75話 アルケミーショップ再訪
間に合わなかった……orz
スタンピード発生の知らせは、領主からの発表もあり、またたく間に街中に広がった。
戦える者は戦闘の準備を、戦えない者は避難の準備を、目ざとい商人はそれらを助ける品物を売る準備を、街中が慌ただしく動き始めた。
そんな中俺は、どうせ前兆現象扱いになるだろうと、街の近場でスタンピードで使えるかもしれないゲームで強かったアイテム類の数々の使用実験を行いまくっていた。
結果として、吹き飛んだり、吹き飛んだり、または吹き飛んだりして、すぐに使えそうな物が無かったのだが。
とりあえずHPを上げていなかったら即死だったと思う。
魔導銃の水と土も予想通り反動が強く、特に土は撃った瞬間に大砲のように岩が出現し、反動で手からスッポ抜けた魔導銃が顔面を強打して悶絶するハメになった。
水は水で消火栓の強化版ように吹き出し、一生懸命押さえていたら俺自身が後ろに吹き飛んでしまった。
これを撃つには銃自身を相当重たくするか固定する必要があるだろう。
魔石のグレードをBランクまで落せばそのまま規模縮小版のようになって使いやすかったが、正直なところ弱くする位ならアリーセに渡した弓矢や他のクロスボウの方が強いというジレンマである。
さらにそれらに付随するスキルを俺が使いこなすまでの時間がとれず、間に合わない可能性が高い思われる。
一瞬他の冒険者に装備品の配布も考えたが、後のことを考えてそれは流石に自重した。
呑気に検証や実験をするような時間も無いので、ゲームの武器防具をこの世界の専門家に改造して貰う事にした。
「というわけで、品質は問わないのでコイツを魔導銃に改造してくれ」
「何がというわけなのかわからないけど、このアンドレア・ワトスン・プンパー・ローゼンに任せておけばどんな魔道具でもたちどころに作りあげちゃうよー」
「よくおぼえてないが、前と名前の後半が変わってねーか?」
「芸名?」
「いや、もうそれはいいから」
「え、何が?」
というわけで、アルケミーショップにやってきた。
魔導銃の弾は魔石のみで薬莢の排莢を考えなくて良いので、弾倉式かベルト給弾式で連続して魔石弾を供給するだけで連射が可能なはずだ。
最悪、魔石弾を給弾して発射する部分だけ作成して貰えれば、チートツール品質を向上させれば問題ないはずだ。
「それでこれ何?」
「海外の有名FPSゲームのコラボ武器、FM‐SCARU‐HとFM‐MININI‐MK3だな」
「えふえむすか……、えーと何それ?」
「小銃と機関銃かな?」
ワトスンが、俺が渡した銃を突っついている。
この2つはよくある他のゲームとのコラボアイテムである。
コラボという名のものに時空を超えたとか異世界からの来訪だとかの強引なシナリオで展開される期間限定イベントの報酬アイテムだ。
ゲームバランスの問題で実物の銃と比べて随分と弱くされているが、ベースとしては十分だろう。
「これが弾丸で、この弾倉にこっちは20発、こっちは200発入れられて、1回1回弾込めをしなくても良くなっているんだ」
「なんだって!? それは凄いアイディアじゃないかー!」
「それで、撃ったときの反動を利用して、この部分が前後に動いて、次弾が装填される仕組みになっているんだ」
さらに、銃床の存在と必要性、照準器、銃身の旋状、弾丸発射の仕組み等の知っている説明を重ねた。
元の世界で実際の銃を触った事があるわけではないので、海外の銃のドキュメンタリーを見て得た程度の知識しかないが、とりあえず実物が目の前にあるから何とかなるだろう。多分。
「これ、もう完成されているよ、改造なんて必要ないと思う。 参考のためにちょっとバラさせて欲しいとは思うけど」
「仕組みがわかるならバラしてもらっても構わないから、スタンピードでモンスターがこの街に到達する前に、コイツを魔石弾が使用できるように改造して欲しいんだ」
「うーん、魔石の発射機構はそんなに難しくないから多分大丈夫だと思うけど、問題なのは魔石弾の方なんだよ。 そんなに沢山の魔石を今から揃えて加工する時間はないと思うな」
「別に弾は1発で構わないから、火か風の属性で頼む」
「それで良いなら大丈夫だけど1発でどうするのさ?」
「それはヒミツです」
1発あればチートツールで複製が出来るし、コラボアイテムという特性から、どちらの銃も同じ7.62mmNATO弾モドキを使用するので弾丸の共有が可能だ。
「まあ、個人的にこの魔道具は気になるし、スタンピード対処の助けになるなら引き受けるよ」
「よろしく頼む。 材料費無くて作れないとかあったら困るから金は先払いで渡しておく、幾らだ」
「やってみない事には何とも言えないなぁ」
「なら、旧王国金貨100枚渡しておく」
小袋に入れた金貨をどさりとカウンターに置く。
「ちょこっと改造するだけでこれは貰い過ぎだよ。旧王国金貨なら10枚でもお釣りと給湯器がついてきちゃうよ」
「いや、給湯器は要らんわ。 特急料金と今回のスタンピードを乗り切ったらワトスン君のオリジナル魔導銃を作成してくれ、その依頼料も含まれてると思ってくれて構わない」
「そういうことなら、腕によりをかけてやらせてもらうよ!」
よし、これで準備の1つは整いそうだ。
アルケミーショップを後にした俺は、その足でドグラスの親父さんの店に迎った。
店内は準備の為か結構人が多かった。
「親父さんいるか?」
店番をしていた髭面のオットー君11歳に声をかける。
「ああイオリのお兄ちゃんこんにちは。お父さんなら工房に居るから入っちゃって良いよ」
「良いのか? じゃあ遠慮なく」
「そこのドアの奥だよー」
オットー君11歳に礼を言って工房に入ってみると、ドグラスの親父さんが奥さんの相槌でカンカンとリズミカルに剣を打っていた。
「おう、坊主か! お前も装備の手入れかぁ!?」
ドグラスの親父さんが俺に気がついて、手を止めることなく怒鳴る。
「忙しそうだな」
「そりゃあそうよ、スタンピード前に装備をメンテナンスしようって客がいっぱいきてんのさ」
奥さんの方も手を止めず大声で答えてくれた。
「坊主もメンテナンスなら、その辺に置いとけ!」
「ここで買った物じゃなくても調整とかしてもらえるか!?」
「おう調整も修理もやってやるぞ!」
カンカンやってる鍛冶の音が結構大きいせいで、つい大声になってしまうが、了承がもらえたので、いつぞやバラしたりした【伝説のハンターメイル】を一式取り出し、ごとりと置いた。
「コイツが俺に合うように調整を頼む」
ふと鍛冶の音が消え、ドグラス親父さんが俺が出した鎧を凝視している。
「なんだこの恐ろしい鎧はああああああ!?」




