こんなんなるの不思議やわ
仕事中、膝が痛くて、我慢できなくなって、サポーターを外してみたら、プックリ腫れていた。
前にもなったが、膝関節炎からの水が溜まったんだなと思い、上司に相談して、翌日の休みをもらって帰った。
近所の整形外科を調べると、午後診は五時からで、一旦家に帰ってベッドに横になる。するとその重みで、昼寝中の子供達が起きてしまった。
長男が、
「おやつパーティーしよ」
と言うので、
「食べて良し、とうちゃんは寝とく」
と言うと、何か知らないスナック菓子を母親からもらい、子らが喜び貪っている。それを横目に見ていた私も腹が減ってきた。ツマミにと買っておいたピーナツを皿に貰い、じゃがりことチーズおかきも少量貰って、
「おやつうめぇな」
と子供と言い合いながら食べた。その後、子らがおやつを食べ終わるのを待って、近所の整形外科に送ってもらった。
硬いベンチに足を伸ばして座り、足以外に腰まで痛くなる中、二時間待たされた。それを読書とスマホいじり、そしてラインで送られてくる子らの変な写真と、テレビのニュースを見て受け流す。
ようやく呼び出され、痛みが増してくる足を引きずり、レントゲンを撮った後、注射で水を抜くーーと思ったら、ドロリとした血が180ccも抜けた。
「打ったり捻ったりしてないのに、こんなになるの、不思議やわ」
と先生に言われたが、身に覚えはない。日々の過酷な労働? ここのところ周囲の人間が倒れ続けて、私で六人目だ。我が職場は呪われているのだろうか? 単にカバーしあって無理がたたり、正常な人間がいなくなっただけか……
などと考察しつつ、ギプス固定する事になり、パンツ姿で「動かないで下さい」と言われ、台に足を乗せて座って待つこと数十分。
座ってるベッドに鼻くそがスポンと落ちた。すぐにつまむが、どこにも捨てる所が無い……から仕方なく丸める。
隣の診察室から、
「この歳でこんなんなるの不思議やわ」
と誰かの診察をしている先生の声が聞こえてくる。俺もこの状況で鼻くそコネてるの不思議やわ。と思うと、なんだかおかしくて吹き出しそうになった。
手の中の鼻くそは、痛みに沸いた脂汗を吸って、光沢をもち、緑色の綺麗な丸になっている。それが真っ赤になった手指に映えた。
なんだろう? 既視感。それは色は違うが、パーマンのコピーロボットに似てると気付く。と、脂と手の温もりで、鼻くそが溶けはじめた。そのままコネ続けると、固まった鼻くそが溶けて、指紋に馴染んで、消えていく。
それをスリスリとはらうと、捨てるでもなく鼻くそは消えてしまった。
と、そこへ先生がやって来て、
「ちょっと待つ間に、また血が溜まってるな」
という不吉な言葉と共に、何かの段ボールを出して来た。
「水硬化性ロールスプリント」
という、水をかけると固まるギプスのような物を用意する。明日も膝から血を抜かないといけなさそうなので、受け皿のように足の下側だけにして、包帯で固定するらしい。
しばらく固まったそれを、看護師さんが一旦剥がした。そしてまたしばらくしたら、完全に固まった。先生も来て、包帯で固定し直していく。
その包帯が太もも付け根に来た時、パンツの股間を先生の指が掠った。
『睾丸』
私の頭にその二文字が浮かんだ。その後、看護婦さんに変わり、また巻いていく、また太もも付け根に来た、
『睾丸』
また私の頭に二文字が掠ったが、看護師さんの手は風がパンツを揺らすだけで、触れはしなかった。
その後二度『睾丸』が頭を掠ったが、ことごとくが未遂に終わった。
松葉杖をついて、迎えの車に乗り込むと〝ギプスをした上から着れるズボン〟という理由で、持ってきてもらったスウェットのあまりのボロさに、奥さんと「新しいの買おうか」と言いながら帰った。
なんだか疲れた一日の記念に、スマホ画面のフリックなるままにこれを記す。