密輸ルート、シーウォールの大統領の生活の様子まで事細かに教える。いや、それどころか…………」


 男性は少し楽しそうに話した。


「奴は未来の事まで教えるんだ。それも、明日は雨が降るかどうか、みたいな些細なことから、自分の結婚相手だとか、次の選挙では誰が勝つだとか。そう遠くない未来の事なら簡単に教えてくれるらしい。だからこそ奴はありとあらゆる物事を知り尽くし、ありとあらゆる未来を予測する『データベース』って呼ばれるようになったってわけさ」


「『DATABASE』…………」


 シュルバは手帳にメモを取る。


「ま、会えたらいいなくらいに思っておけばいいさ。頑張れよ、日本の探偵さん」


 シュルバはもう一度深くお辞儀をし、


「情報提供ありがとうございました」

 

 と、丁寧にお礼した。

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