72話 解体しよう
※極力描写は抑えていますが、モンスターを解体する描写があります。
解体作業はトロールの皮膚が硬くあまりナイフが通らないせいで遅々として進まなかった。
だんだんイライラしてきた様子のアリーセが俺のミスリルソードを使ってアリーセが大雑把にゾンゾンと切り分けていった。
教えてくれるんじゃなかったんか……。
「この剣よく切れるわね!」
「いや、おい……。 あー、まあいいか……」
目的を忘れたアリーセは置いておいて、そこそこ手強いモンスターが複数出てきたので、解析ツールで解析して比較してみることにした。
比較の結果、予想通り同じ種類のモンスターのコードは前半部分が同じであった。
しかし、末尾は複数行に渡り結構ズレがあり、一緒に居るから次の番号というわけでは無さそうだ。
まあ、一度コードを登録したモンスターは、2体目以降は多少打ち込みが楽って事はおぼえておこう。
ふと、思いついたことがあるので、試してみよう。
「なあアリーセ。 もう一体のトロールは俺が解体してみて良いか?」
「えー? あ、あーそうか。 ……やってみて」
一体目をあらかた解体していたアリーセが、もう一体の方に剣を振り下ろそうとしていたところで、俺に解体を教えようとしていた事を思い出したようだ。
FADはハンティングゲームではなかったのでモンスターを倒すとドロップアイテム等を残し消滅してしまう。 そのため剥ぎ取り等のスキルは無かったが、料理のスキルで肉や魚を捌く、ということは出来たのだ。
つまり料理スキルでモンスターの解体が出来るのでは? と考えたのである。
特に体のどこかを酷使するスキルでもないので、チートツールでスキルを身につけても酷い事にはならないだろうという希望的観測もある。
さっそく料理LV1を追加してみたが、特にどこかが痛いとか、気分が悪いなど症状は出なかった。
なんともなさそうなので料理レベルを1つずつ上げてみるとLV3あたりで頭痛が始まったのでここで止めておく。
様々な料理法やレシピ等が頭の中に浮かぶ。 ずっと忘れていた事を思い出したかのような不思議な感覚だ。
アイテムボックスから、ドグラスの親父さんに貰った剥ぎ取り用のナイフを取り出して解体を始めてみると、食肉加工のやり方ではあるが、どのように解体すれば良いのかがなんとなくわかった。
「どうやらうまくいったようだ」
しかし、手順はわかっても皮が丈夫過ぎてナイフがうまく入らない。
ミスリルの剣ではあっさり切れていたので、それを使えば良さそうではあるが、困ったことに剣での解体だとスキルが適応されず不思議な事にどう解体すれば良いかが途端にわからなくなってしまった。
「ああそうか、物理防御さげて解体が終わったら戻せば良いかもしれない」
最初に発見したトロールのコードをコピーして、解析ツールで出てきたコードの差分だけ打ち直す。
頑健と物理防御力を1にした。
その途端、肉や骨等が自重に負けて潰れ始めたので慌てて数値を100にする。
崩壊がおさまったところで、ホッと胸を撫で下ろし、剥ぎ取りナイフで改めて解体を始める。
「おー、なかなか上手に解体するじゃない。 私の教え方が良かったのかしら?」
「ソーダネ、ココハ、ググット、ヤルンダッタヨネ」
「なんで棒読みなのよ!?」
一部組織が潰れてしまっていたが、サクサクと解体作業が進む。
人型のモンスターを解体しているが、ブロック肉を切っている程度の感覚しかない事に違和感がある。
この世界で生きていくならその方が都合が良いのは確かなのだが……。
「これ全部持って帰れないよな? どの部分を持って帰れば良いんだ?」
「うーん、トロールはこの辺に居なかったし私も初めて扱うから詳しくは知らないけど、定番で考えるなら討伐証明に右耳と魔石と皮と大腿骨に肩甲骨かしらね」
「肉や内臓は?」
「薬になったり食べられるモンスターなら持って帰るけど、残念ながらわからないわ、ごめんね」
さくっと丸ごとアイテムボックスに入ったら良かったのに……。
「皮はどの部分を取れば良いんだ?」
「背中とお腹の部分があれば十分だと思うわ」
アリーセに言われた部分をさくっと切り分けてから、チートツールで下げていたパラメータを元に戻す。
小分けになっている部分毎にやらないと駄目かと思ったが、一括でもとに戻ったので手間はかからなかった。
「持って帰らない部分の処理はどうするんだ?」
「うーん、放置しておけば他のモンスターが勝手に処分してくれるんだけど、これだけ大きいと回収を頼んだ方が良いかもしれないわね」
「回収?」
「ドラゴンの時もやったけど、素材回収の為にギルドに依頼を出すのよ。この辺ならモンスターも強くないし街から1日で回収して戻れるから、低ランクの冒険者達のお小遣い稼ぎにはちょうどいいわ」
なるほど、ついでに解体や売れる部位なんかも学べるってやつか。
「あ、でも今はこんなのが出てくるから駄目か……。 もったいないけど、諦めるしかないわね」
「あー、確かにまたトロールが出てくるかもしれないなら、低ランクの冒険者に依頼を出すわけにもいかないか」
自分も冒険者になったばかりなのを棚に上げて、アリーセに同意をしてみる。
ステータスに各部位のサイズなんて項目があったら小さくして持って帰る事ができるのに残念だ。
解析ツールは便理ではあるが、ステータスにあるものしかわからないし、出てくるコードは長くコピペも出来ない等、制限も多いのである。
俺とアリーセは行動に支障が無い程度までの素材を回収して、報告の為に街に帰る事にした。
素材を持てるだけ持とうとしたら、アリーセに動けなくなるまで素材回収しちゃうと、イザって時に困るから、ほどほどにしておくのが長生きするコツだと教わった。
「大量に素材を集める予定ならば、最初から人数を揃えて行くか荷運び専門のポーター雇うのよ。
維持費がかかるけど、裕福な人達だと奴隷を使う場合もあるわね」
「まだ見たこと無いけど、奴隷とかいるんだ?」
「居るわよ? 犯罪奴隷に借金奴隷と戦争奴隷ね、扱い方は人それぞれだけど、あんまり酷い扱いをしていると武器や防具がボロボロの冒険者みたいな感じで、白い目で見られるわ。 奴隷の扱いの悪い人から依頼とか来たら信用出来ないわね、報酬が良くても踏み倒されたり違法な事やらせるとかあるから、イオリも引き受けない方が良いわよー?」
「なるほど、勉強になる」
道すがらそんな話をしながら、特にモンスターとの戦闘などもなく無事に街へと戻った。 日は沈んでしまったがギルドに報告に行こう。