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5章22話『塩作り』

 照りつけるような強い日差し。ほんのりと漂う潮風の香り。

 シュルバは屋上で久しぶりに日の光に当たりながら、せっせとバケツを運んでいた。


「うぃ〜、だいぶ運んだねー!」


 両手に抱えたバケツの水を屋上に設置した広いビニールプールに流し、また水を汲みに行き、またプールに流し…………そんな作業を小一時間続けていた。

 もちろん、1人でやっているわけではない。ヒロキとアリスも一緒だ。


「あぁ〜しんどい」


 アリスはプールの横で地面に倒れ込んだ。


「ほんとはペルセウスの高出力乾燥機を借りたかったんだけど、今日はなんか重要な会議があるみたいなの」


「ペルセウスってそんな機械まであんのかよ。何に使うんだ」


 さすが全世界全時代を網羅するペルセウス。技術力で勝つことは出来なそうだ。


「てか、そもそもこれ今日じゃないとダメなのか?」


「うーん、今日じゃないとって程ではないけど急ぎで作らないと逃げられちゃうかも知れないし」


「逃げられる?何に?」


「まぁそれは後で説明するよ」


 ヒロキはこれ以上聞いても仕方ないと判断し、会話を切り上げた。


「さて、もう少しでOKかな!」


 プールの様子を見たシュルバは仁王立ちして言った。

 横で座り込んでいたヒロキと寝っ転がっていたアリスも立ち上がり、


「よっしゃ!やるぞ!」


「頑張ろーう!」


 3人は空のバケツを両手に持って階段を駆け下りた。

 向かった先は1階のバルコニー。浴場の横から出られる場所だ。

 そこではアルトが自転車の空気入れのようなものを上げたり下げたりしていた。

 よく見ると彼がそれを動かすたび、彼の横にある非常に大きな水槽に水が貯められていく。さらにその器具の先はホースのようになっており、海まで下がっていた。


「アルトお疲れー!」


 シュルバは扉を勢いよく開け、手を上げた。


「あぁ……シュルバ…………ぁと…………どのくらいだ……………………」


 アルトの声は今までにないくらいガラガラになっていた。息切れも酷い。


「これでラスト!だからこれ以上は大丈夫だよ!」


「あ"〜…………やっと終わった………………」


 アルトはその場に座り込んだ。


「アルト、マジでお疲れ」


「あぁ。サンキューなヒロキ」


 終わってもなお疲れのあまり唸っているアルトを、ヒロキは可哀想に思った。

 朝5時から11時までずっとこれを動かしていたんだ。彼はこれで一生分の労働を終えたのではないか。


「そういえば、レイナどこいった?」


「ルカちゃんの方手伝いに行ってる」


「霧島さんと矢野さんは?」


「ペルセウス本部で会議」


「ヒロキもこっちの担当で良かったんじゃないか?」


「5000円で買収された」


「おいコラ」


 ヒロキはこれでもかというほどアルトに睨まれた。


「というか、海水なんて何に使うんだ?」


「まぁ色々とね〜」


 シュルバは笑顔でそう言った。


「とりあえず今日の所はこれでおしまい!あとは明日、ルカちゃんと矢野さんが加工するだけだから!」


 シュルバはアルトにそう言い残すと、最後の海水を屋上に運び出した。

 アルトはそそくさと逃げようとするヒロキの足を強く掴んだ。


「のわっ!」


「おいヒロキ、コーラ奢れ」


「え、なんで?」


「いいから奢れよ。5000円より安いだろ」


「私が悪うございました」


 ダミ声で睨んでくるアルトには勝てない。








 次の日、朝9時30分。


「よ、来たよ」


 矢野が船の入り口から現れた。一応船の中ならどこにでもペルセウス本部とアクセスできるが、律儀に入り口から出てくる辺り、矢野は相当礼儀正しいのだろう。


「あー!矢野さん!おはよーござーます!」


 シュルバは元気よく挨拶する。シュルバがお辞儀から直るとすぐに矢野はシュルバと一緒にルカの部屋へ向かった。


「入るよ、ルカ」


 中のルカはいかにも危険そうな機械を操作していた。ツマミを回してみたり、ボタンをつけたり消したりしてみたり、ネジを外して内側をいじったりもする。

 どうやら機械の調整を行っていたようだ。


「きょうこおねーちゃんいらっしゃーい!」


 ルカは矢野に飛びつく。当の矢野もしゃがんでルカに目線を合わせてルカの頭を撫でる。

 そしてそれをシュルバが微笑みながら見る。


 ちょうどそのタイミングで、レイナが巨大な段ボールをこれまた巨大な台車に乗せて運んできた。


「あ……矢野さん……。おはようございます…………」


「あぁレイナ。おはよう。どうしたんだい?その荷物」


「あぁ、これシュルバに頼まれて…………」


 レイナはそのシュルバを見て、固まった。彼女は7歳の幼女と26歳の女性が抱き合ってるのを見てニヤニヤと笑っている。

 レイナは思ったことをそのまま口に出した。


「不審者…………?」


「なんでさ」


 シュルバはあまりに唐突なdisに驚きを隠せなかった。


「まぁそれは置いといて…………塩持ってきたぞ…………」


「置いとかないで。私的に結構重要な事。塩ありがと」


 シュルバは段ボールの1つを開いた。

 中には1kgほどの塩が入った大きな袋が5つ。しかもその段ボールはこちらも5つある。


「これで全部?」


「倉庫にもう2箱ある…………。使う…………?」


「どうですか?矢野さん」


 矢野も段ボールの中を覗き込む。試しに1袋取り出して、重さを確認してみたりしながら。


「うん、これなら相当な収穫が期待できそうだね」


「了解です。それじゃあレイナちゃんはもう部屋戻っても大丈夫だけど、せっかくだし見てく?」


 レイナは目をキラキラさせながら頷いた。シュルバは親指を立て、レイナを部屋に引き入れた。


「そういえば……これどうやって使うんだ……?」


 かなり巨大なこの機械。金属で出来たコップの下にメインの機械が組み込まれているような見た目で、非常にシンプルなルックスである。


「とりあえず、こんなかにありったけの塩をブチ込むよ」


 シュルバが側面についている小窓のような搬入口を開く。中は真っ暗で、いかにこの機械が頑丈かつ効率的に出来ているかがわかる。

 シュルバ、レイナ、矢野の3人は段ボールの中の塩の袋を破っては機械の中に塩を入れ、また次の袋を破り機械に塩を入れ、を繰り返す。


 そして全て入れ終わるとルカが機械部分をいじり始めた。


「えーと、さいしょにしおをあっためるから…………これをこーして…………」


 ルカは赤いツマミをギギギッと回す。

 このツマミは加熱部分の操作ツマミ。これを回すことで機械の電熱線に電流が流れ内部が加熱される。

 ルカはこのツマミを800℃まで回した。

 余談だがコップ部分は二重構造になっていて層の間は真空なので、コップ部分に触っても熱くない。


 そのまま内部温度が800℃になってから20分、ルカはもう1つの黄色のツマミを回す。

 こちらは電流部分の操作ツマミ。現在2000Aくらいだ。

 さらにその横のボタン、ルカは『7』と書かれたボタンを押す。

 これは電圧調整用。ちなみに『7』だと大体10000Vくらいだ。


 バチバチバチバチバチバチバチバチ…………。

 しばらく音は続く。


「シュルバ……これは一体何をしているんだ…………?」


「塩の電気分解だよ。普通、固体の塩は電気が流れないんだけど800℃まで熱して液体にすると電気が流れるようになる。それを電気分解してるんだ」


「どうだいシュルバ。そろそろ良いんじゃないか?」


「そうですね。ルカちゃんそろそろ大丈夫だよ!」


「わかったー!」


 ルカは機械のツマミを0に戻し、機械を止める。

 しばらく冷めるのを待ってから、シュルバは満を持して小窓を開き、中の固体を取り出す。


「どうですか?」


 シュルバは矢野に意見を求める。


「うん、かなり上質なものだ。これは成功といって間違いないね」


 やった!と小さく喜ぶシュルバ。

 これが後々、アルタイル全員が度肝を抜くほどの兵器になることをレイナとルカはまだ知らない。

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