またしても
僕を部屋の中に招き入れると、彼女は飲み物を持って来ると言って、部屋を出て行った。一人残された僕は、意味もなくキョロキョロと部屋の中を見る。
彼女の部屋はきちんと整理整頓がされており、下にはゴミ一つ落ちていない。
カーテンの色はピンクで、ベッドにはクマのぬいぐるみなんかも置いてある。
部屋中からする良い匂いに胸をドキドキさせていると、ジュースが入ったコップを二つお盆に乗せた彼女が戻ってきた。僕は慌てて姿勢を正す。
彼女は僕の前にコップを一つ置いた。
「どうぞ」
「ありがとう」
お礼を言って、ジュースを飲む。ジュースはとても甘かった。
「……えっと」
「……」
「……あの」
「……」
会話はちっとも弾まなかった。僕は初めて入る女の子の部屋に緊張して、うまく話せない。彼女も彼女で顔を真っ赤にして俯いている。
「えっと……じゃ、じゃあ、僕、もう帰るね!」
僕は勢いよく立ち上がると、そのまま部屋を出ようとした。
その時、頭がグラリとした。
「あ、あれ?」
意識が遠のき、その場に倒れそうになる。そんな、僕を彼女が支えた。彼女は僕をベッドまで運ぶと、優しい動作でベッドに寝かせた。
「あ、ありがとう」
ベッドに横になった僕は、彼女に礼を言うのが精一杯だった。体は動かず、意識が遠い。そんな僕を彼女は上から覗き込む。そして……。
「え?……ちょっ……ちょっと!」
突然、彼女が寝ている僕に覆いかぶさってきた。反射的に押し返そうとしたが、体が全く動かない。
彼女の胸が僕の体で押しつぶされているのが分かる。足と足が絡み合い、首筋に彼女の吐息が掛かる。
「な……なにを……や、やめ……くっ」
首筋に温かいものが触れた。すぐにそれが彼女の唇だと分かった。彼女は何度も何度も僕の首筋にキスをしてくる。
「うっ……くっ」
彼女の唇が首筋に触れる度、体中に電流が走る。何とか、やめさせようとするけど、やはり体は全く動かない。まるで、薬でも飲んだかのように……。
(ま、まさか)
僕は先程飲んだジュースを見る。そういえば、あのジュース、妙に甘かった。
(まさか、あの中に何か……くっ!)
彼女が僕の体を両手でまさぐり始めた。服越しでも彼女の手の動きがはっきりと分かる。その間も彼女は、首筋へのキスをやめない。
「や、やめて……本当に……もう……やめて」
体が動かない僕は必死に、彼女にやめるよう懇願する。でも、彼女がやめる気配は一向にない。
やがて、彼女は僕の服を脱がせ始めた。上着のボタンを全て外され、肌が現れる。彼女の手が直接、僕の肌に触れた。
「あっ!」
服の上から触られた時の何倍もの電流が体中を走る。彼女は悶える僕をじっと見ると、おもむろに自分の服にも手を掛けた。
服がはだけ、黒い下着と大きな胸があらわになる。彼女は僕の手を取ると、自分の胸に押し付けた。彼女の胸が僕の手で押しつぶされ、形を変える。
「やめて……放して……お、お願い」
体中が熱い。このままじゃ、まずい。僕は力の限り、大声で叫ぼうとした。
「やめ……うぐっ!」
僕の叫びを彼女はキスで黙らせた。まるでむさぼる様に、彼女は僕の唇に押し付けている自分の唇を動かした。
「ずっと、こうしたかった」
僕の唇から自分の唇を離すと、彼女は僕の耳元でささいた。
「雨牛君」
凄まじい色気あふれる声で彼女は僕の名前を呼んだ。僕は自分の中の理性が壊れる音を聞いた。
理性が壊れる音を聞いた瞬間、僕は抵抗するのをやめた。
「雨牛君」
彼女がまた、僕の名前を再び呼んだ。僕は、それに応えようと彼女の名前を呼ぶ。
「胡蝶さん」
僕が名前を呼ぶと胡蝶さんは幸せそうにほほ笑んだ。
***
ピピピピピピピピピ。
けたたましい音と共に目が覚める。僕は鳴り続ける目覚まし時計をゆっくりと止めた。
「また……か」
それから、両手で頭を押さえる。
「うああああああああああああああ!」
胡蝶さんと、またしてもあんなことをする夢を見てしまった。激しい罪悪感が僕を襲う。だけど、胡蝶さんに触れられた時感じた電流のような感覚や、彼女の胸の感触、そしてキスされた時の激しい快感。それらがまだ体に残っていた。
僕は体中の火照りが鎮まるまで、しばらくベッドから出ることが出来なかった。




