77話 都市防衛魔道具
昨日、一昨日の投稿が遅れた関係で本日2つ目の投稿となりますのでご注意ください。
「魔晶石をですか?」
「そうだ、数々の問題がある事は承知しているが、是非とも譲って欲しい。 財政上、金銭での一括での買い取りは出来ないが、分割での支払いか、相応の物を用意させてもらうつもりだ」
非常に深刻そうな顔で言っているが、分割か、もしくは何かと交換できないかって、相当財政的にはカツカツなんだろう。
有事にも関わらず、権力を振りかざして接収せずに平民とも対等に交渉をしてくる領主は、治世者としては駄目なのであろうが、個人的にはやはり好感がもてる。
「構いませんよ、いくつご入用ですか?」
「そうだな、流石に無理だろう、しかし……。 ぬ? 今なんと?」
「ですから、お譲りします。 このタイミングですし、スタンピードへの対策に使われるのでしょう? でしたら対価は必要ありません、必要なだけお譲りします」
そこまで長くこの街に住んでいるわけではないが、俺はこの街が結構気に入っている。
自重したせいで助けられないような事態はゴメンだ。
それにこの領主なら、ガチャ以外の使いみちを知らない俺よりも、うまく使ってくれるだろう。
「頼んでいるこちらが言うのもおかしいが、良いのか? 国家保有の魔晶石を他国の一領主に渡してしまっては、イオリの首1つでは収まらいかもしれぬのだぞ?」
国とか絡んでないし無尽蔵にあるので大丈夫ですからー。
まぁ、この世界の常識的には心配の種なのだろう。
なにか安心材料をこちらから提案しないと駄目かもしれない。
「そうですね、無償で譲渡とあれば流石に問題でしょうが、私に関する情報を他に漏らさず隠匿していただけるならば、それが対価となりましょう」
「む? 情報が金より重要である事は私も理解できるが、それでは随分と足りないのでは無いか?」
今回自重するのは止めるとはしても、あとで変な貴族とかに絡まれたくないし、国が絡むとかも勘弁願いたい。
ある程度リスクはあるだろうが、領主が守ってくれるならそれに勝る報酬を他に思いつかないから、ここは引けない。
お金で買えない価値があるというやつだな。
「いえ、これは非常に大切な事なのです。 そもそも私は平民ですので、身分の高い方から、それこそ王族等に強要されてしまえば断る術を持ちません。 他の領や他国に私の存在が知られたとすれば、すべての魔晶石を奪われてしまう事も考えられます。 ジークフリード様は、すべての魔晶石が失われてしまうところを、1〜2個の損失で済ませた部下を罰しますか?」
「良くやったと褒める事はあっても罰するなどありえん! ふむ、なるほどそういうことか……」
「さらに、どのように魔晶石を使用するのかを知ることが出来れば、むしろ成果を上げたという扱いにもなるでしょう」
これは、単純に興味本位だが、どのように魔晶石を使うのかが分かれば、いろいろ出来ることも増えるだろう。
「確かに、遠い異国の魔晶石の運用方法など知る機会は限られているから、一部の者にとっては喉から手が出るほど欲しい情報ではあるな。 それに、どのみち今回使用すれば情報はどうしても出回ってしまうか……良いだろう、魔晶石の使用方法や手順などの情報も開示しよう」
「そこまでしていただいて構わないのですが?」
おまけのつもりの情報で、そんな意を決した顔をされても困る。
ってかこの人ポーカーフェイス出来ないんだな……。
「この国のほとんどの主要都市には存在する都市防衛の魔道具に使用するのだが、見ただけで複製出来るものでは無いし、その魔道具自体がなければ手順を知ったところでどうしようも無いからな。 そもそも、ここにある物は王都にあるものと比べれば随分と性能が低いものだから問題はないと判断した」
こちらも相応のリスクを負わねば、申し訳が立たん、とか呟いたのが聞こえてしまった。
マジでこの人政治家に向いてないな。
「それで幾つご入用ですか?」
「あの品質ならば1つで十分すぎる程だ、集めるのは相当大変だが魔石でもある程度運用可能だからな」
「わかりました、ここですぐにお出ししても良いですか?」
「ああ、頼む。 ヴァルター受取り準備を」
「承知いたしました。 ではイオリ殿こちらにお願いします」
ヴァルターさんが何やら中央に封印石がはめ込まれたボールのようなものを差し出してきた。
中ほどからパカっと空き中に魔晶石を収めるようになっているようだ。
◯ンスターボールみたいだな……。
そこに魔晶石を1つ取り出して収めると、ヴァルターさんが深くお辞儀をしてそれをまた別の箱に収めて鍵をかけた。
厳重に保管する必用があるのだろう。
「いつモンスターが押し寄せてくるかわからぬ、いつでも都市防衛の魔道具が使用できるように、これから魔晶石の設置に向かう。 イオリも付いて来るが良い」
「はい、お供させていただきます」
一緒に封印の間を退出して、その足で領主館の地下まで随行した。
地下への階段は、普通に探したのでは見つからない様な場所にあり、他の普通の客間と同じ作りの扉の先にあった。
地下へ降りると装飾などのない頑丈そうな扉があり、ジークフリード様が手を扉に当てると、キィンという甲高い音がして自動的に扉が開いた。
「この扉は我が一族しか開けることが出来なくなっているので触らないように」
「中も壁など不用意にあちこち触ると危険なので注意をしてくださいませ」
「あ、はい、承知しました」
罠とか仕掛けられているのだろうか? 一緒に随行しているヴァルターさんが補足説明をしてくれた。
まあ、大事な場所だろうし罠くらいあるのが普通か。
魔道具だと思われる明かりがつき、20mほどの通路の先にもう1つ同じような扉が見えた。
それほど広くない通路を後について慎重に進んでいく。
再びジークフリード様が手を扉に当て、さっきと同じようなキィンという音の後に扉が開いた。
扉をくぐった先には、小さめの事務所くらいの広さの部屋に所狭しと真鍮の機械のようなものやダクトやが張り巡らせられており、中央にはボタンやダイヤルのついたパネルが設置され、真空管のように宝石のような物がいくつも飛び出していた。
各所に魔法陣のような物が描かれていて、魔法的な機械なのだとは分かるが、ファンタジーというよりは、ここだけスチームパンクの世界のようだった。
「見えている部分は全体の一部ではあるが、これが我が領の都市防衛用の魔道具『ニートリガーバギアーゲナーラートアー』だ!」




