84話 功労者だそうです
アリーセがパトリックさんにクリティカルヒットを出したところで、ヴァルターさんが迎えにやって来た。
「おや? どうなされました?」
ヴァルターさんが、虫の息のパトリックさんを見て、当然の質問をしてきた。
「心に痛恨の一撃をくらいまして……。 すこしの間そっとしておいてくれれば、そのうち立ち直るかと……」
「そうですか、承知しました。 見たところ魔道具による審査はお済みのようですので、パトリック殿はひとまずこちらでお休みいただきましょう」
何一つ大事な事は終わってない気がするが、ヴァルターさんが良いって言うなら、良いか。
パトリックさんを放置して行く事が決定したところで、アリーセがパトリックさんに近づいていった。
一応心配しているんだろうか?
「そういう、本当にダメージを受けている感じは、ウザいよりキモイって思われますからね?」
「ごっふぅっ!」
「もうやめてアリーセ! パトリックさんのHPはゼロよ!」
心配どころか、トドメを刺しにいったようだ。
さらに追い打ちをかけそうなアリーセを止めに入る。
うあー、ヴァルターさんが痛ましい物を見る目になっている。
「さ、早く行きましょう!」
いたたまれなくなって、ヴァルターさんを急かした。
アリーセ、容赦ないな……。
足早にこの場を後にして、ジークフリード様が待つ部屋まで移動した。
「ふむ、何かあったのか?」
「ジークフリード様も決して他人事ではありませんが、端から見れば些末な事でございます」
「そうか……」
他人事じゃないって言った!?
しかも、納得すんの!?
「まあ、二人とも座ってくれ」
「あ、はい」
とりあえず、ジークフリード様もスルーしたようなので、ヴァルターさんの発言には触れずに何事も無かったかのように着席した。
「先に言っておくが、咎め立てをする為に呼んだわけでは無いから安心してくれ。 街を救ってもらっておいて、そのような事を言うほど恥知らずではないからな」
「それならば、良かったです」
「しかし、あの都市防衛用魔道具の事は、一辺境領主として放置するわけにはいかんのだ。 記憶の事は承知しているから、わかる範囲で答えてくれ」
ジークフリード様は、笑顔で話しかけて来ている。
こちらを安心させるためかもしれないが、自然な笑顔に見えるので、咎める気があるかどうかは別として、多分怒っていたりはしなさそうだ。
この人ポーカーフェイス出来ないし……。
「単刀直入にいこう、あれほど強力なバギアーナラートアーを、いつ、何処で手に入れた?」
ん? なんか名前が短いような……?
長いから省略したのか。
「信じて頂けるかわかりませんが、あれはあの日に私のスキルで作り出した物なのです」
「アレを作り出すスキルだと!?」
がたっとジークフリード様が、こちらに身を乗り出してくる。
馬鹿なこと言うな!という感じではなく、ナニソレ凄いって感じの表情をしている。
「もちろん、なんの制限も無く幾らでも作り出せるわけではありませんんが……」
「確かにアレを作り出すのに何も代償が無いとは思えぬ」
無いけどな!
「詳細は己の事ながらわからない部分が多いのですが、まず前提条件として作り出す物を私自身が良く知っている必要があリます」
「知らぬものが作れぬということは解るが、今までにない新しい物は作れないということか?」
「そうです、私自身が何か新しい物を作り出すというスキルではありません。既存のベースとなる物が必要となります」
アリーセと夜なべして考えた設定を騙り……もとい、語り、ツッコミを受けたら取り繕わずに、自分にもわからないと、誤魔化していった。
「なるほど、魔晶石が必用なほど魔力を消費するのか。 そのようなスキルを持っているならば、国家に重用され、魔晶石をいくつも所持している理由も得心がいく。 しかし、そうであるならば、この街を救うために、その魔晶石を消費したということなのだな……。 これ以上どれだけの対価を差し出せばよいのか?」
ジークフリード様が、頭を抱えてしまった。 いや、別に何か毟り取ろうとか思ってないし、金とか貰ってどこかにしわ寄せがこられても目覚めが悪い。
ぶっちゃけ、市場が混乱しない程度だったら、融資したって良いくらいだ。
「いえ、結果的に街を守る形になっただけで、我が身可愛さから自分が死にたくないので使っただけですので、対価をいただくわけには……」
「この場合、過程は問題ではないのだ、多くのものが見ている結果が問題だ。 誰が見ても最大の功労者はイオリだ。 領主としてそれには報いねばならぬ。 それも皆が納得する形でなければな」
皆が納得するような報奨ってなんだろうか?
いや、まだ何をくれるとか言われてないけど。
「しかし、望まぬものを押し付けたとなれば、それもおかしな話だ。 出来る限りとなってしまうが、何か望むものはないか?」
こちらの望みを聞いてくれるようだ。
強制的に爵位をくれるとかじゃなくて良かった。
「すみません、先程も申し上げたとおり、自分の身を守っただけでしたので、相応の報酬がどれほどのものになるのかがわかりません」
「そうだな、私の権限の及ぶ範囲ではあるが、一代限りではあるが騎士爵をあたえ、貴族街への永住権と土地と建物渡すか、我が領地内の一部をイオリの物としてその土地の管理運営の権利を渡すといったところだな」
「勘弁してください……それで、その報酬は今すぐ決めないと駄目なのでしょうか?」
「望みがあるのならば今すぐでなくとも構わぬが、数日中には決めて欲しいところだ。 押し付けるようですまないがな」
「では、すこしアリーセと二人で相談させていただいてもよろしいでしょうか?」
「え?私!?」
なんか、他人事みたいな顔してたけど、アリーセも功労者なんだからまるっきり他人事ってわけじゃないんだぞ?
「ここで良いのか? 構わぬぞ」
金銭以外で考えよう、土地や建物に爵位とか、正直な話どれも貰って困るものばかりだ。
形だけで街から遠い何にも利用価値のない土地とかを貰って放置しとけば良いか?
「アリーセは、どうすれば良いと思う?」




