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74話 副ギルドマスター

 俺とアリーセは2階にある商談室に案内をされた。


「へぇー、私ここに入るの初めてだわ」


「そうですね、こちらは普段は依頼を出される方が利用する場所ですから、依頼を受ける側はあまり用が無い場所ですよね」


「俺らが依頼を出したいときもこっちにくるのか?」


「詳細な打ち合わせ等が必要な依頼でしたら、こちらを利用する事もありますが、作業の手伝いや訓練相手の募集など簡単なご依頼でしたら窓口でそのまま出せますよ」


 軽くエマが依頼を出す際の手続きについて教えくれたので、今度魔法訓練依頼でも出してみようかな。



 話もそこそこに、すぐに商談室にたどり着きドアを案内をしてくれたエマがノックすると、返事を待たずにドアを開けた。


「失礼します。アリーセさんとイオリさんをお連れしました」


「ご苦労、わざわざ済まないね。 私はパトリック・ワトスン、この冒険者ギルドフェルスホルスト支部の副ギルドマスターだ」


 そう渋い声で名乗っ人物を見て、少し驚いた。

 何故なら副ギルドマスターと名乗ったそのその人物というのが、糸目でふくふくしいハチ割れの猫だったからである。

 燕尾服にネクタイが妙に似合っている、獣成分多めの獣人のようだ。  


「はじめまして、Cランク(仮)イオリ・コスイです」


「え、あ、Bランク、アリーセ・ベルガーです」


「まあ、かけたまえ、エマ君2人にお茶をお願いできるかね?」


「承知しました」


 エマが一旦下がり、俺とアリーセが席に着く。

 対面に座ったパトリックをマジマジと見そうになる。大型犬くらいの大きさではあるが、どう見ても服を着た猫だ。

 ちょっと、いやかなりモフりたい衝動にかられるがぐっと我慢をして平常心を装う。


「ふむ、アリーセ君は先祖返りした獣人が珍しいようだね」


 アリーセは自重なしにガン見していたようだ。


「あ、す、スミマセン!」


「いやいや構わんよ、ギルドでは滅多に表には出ないし、こう見えても娘以外のご婦人方には結構人気があるようだからね」


 はっはっは、とダンディな様子で笑うが、普通のモテるとは多分ちょっと違うと思う。

 しかも娘って、所帯持ちなのか、奥さんがどんな人か気になるな。


「あれ? ワトスンってことは、もしかしてアルケミーショップの?」


「おお、娘のアンドレアの知り合いなのかね?」


「給湯器は買いませんでしたが、魔道具を買わせて頂きましたよ」


「ほほう、それは今後とも是非御贔屓にしてやってくれると嬉しいね。 どうも商い下手で携行水以外売れて無いようだが、魔道具の方の品質は私も保証させてもらうよ」


 まあ、商売は下手くそってか売る気があるのか怪しい感じだったな。


 少々の挨拶と雑談をしていると、エマがお茶を持って来てくれ、全員に行き渡るとパトリックが姿勢を正した。


「さて、では森でケイブトロールを発見した時と戦闘した際の状況を詳しく教えてもらええるかね?」


「承知しました」


 俺とアリーセで、遭遇した時にゴブリンを蹴散らしていた部分や、通常の矢が通用しなかった事、魔法攻撃が良く効いた事など詳しく説明をしていく。

 魔導銃を魔改造して吹き飛ばした事やアリーセの弓と矢の事は流石に言わなかったが……。


「これは確定か……」


 話を聞いていたパトリックが、ぼそりと呟いた。


「確定……ですか?」


 耳の良いアリーセがパトリックの呟きを拾って聞き返す。


「うむ、すでに聞いていると思うが、数々の異変はスタンピードの前兆現象だというのが大方の見当だ。 前回のスタンピードの時は異変が発見が遅く、森にモンスターが溢れ始めた時に初めて確認がされた為に、こちらの準備が間に合わず被害が大きかった。 まあ、我々が気がついていなかっただけで、前兆現象はもっと早くからあったのかもしれないがね」


 パトリックは一旦言葉を切ると、お茶を一口飲んだ。

「あつっ」って聞こえたから、やっぱり猫舌なのかもしれない。


「君達以外からもすでにいくつか異変についての報告は上がってきているが、まだ数が多くないうちに元々森に居ないはずのモンスターを発見出来たというのは幸運だった。 君達が目撃情報だけでなく、その証拠となる物まで持ち帰ってくれたお陰で、ほぼスタンピード発生が確定となったと言っていいだろう」


 話を聞いていたアリーセが、首を傾げた。


「あの、普段居ないモンスターがいただけで確定出来るのですか?」


「もちろん、普段居ないはずというだけでは確定は出来ないが、1体だけではなく3体であったこと、討伐して素材の提出があり、イオリ君が高レベルの鑑定持ちだったお陰で、そのモンスターが本来ダンジョンでしか見られないケイブトロールであると判明したこと。 スタンピードはそういう本来は居ないはずのモンスターが大量発生する現象であることから、偶発的なものでなく前兆現象だと断定したわけだ」


「なるほど、ではどの程度でそのスタンピードが発生する予測でしょうか?」


「発生という意味では既に発生していると考えるべきだろう。 この街までモンスターが押し寄せてくるまでと言うならば、早くて3日遅くとも一週間以内だと推測している。 街の近くまでゴブリンが出てきたことも、強力なモンスターから逃げてきたと考えられるからそれくらいだろう」


 状況が整いすぎているようだ。 俺がやらかした関係ない怪現象扱いの数々は、これのせいって事になったようだが、本当に俺のせいじゃない事を祈るばかりだ。


「10年前は最初の発生の報から1日も時間が無かったのだが、今回は住民の避難が間に合うし、罠等を準備する時間もあるのが不幸中の幸いというやつだろうな」


「規模なんかも予測が出来たりしますか?」


「正確なところは正直わからないが、一般的には前回のスタンピードから期間が短ければ規模が小さく、長ければ規模が大きくなると言われている。 10年は短くはないが、それほど長いとも言えない程度のはずだ」


「前々回は何年前だったんですか?」


「まだ私が産まれる前だというから、40年以上前だな」


 この猫、じゃなかったパトリックは40歳以上なのか。


「ということは、前回よりも規模が小さく、準備期間もあると言う事ですね?」


「そうなるが、脅威であることに変わりはない」


 まあ、アリーセの矢が効かないようなモンスターがワラワラ来たら楽観は出来ないか。


「さて、娘の知り合いということで少々話しすぎてしまったな、君達には追って緊急依頼の通達があるだろう、それまでしっかり準備と休息をしてくれたまえ」


 俺とアリーセは、しっかりお茶を飲み干してから、商談室を後にした。





そういや、俺のランクはいつまで(仮)なんだろうか?

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