1章10話『光の裏の影(後編)』
「さて………刀の錆にしてやるなんて言うつもりは無いけど、貴様らには死んでもらう。覚悟しておけ」
ヒロキは刀を真っ直ぐとペルセウスの方に向けて宣言した。
「よし、アレやるか」
最高管理室のタクトは戻ってきたシュルバと共にあるものの準備に取り掛かった。
「座標入力完了、制御システム異常なし、第6号へのアクセスも滞りなく、全セキュリティシステム解除」
シュルバはPCに次々と現れるウインドウを間違えることなく処理し、タクトに伝えた。
タクトはそれを聞き、ニヤリと微笑みシュルバに言った。
「投下」
シュルバがEnterキーを押す。
またもや大量に現れるウインドウ。その全てには「CLEAR」と映し出されており、シュルバのシステムが完璧だということを証明していた。
「全て問題なく終了」
シュルバは背筋を伸ばしタクトに報告した。
今この瞬間、タクトの計画は始まった。
「ふぅ………大体殺せたか?」
ペルセウスと交戦中のヒロキは刀が改造されていたのもあってか、いとも簡単にペルセウスを切り刻んでいた。
ヒロキが刀をしまい、喜んでいたのも束の間。
次のペルセウスの集団が現れた。
「おいおい…………マジかよ」
ヒロキは真っ青になった。
現れたペルセウスは10や20で収まる数ではない。
総勢285人のペルセウスはたった一人のヒロキに向かって剣を抜いた。
「これは…………想像以上だな」
タクトも焦りを感じる。
この人数は流石にヒロキ一人に任せるのはきつそうだ。
ヒロキ一人に任せるのなら。
「恐らくもうあちら側に到着していると考えられる」
シュルバはモニターを見ながら言った。
その言葉通り、ヒロキの元には約200人の人間が現れた。
「これは…………」
ヒロキはシュルバの計画を読み取ったかのように笑い、改めて宣言した。
「さて285vs201、勝つのはどっちかな?」
そう言ってヒロキは真っ直ぐにペルセウスの集団に向かった。
ペルセウス達は馬鹿みたいに突っ込んでくるヒロキに焦りつつも、こちらも前衛を向かわせた。
ドドドドド!
大きな音が謁見の間に響く。
それと同時に剣を持ったペルセウスは胸から血を流しながら力無く足から崩れ落ちた。
「うわっ………あぁ無情」
ヒロキは倒れたペルセウスにドン引きしながらも群衆の中に走った。
以前、ルカの人形にAIを組み込んで作った人工人間、その名は「ファントム」
シュルバとルカは実用可能なレベルにまで開発を進めていたのだ。
「よし、作戦成功。これでアルタイルをペルセウスから守れるね」
シュルバが満足げに背伸びをしながらタクトの方をチラリと見る。
その直後、シュルバは見なければ良かったと後悔することとなる。
タクトは口角を上げ、真っ黒いオーラを体中から排出しながら不気味に笑っていた。
以前にも何度か不気味に笑うタクトを見たことがあるシュルバだったが、今回はあまりにも恐ろしすぎる。
頭に焼き付くその笑顔はもはや笑顔なんて穏やかなものでは無く、ただひたすら他者を圧倒する絶対的な何かなのであった。
遂にタクトは動き出す。
タクトは突然キーボードを叩き始めた。カタカタと音を奏でるタクトの腕。
真実の右手と偽りで固められた左手はタクトの為に動き続ける。
シュルバにはタクトが何をしているか、何となく心当たりがある。
シュルバがファントムの起動システムを構築している時だ。
「シュルバ、一体だけAIと手動コントロールを切り替えるシステムを組めたりしないか?」
シュルバにはそれが何を意味しているのかは分からなかった。
ペルセウスとヒロキ率いるファントム軍の戦いの中で、こっそりと戦闘から離脱するファントムがいた。
ファントムNo.6。
No.6は城内を探索している。
そして、ある部屋で目的を達成する。
図書室の中にいた、魔王イリスの影武者アリスだ。
「あれ?君、アリスに何か用?」
ファントムはパッと見人間の為、アリスは一切警戒しなかった。
タクトはそれを見てまたキーボードを打ち始める。
「待って」
シュルバはすかさず言った。
タクトの脳内に何とか届いたその声に反応してタクトはシュルバの方を向いた。
「貴方は一体、何をしようとしているの?」
シュルバは冷汗をだらだらとかきながらタクトに聞いた。
タクトの手は既にEnterキーにかかっており、シュルバにはそれを止める猶予も手段も無かった。
シュンッ。
転生機に現れたのは、他でもないアリスだった。
「なんで………アリスの方がここに来たの?」
シュルバは訳もわからず頭を抱え出した。
タクトはシュルバの頭を優しく撫でて言った。
「僕達は、イリスの方がアルタイルだと錯覚していた。でも本当は、アリスがアルタイルだったんだ」
シュルバはとても驚いた。
「君とイリスは双子の姉妹。しかし妹の方が優れていた為姉であるアリスは魔王に成れなかった。」
アリスは歯を食いしばっていた。
「それどころか、顔が似ていると言うだけで危険を伴う影武者にされてしまった…………そういうことだよね?」
容赦も慈悲も無く次々と論をぶつけていくタクトに、アリスは遂に泣き出してしまった。
そのまま涙を拭く間も無くアリスは語り始めた。
「生まれた時から、妹ばかりが注目されてて…………実力の無い私は日陰者で…………誰からも見られなかった……………」
「もちろん、妹の事は大好きだよ…………あんなに力の差があってもお姉ちゃんお姉ちゃんと言って近づいてきてくれんだもん…………」
「でもね、そんなお姉ちゃんの存在は誰の記憶にも残らないまま…………気づけば16年経っていた…………」
「だから、お父様を殺して次の魔王になれば皆アリスの事も気にかけてくれると思ったの…………なのに………なのに!」
大声で泣き出すアリスをシュルバは優しく抱きしめる。
イジメられていて誰からも好かれないまま1度目の人生を終えたシュルバに、アリスの気持ちは痛いほどわかる。
そんなシュルバの目にも、涙が浮かんでいた。
「君には僕達の計画に協力して欲しい。」
アテナはいつも通りヌッと現れてアリスに説明した。
全ての説明が終わった所で、タクトはアリスに向けて言った。
「世界を作り直す為の戦いだ。それはとても辛い戦いになる」
「でも、その先に待っているのは神の領域。世界を作り出した君の名前は永遠に語り継がれる事になる」
アリスはタクトの言葉に目の輝きを取り戻す。
「私は………」
アリスは涙を拭い、強く言った。
「私は戦う。妹の為に、そして自分の為に」
タクトは笑顔と呼べる笑顔で頷いた。
「と言うわけだから、これからよろしくね"探偵"さん♪」
アリスはにっこりと笑いシュルバに手を差しのべる。
シュルバには若干の戸惑いがあったが、
「こちらこそよろしく♪」
シュルバは力強くその手を握り返した。
今の彼女の笑顔は強がっている偽りの笑顔だとしても、いつかこの娘の笑顔を本物の笑顔にすると言う強い決意の証拠として。




