93話 異名持ちAランク冒険者
浪漫輝く素敵武器を手に入れた俺は、またも白兎亭の自分の部屋に戻ってきた。
あまりに出たり入ったりしているせいで、クーリアおばさんに怪訝な顔をされたが、行けると思ったけどレベルアップの違和感がまだ残ってて、辛くなって戻ってきたと言い訳をしておいた。
まあ、まるっきり嘘ではなく、8割は本当である。
テンションが上がりすぎて、ふと素に戻ったら目眩と頭痛がしてきたのだ。
この感じは多分、目から来ているような気がする。
特に体調不良が無くても、新しく度を変えた眼鏡をしばらく掛けたとき等にくるヤツに似ている。
ステータスの筋力のパラメータが目を動かす筋肉にも影響を及ぼしているのだと思われるが、本当にステータスをいじるとあちこち不調が出るな……。
ダンジョンに行くために、パラメータを上げたのに、そのせいでダンジョンに行けるか不安になってきた……。
微増くらいにしておけば良かったかもしれない。
今更戻すのも何かありそうで怖くて戻せないが……。
そうなったら困るから、これはもう出発前に教会で癒やしを貰いに行くしかないな!
教会に行く大義名分は出来たが、それはそれとして、一応ハイコンディションポーションを飲んでおこう。
眼精疲労は他の違和感と同じ扱いなのか、それとも別の扱いになるのかわからないが、ポーションをキュッと煽り、部屋に戻ってきた当初の目的を果たす。
先程手に入れたアサルトランスのパイルバンカー用のカートリッジをアイテムボックスの1つめの欄に入れ量産するのだ。
これは種類に関係なく、そこに入れたアイテムの数量を最大にするチートコードを使用している。
増やすだけなら解析してコードを打ち込まなくて良いのでこちらの方が楽だ。
魔導銃の時のように、クズ魔石ではなく、品質の良い魔石を使ったら、さらに強力になったり、そもそも砲撃も出来るんじゃないかと思いドグラスの親父さんに聞いてみたが、命が惜しかった辞めておけと言われたので、カートリッジは増やすだけにしておく。
アサルトランスと自分がぶっ飛んで、さらにダンジョンで生き埋めになりたきゃ止めねえとも言われたので、今回は完全に通常運用の予定だ。
これはしっかりと自分で考えた結果で、けっして、強けりゃ良いってものではないと小一時間ほどドグラスの親父さんから説教をされたからではない。
まだ剣は作ってくれないので新しい酒は渡さなかったが、それも別に腹いせではない。
新しい酒があることだけを匂わせて、今後の交渉を有利に運ぶためである。 他意はない。
金はいらねえから金額分の酒をよこせって、ウォッカで支払いを要求されたりはしたが……。
ドワーフマジ酒に目がねぇな。128本ばかし渡したら、比喩じゃなく小躍りしていた。
ポーションが運良く眼精疲労には効いたようで、心なしかスッキリしてきた。
頭痛も大分楽になったら、ぐぅと腹が鳴った。
階下からほのかに美味しそうな香りが漂ってくるので、そろそろ飯時なのかもしれない。
まあ、昼飯も食べずにあっちこっち行きまくったから、空腹なのは当たり前か。
下に行ってクーリアおばさんのシチューを食べよう。
階段を下りると、すっかり指定席のようになっている奥の席にアリーセが既にいて、いつものメニューを食べている。
「おかえりアリーセ、そっちはどんな感じだ?」
「ただいま、うーん、スタンピードのすぐ後だから、ちょっと間が悪い感じね。ウッツくらいしか手が空いてる人が居なかったわ、レベルアップ休暇や怪我で休養中の人も多くてね」
みんなレベルアップで苦労してんだな。
「俺もレベルアップで結構辛い感じだが、アリーセは大丈夫なのか?」
アリーセは他の冒険者と比べたら、相当なモンスターを倒しているから、結構レベルも上がったのではなかろうか?
「私は結構そういう症状は軽い方だから問題無いわ。 そもそも、獣人は種類問わず他の種族よりも身体能力上昇には適応が早いんだけどね」
「なにそれずるい」
そんな種族特性があるのか、そのコードわからないかな?
あ、でもあれか、龍言語魔法で鱗が生えたりとかあったから、尻尾が生えたり毛が生えたりしそうだな。
苦痛を和らげるつもりで、より酷い目にあうのは流石に馬鹿らしいな。
ジョブチェンジすら怖くて出来ないのに、種族が変わるようなことになたったらヤバそうだから、甘んじて今の状態を受け入れておこう。
いくらHPが上がっていて最終的なダメージがないとしても、精神的に死んでしまう可能性はあるからな。
「パトリックさんもぜんぜん戻ってこないし、スタンピードのすぐ後じゃ、メンバーが集まりにくいってことは、領主様もわかってるはずだから、とりあえずはのんびり毎日ギルドに顔を出して誰か居ないか探してみるわ。 普段だったら割りとすぐに集まるんだけどね」
「まあ、10年も散々さがして見つからなかったわけだし、今更、今日明日中に見つけてこいってものでもないだろ。 多少時間がある方が俺も体調的に助かるし」
「どちらにせよ、パトリックさんに話を聞いてみないことには始まらないしね。 他に誰か当時の状況を知ってそうな人でも居れば良いんだけど」
10年前のスタンピードの経験者は居ても、その後の捜索のこととなるとなかなか居ない。
アリーセと二人で、誰か心当たりがないかと考え込んでしまう。
「どうしたんだい、仲良く二人して首かしげて?」
クーリアおばさんが注文を聞きにやってきて、俺達の様子を見て笑っている。
「ああ、いえ、スタンピードの原因だろうという、ダンジョン探しの依頼を受けたんですけど。 手始めに10年前の探索したときの捜索状況を一先ず調べてまして」
「ああ、あれかい、何日何日もも森を歩き回ったのになんにも見つからなくて精神的に辛かったねぇ。 スタンピードの後でモンスターも出てこないから、それの討伐報酬や素材なんかも手に入らなくて、経費ばっかりかさんでね。 薬草でも採取して足しにしようにも、こっちも踏み荒らされててさあ……」
クーリアおばさんが、そんなことを語りだした。
所持金はたいて装備品を一新したことと、探索の依頼でまったく稼げなかったせいで、その後の生活が苦しくなった時に今は亡きご主人に助けられたとか、その出会いから今に至るまでのおばさまトークに発展しそうだったところを、必死で止める。
「ちょ、ちょっと待って下さい。クーリアおばさんって冒険者だったんですか!?」
「ん?そうだよ、言ってなかったかい?」
アリーセの顔を見るかぎり、彼女も知らなかったようで、驚いた顔をしている。
「ご主人とのお話はたくさん伺いましたが、その話は初めて聞きました」
「そうだったかい? まあ大した話じゃないけどね、Aランク冒険者『戦槌』のクーリアっていったら、当時ちょっとは名のしれたもんだったんだよ」
「え、Aランク!?」
アリーセが絶句している。 ほとんどお目にかかれない異名持ちのAランクの冒険者がこんなに身近にいたとは……。
しかも戦槌ってことは、めっちゃ前衛職じゃないか。
「元だよ、元。 今はしがない宿屋の女将さ」




