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76話 工房での攻防

 ドグラスの親父さんの工房で、質問攻めをのらりくらりとかわしながら防具の調整をしてもらう。

 まあ、加工方法なんぞ答えようが無いというだけなので、ダンジョン産だと適当な事を言ってしまった。


「調整代に付け加えてコレを渡すから、あんまり詮索しないでナイショにしといてくれ」


「おお!? また見たことのねぇ酒が出てきやがったな。 だが、並の酒でドワーフの口を塞げると思うなよ?」


「似たようなのがあるかは知らないが、コイツは錬金術の技で作られた非常に強い火酒だ。火がつくから工房には置いておかないほうが良いぞ」


 今回渡した酒は『スピリタスウォッカ』というアルコール度数96%の消毒や燃料にまで使えてしまう蒸留酒である。

 元の世界で蒸留酒は結構古くからあるが、ここでは錬金術師達が蒸留という技術を秘匿しているので蒸留酒も出回ってないようなのだ。


「まあ、コイツも他の飲み物と割って飲む酒だ、ストレートで飲むのは素人にはオススメできない」


「ああ!? ドワーフに向かって酒のことで素人なんてヌカすたぁいい度胸だ! 御託は要らねぇから、さっさと飲ませやがれ」


 論より証拠とばかりに、小さなショットグラスに『スピリタスウォッカ』を注いで渡す。


「なんだよ坊主、馬鹿にしてんのか!? 酒蔵の味見より少ねーじゃねーか、そんな舐める程度じゃ無くてもっとでかいのでよこせや」


「御託は要らないんだろ? 飲めばわかる」


「言ったな坊主、こんな量じゃ味見にもならんわ」


 俺からグラスを奪い取り、ドグラスの親父さんは一気に『スピリタスウォッカ』をあおった。


 飲んだ瞬間に親父さんの目がカッと見開いた。

 咽たりしないあたり、ドワーフってやつは本当にアルコールに強いんだな。

 そのまま、ワナワナとグラスを見つめてしばし黙り込んでしまった。


「あんた、どうしたんだい?」


 固まった親父さんに奥さんが声をかけるが、反応が無い。


「こ……こいつはスゲェ、喉がカッと熱くなったと思ったら、その後に甘みが広がっていく癖もエグミも色もねえのに、この量でガツンときやがる。 とんでもねぇ酒だこいつは気に入ったぜ」


 奥さんにもグラスを渡す。見た目が若いのでちょっと渡すのに抵抗があるが……。


「かなり強いので、そのつもりで」


 と、奥さんの方には注意を入れた。

 注意はしていたが奥さんの方も一気にグラスをあおった。

 咽たり顔をしかめたりもしないので女性でもドワーフはドワーフということらしい。


「なんだいこりゃあ、気付けみたいに効くね、喉がかっぴらくよ」


「まあ、ワインの酒精が1割5分ってところに対して、こいつは9割5分以上が酒精なんだよ、どんな飲み物にでもこいつを1割も混ぜたら、それはもうカクテルって酒だな」


「こんなもんを知っちまったら、今まで飲んでたやつは水みたいなもんじゃねーか! これを作ったやつは、随分と酒の神に愛されてんだな! 良いだろう、詮索もしねぇし黙っててやるから、いくつか置いてってくれ、これ一本しかねーってわけじゃないんだろ?」


 とりあえず20本渡したら、タダ調整をしてくれたので『本みりん』もつけといた。

 お陰で吸い付くような一体感のある防具となった。

 接近する気はないが、破片とか爆風とかからは身を守りたいからな。



 追加情報を貰いにギルドへ顔を出すと、同じような考えの冒険者達でごった返していていた。


「ああ、イオリさんちょうど良いところに!」


 ついた途端エマに呼び出しをくらった。


「えーと、何か?」


「至急ご領主の館に向かって下さい、名指しでお呼び出しがかかっています」


 一瞬ギルド内が静かになったあとに、ざわざわとしだした。

 これは、お前のようなやつが、ご領主様からお呼び出しとかチャンチャラおかしいぜー的なやつか!?

 登録の時、アリーセの推薦であっさり冒険者になってしまったから、ガラの悪い先輩冒険者に絡まれるイベントをやっていないので、ちょっと憧れがあったりするのだが……。

 スゲーな、ご指名だってよ、あいつやるな!的な憧れ半分嫉妬半分の目を向けられる方でも良いな!


「あいつ領主様に呼び出しだってよ」


「どうせ、コリンナ様絡みだろ?」


「今回の愚痴聞き係じゃねーか?」


「可愛いから尻を借りたいんじゃねーか? というか俺が借りたい」


 最後誰だ!? どことは言わんがキュッとなっただろ!

 なんか俺を見る眼差しが、妬みとかじゃなくて、生暖かい眼差しばかりなのだが、ここの領主慕われて無いのか?

 いや、逆にむしろ親しまれすぎているのかもしれない、過去のアリーセやスコットのおっさんの態度から、口に出すのも憚れるほど身分差が明確なのに、領主のジークフリード様関連の話題は良い事も悪い事もよく出てくる、ところが他の貴族の話となると、周りに誰もいないような時でも、一切話題には出ないのである。



 領主の館に向かうのに一旦白兎亭で着替えをする。 至急なのに全く急ぐことができないのは、この社会の悪しき習慣だと思う。


 着替えたあとは、少し小走りで領主の館に向かう。

 非常事態宣言がなされている為か、いつもより出くわす衛兵の数が少なく、足早に領主の館に向かっても止められる事なく無事にたどり着いた。

 正面と裏口のどちらから入るか少し悩んだが、なんで呼び出しを受けたのかわからなかったので、無難に裏から入る事にした。


「こんにちは、コリンナ様の家庭教師のイオリです。 今日はジークフリード様にお呼び出しを受けて参上致しました」


 年若いメイドさんが居たので要件を伝えた。


「あ、はい、少々こちらでお待ちください」


 すぐにヴァルターさんが迎えに来てくれ、以前も入った事のある封印の間に通された。

 封印の間には既に疲れた顔のジークフリード様が待っており、挨拶も打ち切られすぐに着席を促された。

 そんなに急ぎの要件なのだろうか?


「急に呼び出してすまない」


「いえ、お気になさらないでください。コンディションポーションの追加でしょうか?」


 以前渡したコンディションポーション効果時間が短いことと疲れた顔から想像するに、もっと欲しいのでは? という考えした正直浮かばなかった。


「それも確かに欲しいところではあるが、今回呼んだのは別の理由だ」


 何やら深く考えていいて、言うべきか言わざるべきかで迷っているような様子に思えた。


「イオリ、魔晶石を譲ってくれ」

ぎりぎりアウト……orz

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